短編小説 | 第一車両に乗りたガール
「万が一、事故があったら大変だから先頭車両には乗ってはいけませんよ」
母は心配性だ。私が生まれた頃に脱線衝突事故があったから、電車に乗るときは「絶対に第一車両に乗るな」と口癖のように言う。確かにそうなのかもしれないけれど、私は電車が好きなのだ。先頭車両に乗って、運転手を眺めると心が安らぐ。友だちも「女の子なのに電車が好きなんて珍しいね」なんて言う。電車が好きなことに男女差なんてないと思うけどね。理屈じゃないんだから。
まわりに誰もいないのなら、床に耳をつけて電車が加速するときの音の変化を聞きたいものだ。けれど、さすがにそこまでの勇気は持ち合わせていない。だけど、通学のときは、第一車両に乗り込むことを楽しみにしている。
いつものように、第一車両のいちばん前の入り口から乗り込み、運転を見学しようとしたら、すでに小さい子とそのお母さんがいちばんいい場所に立っていた。あぁ、残念。今日は運転を見られないか。思わず「はぁ」とため息が出た。
私のため息は想像以上に大きかったらしい。
「お姉ちゃん、どうしたの?」と男の子が聞いた。
「ううん、何でもないよ」と咄嗟に答えた。
「そうなの?」男の子は怪訝そうに聞く。
「すみませんね、お姉さん」と男の子のお母さん。
「いえ」と私。
電車は普段通り走っていく。時おり「ねぇ、お母さん見て見て」という男の子の声が響く。私は「いいなぁ」と思いながら男の子のほうを見つめていた。
そのとき、男の子がお母さんにヒソヒソ話を始めた。時おり私のほうを眺めながら。
「あのぅ」と男の子のお母さんが振り向いた。
「この子ことが気になりますか?」
男の子の母親はなにか勘違いをしたらしい。私が興味があるのは、運転手だけなのに。
「いいえ、何でもないです」と私は言った。
「あら、そうですか?この子のこと、抱っこしてみますか?少し重いかもしれませんが」
男の子が言った。
「ぼく、お姉さんのこと好きだよ。抱っこしてほしい」
私の下りる駅はまだ先だ。それに、むげに抱っこを拒否すると、男の子は傷つくかな?
「私もかわいいな、と思っていたのよ」
「抱っこしてくれる?」
「うん、いいよ。よろしくね」
私は男の子を抱っこすることになった。見かけによらず重かった。うわぁ、ホントに重い。え~、こんなに重いことってあるの?ウソでしょ?
目が覚めると、モモ、ココ、そしてルナまでもが私のお腹の上にのっていた。
にゃ~、ニャー、にゃ~。
時計を見ると、7時半を過ぎていた。そうだ!今日、お母さんは出かけるって言っていたんだ。
私はあわててベッドから飛び起きた。ヤバい!遅刻する。あわてて着替えて、駅に猛ダッシュした。急がねば。
~おわり~
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