ルジャンドルの陪微分方程式の因数分解法による解法
上の記事でエルミート演算子の固有値問題の因数分解法による解法を示した。過去に調和振動子や水素様原子の動径方向の固有値問題に適用したが、今回は趣向を変えてルジャンドルの陪微分方程式に適用してみる。
問題の確認
ルジャンドルの陪微分方程式は
$$
\begin{array}{l}
\lbrack -(1-z^2) \frac{d^2}{dz^2} +2z \frac{d}{dz} + \frac{m^2}{1-z^2} \rbrack f(z) = a_j f(z)
\end{array}
$$
と表される。この微分方程式の固有値$${{a_j}}$$を用いて、水素様原子の軌道角運動量の自乗が$${{a_j \hbar^2}}$$と書けることがよく知られている。すなわち、軌道角運動量の自乗の固有値と固有ベクトルが知りたければ、
$$
\begin{array}{l}
A_0 = -(1-z^2) \frac{d^2}{dz^2} +2z \frac{d}{dz} + \frac{m^2}{1-z^2}
\end{array}
$$
の固有値問題を解けばよい。
因数分解
$${{A_0}}$$を因数分解して
$$
\begin{array}{rcl}
A_0 &=& \theta_0^\dagger\theta_0 + c_0^\mathrm{max}\\
\end{array}
$$
の形にするには、
$$
\begin{array}{rcl}
\theta_0 &=& \sqrt{(1-z^2)} \frac{d}{dz} + \frac{m}{\sqrt{1-z^2}} \\
\theta_0^\dagger &=& -\frac{d}{dz} \sqrt{(1-z^2)} + \frac{m}{\sqrt{1-z^2}} \\
c_0^\mathrm{max} &=& 0
\end{array}
$$
とすればよい。微分演算子は歪エルミートである、すなわち$${{\frac{d}{dz}^\dagger = -\frac{d}{dz}}}$$であることに注意する。$${{A_0}}$$が$${{\sqrt{(1-z^2)} \frac{d}{dz}}}$$と$${{\frac{m}{\sqrt{1-z^2}}}}$$について$${{2}}$$次であることを考えればこの形が推定でき、地道な計算の後に確かめられる。
因数分解部分をひっくり返す
因数分解部分をひっくり返すと、
$$
\begin{array}{rcl}
A_1 &=& \theta_0\theta_0^\dagger +0\\
&=&
-(1-z^2) \frac{d^2}{dz^2} +2z \frac{d}{dz} + \frac{(m+z)^2}{1-z^2} + 1
\end{array}
$$
となる。$${{A_0}}$$と$${{A_1}}$$の第$${{3}}$$項目同士を比較すると、$${{m \rightarrow m+z}}$$という対応が読み取れるので、
$$
\begin{array}{rcl}
\theta_1 &=& \sqrt{(1-z^2)} \frac{d}{dz} + \frac{m+z}{\sqrt{1-z^2}} \\
\theta_1^\dagger &=& -\frac{d}{dz} \sqrt{(1-z^2)} + \frac{m+z}{\sqrt{1-z^2}} \\
\end{array}
$$
とすればよく、
$$
\begin{array}{rcl}
A_1 &=& \theta_1^\dagger\theta_1 + 2 \\
\end{array}
$$
と因数分解ができて、
$$
\begin{array}{rcl}
c_1^\mathrm{max} &=& 2
\end{array}
$$
が得られる。
以降、帰納的に
$$
\begin{array}{rcl}
A_j &=&
-(1-z^2) \frac{d^2}{dz^2} +2z \frac{d}{dz} + \frac{(m+jz)^2}{1-z^2} + c_{j-1}^\mathrm{max} + 2j
\end{array}
$$
であることが言えて、
$$
\begin{array}{rcl}
\theta_j &=& \sqrt{(1-z^2)} \frac{d}{dz} + \frac{m+jz}{\sqrt{1-z^2}} \\
\theta_j^\dagger &=& -\frac{d}{dz} \sqrt{(1-z^2)} + \frac{m+jz}{\sqrt{1-z^2}} \\
c_j^\mathrm{max}
&=& \sum_{k=0}^{j} 2k\\
&=& j(j+1)
\end{array}
$$
となるので、すべての固有値$${{a_j = j(j+1)}}$$が求まった。
固有関数
微分方程式
$$
\begin{array}{rcl}
\theta_j \phi_{j,m}(z) &=& 0 \\
\end{array}
$$
を解くと、
$$
\begin{array}{rcl}
\theta_j \phi_{j, m}(z) &=& 0 \\
\lbrack \sqrt{(1-z^2)} \frac{d}{dz} + \frac{m+jz}{\sqrt{1-z^2}} \rbrack \phi_{j, m}(z) &=& 0 \\
\lbrack \frac{d}{dz} + \frac{m+jz}{1-z^2} \rbrack \phi_{j, m}(z) &=& 0 \\\frac{1}{\phi_{j, m}(z)} \frac{d}{dz} \phi_{j, m}(z) &=& \frac{j-m}{2(z+1)} + \frac{j+m}{2(z-1)} \\
\phi_{j, m}(z) &=& \exp(\frac{(j-m) \log|z+1|}{2} + \frac{(j+m) \log|z-1|}{2}) \\
\phi_{j, m}(z) &=& |z-1|^{\frac{j+m}{2}}|z+1|^{\frac{j-m}{2}}
\end{array}
$$
が得られる。ただし積分定数は無視した。
よって、固有関数$${{\psi_{j,m}(z)}}$$は
$$
\begin{array}{rcl}
\psi_{j,m}(z) &=& \theta_0^\dagger \theta_1^\dagger … \theta_{n-1}^\dagger \lbrace |z-1|^{\frac{j+m}{2}}|z+1|^{\frac{j-m}{2}} \rbrace
\end{array}
$$
となる。
例えば、$${{(j,\, m) = (2,\ 0)}}$$のとき、
$$
\begin{array}{rcl}
\psi_{2,0}(z) &=& \theta_0^\dagger \theta_1^\dagger \lbrace |z-1|^{\frac{2+0}{2}}|z+1|^{\frac{2-0}{2}} \rbrace
\end{array}
$$
であるが、これを地道に計算すると、
$$
\begin{array}{rcl}
\psi_{2,0}(z) &=& -\frac{4(z-1)(z+1)(3z^2-1)}{|z-1| |z+1|}
\end{array}
$$
となる。水素様原子を考える際には$${{|z| \leq 1}}$$の領域を考えるので、分母は$${{-(z-1)(z+1)}}$$とできて、
$$
\begin{array}{rcl}
\psi_{2,0}(z) &=& 4(3z^2-1)
\end{array}
$$
が得られる。これは確かに有名なルジャンドルの陪関数$${{P_{2}^0(z) = \frac{1}{2}(3z^2 - 1)}}$$の定数倍になっている。
なお、$${{|m| > j}}$$のとき、固有関数が存在しないことが知られているが、これは積分
$$
\begin{array}{rcl}
\int^1_{-1} dz \phi_{j,m}^*(z)\phi_{j,m}(z)
&=&
\int^1_{-1} dz \lbrace |z-1|^{\frac{j+m}{2}}|z+1|^{\frac{j-m}{2}} \rbrace ^2 \\
&=& \int^1_{-1} dz (1-z)^{j+m}(z+1)^{j-m}
\end{array}
$$
が発散してしまう、すなわちノルムが定義できないためと解釈できる。
この積分が発散することをきっちり証明しようとすると場合分けが面倒なのだが、例えば$${{j+m < 0}}$$の場合、
$$
\begin{array}{rcl}
\int^1_{-1} dz \phi_{j,m}^*(z)\phi_{j,m}(z)
&=& \int^1_{-1} dz \frac{(z+1)^{|j-m|}}{(1-z)^{|j+m|}}
\end{array}
$$
とできる。ここで、
$$
\begin{array}{rcl}
\frac{(z+1)^{|j-m|}}{(1-z)^{|j+m|}} &>& \frac{1}{(1-z)^{|j+m|}} \\
\int^1_{-1} dz \frac{(z+1)^{|j-m|}}{(1-z)^{|j+m|}} &>& \int^1_{-1} dz \frac{1}{(1-z)^{|j+m|}}
\end{array}
$$
であることが言える。もし$${{j+m \leq -2}}$$であれば右辺の積分は
$$
\begin{array}{rcl}
\int^1_{-1} dz \frac{1}{(1-z)^{|j+m|}} &=&
\lim_{t \rightarrow 1} \int^t_{-1} dz \frac{1}{(1-z)^{|j+m|}} \\
&=& \lim_{t \rightarrow 1} \lbrack -\frac{1}{(|j+m|-1) (1-z)^{|j+m|-1}} \rbrack^t_{-1} \\
&=& \lim_{t \rightarrow 1} \lbrack \frac{1}{(|j+m|-1) (1-z)^{|j+m|-1}} \rbrack^t_{-1} \\
&=& \infty
\end{array}
$$
と発散するので、これより大きい$${{\int^1_{-1} dz \phi_{j,m}^*(z)\phi_{j,m}(z)}}$$も発散する。
同様の方針で他の場合も発散することを示せる。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?