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<第23回>「できるリーダー」は、部下を迷わせない

『アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方』 
マイケル・アブラショフ著/吉越 浩一郎訳(知的生きかた文庫・三笠書房)

❶イントロダクション~「海軍一のダメ軍艦」がなぜNO.1になれたのか?

本書は2008年に『即戦力の人心術』として発刊、2015年に改題のうえ文庫化されたロングセラーです。原書の『It's Your Ship: Management Techniques from the Best Damn Ship in the Navy』は2002年に刊行され、全米で90万部突破のベストセラーになっています。

今回は、本書の「訳者のことば」から、気になった部分を抜粋してみます。

”「あの人の言うことなら、なぜか素直にしたがうことができる」そんな人がまわりに一人や二人はいないだろうか。彼らの魅力の秘密が本書でわかる”
”短期間で全米一の優秀な艦に立て直せた秘訣は、働く人々の心を理解し、尊重し、彼らとの絶対の信頼関係を構築したことにある”
”艦長室で待っているのではなく、自分で積極的に艦内を歩き回る”
”仕事のゴールは示すが、「やり方」は部下に任せる”
”提案に対するフィードバックは即座に、オープンにする”
”あなた自身が主人公である艦長となって考え、行動していくように読めばより効果的”

本書は、1997年から1999年まで「ベンフォルド」の部隊指揮官であったマイケル・アブラショフ氏の経験がもとになっています。このベンフォルドですが、「海軍一のダメ軍艦」と本当に呼ばれていました。しかし、成果の上がらない組織を立て直し、柔軟で自主性に溢れる「強いチーム」を、短期間で実際につくり上げたのです。このアブラショフ氏の実話は、海軍の世界だけでなく、ビジネスの世界でも活かせるマネジメント術が満載です。

では早速、読み解いていきましょう!!

❷独断と偏見のお勧めポイント:「行き詰まった組織」をどう変えるか?

部下の身になって、何がいちばん大事かを考えよ

著者は、元アメリカ海軍大佐。会社の役職に置き換えると、部長職をイメージしてもらうとわかりやすいでしょうか。機能不全に陥っていた軍艦ベンフォルドの艦長として、同艦を“海軍NO.1”と呼ばれるまでに大変革し、「アメリカ海軍でその名を知らない人はいない」と言われるまでになった人物ですが、それはベンフォルド退任後の話です。

さて、ベンフォルドの指揮官としての初日、前任艦長の退任式で、アブラショフ氏は愕然とします。約300人の乗組員たちに、惜別の情など微塵も感じられなかったからです。そして、引き継いだのが、いつ辞めてもおかしくない不機嫌な部下たちだったのですから。

ベンフォルドでは実際、多数の退職者が出ていたのですが、じつは当時、有能な人材が海軍から離れていくことが問題になっていました。有能な人材がよりよい場所を求めて転職する、これは、いまの日本企業でも起こっていることですね。
著者は、”海軍の問題とベンフォルドの状況には、共通した問題があるはず”、として、まず海軍を離れる原因の調査や、退職した人の話を聞いてまわるのですが、想像していなかった意外なことがわかるのです。

なんと、艦を離れていく第一の理由は、「上司から大切に扱ってもらえないこと」だったのです。
ちなみに、
第二は「積極的な行動を抑え込まれること」、
第三は「意見に耳を貸してもらえないこと」、
第四は「責任範囲を拡大してもらえないこと」であり、
処遇に対する不満、「給料が安い」は五番目でした。
上位四つの理由から、じつは「過去の上司たちがみな同じあやまちを犯していた」という結論を、著者は導き出します。

そこから、著者が立てた方針こそ、「部下の身になって、何がいちばん大事かを考えてみる」というもので、モットーは「君が艦長だ」、でした。
※これは、「任せる」であり、最近いろいろな会社で問題になっている「放置する」ということではないということを付け加えておきます

その具体的なエピソードが、本書には豊富に出てきます。海軍という特殊な環境ではありますが、泣かせるストーリーもあり、ドラマのワンシーンのような話がたくさん出てきます。また、若き日の著者の失敗談は、リアルな軍隊の恐ろしい緊張感を感じさせてくれます(怖っ!)。

本書の最後には、訳者の吉越浩一郎氏の解説がついていますが、そのなかで、「頭脳、精神、肉体的に、仕事に打ち込める環境が日本の職場には全く整っていない」という指摘をしています。そして本書を、「その環境をつくるために重要なことが書かれた教科書」だと評価しています。吉越氏のお墨付きの本書、悩めるリーダーなら(悩みのないリーダーなど、いないでしょうが)、現役の部長だけでなく、経営層の方も読んでみる価値があると思います。

❸深掘りの勧め:あなたはまだまだ部下をほめ足りない!

称賛は懲罰よりもはるかに生産的なのだ

本書には、”恐怖によって支配したり、子供を叱るように罰したりしても、部下がやる気を出すことはない”と書いています。
ビジネスの世界だけでなく、アメリカ海軍でも同じようです。

本書の事例では、上司と部下のコミュニケーションや信頼関係の築き方やその重要性も書かれています。

一部、内容を紹介しましょう。

・前向きで、直接的な励ましはリーダーシップの本質ですが、実際できている人はどれくらいいるでしょう?
・部下にレッテルを貼っていませんか? 決めつけてはいませんか?
・新人や異動してきた人の扱いがいい加減になっていませんか?
※本書には、自分の子供がどんなふうに海軍で扱われてほしいかを、副長に考えさせるシーンがありますが、これは会社でも同じだと思います。

ほかにも、評価が正しくできたかどうかは、部下が驚くかどうかにあり、驚いた場合は、適切な目標、部下の意見を聞けていなかった証拠であり、部下とコミュニケーションが取れていれば、どのような評価でも部下は納得するという話は、目からウロコが落ちました。

これ以外にも、”マニュアルはすぐ腐る”をはじめ、ビジネスパーソンがすぐに使える思考法がたくさん書かれています。
興味のある人は、ぜひ読んでみてください!

◆今回の名言◆

「未来を考えない者に未来はない。」
ヘンリー・フォード(1863~1947年/実業家、フォード・モーター創設者)

未来は、理想と現実とのあいだにあります。理想は高く、未来は明るく! 未来は自分でつくるもの! ですね。

★おまけ★最近読んでいる本

『日替わり弁当のみで年商70億円スタンフォード大学MBAの教材に 東京大田区・弁当屋のすごい経営』 
菅原勇一郎著(扶桑社)

テレビにも多数出演されている、1日最大7万食を午前中に配達する「玉子屋」二代目社長の著作。なぜ、日替わり弁当1本で年商70億円まで事業を大きくできたのか。原価率53%、廃棄率0.1%という驚異の数字を維持できるのは、なぜか。そこには、現場の配達ドライバーの「弁当空容器回収」マーケティングをはじめ、「言われてみれば」という顧客の希望と現実との差マーケティングなど、商売の本質が書かれています。マーケッター必読の一冊。お勧めです。




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