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世田谷でチェティナードはしごをした日。スリマンガラムA/C:カレー哲学の視点
世田谷にはチェティナードがある。
経堂スリマンガラムモーニングでティファンを食べ、インド映画『グレート・インディアン・キッチン』を観てから、夜はスリマンガラムA/Cでノンベジミールスを食べた徒歩旅行の記録。
チェティナード料理とは
最近全世界でレストランが増殖しており、東京でも一種のバズワードと化している「チェティナード料理」であるが、そもそもどのような料理なのだろうか。
南インドタミル・ナードゥ州の「チェティアール」と総称される商業カーストコミュニティの人々は古来より東南アジアなどとの間で塩や香辛料を中心とした貿易で財産を成した。彼らはその資産で故郷にBangalaと呼ばれる大邸宅を構えた。そこでは、インドでは一般的に食べられないウサギ、鳩、七面鳥などの食材や珍しい香辛料を用いた饗宴料理が多く作られたという。(当時はレストランはほとんどなく、宴会は誰かの家に集まって行われることがほとんどだったため。)
こうした商人が実際に活躍したのは過去のことになるが、かつて繁栄した贅沢な料理のイメージを定型化・デフォルメ化したものが現在外食として流通しているチェティナード料理である。
スリマンガラム経堂でティファンモーニング
もう何度も訪問しているが土日限定で開催されているモーニングティファンが素晴らしいのだ。
南インドでは、朝になると路上や屋台でこういった軽食を売っている人がたくさんいる。ティファンで有名なお店もちらほらあり、わざわざ郊外の方から時間をかけて食べにくるフーディーな人々もいた。
スリマンガラムのティファンモーニングは基本的に毎週土日の7時〜9時に開催されており、南インドでお馴染みのイドゥリ、ワダ、ドーサ、セミヤウプマなどのティファン類が食べられる。
席に着くとまずバナナリーフが目の前に敷かれる。飲み水のコップから水を少々垂らし、バナナリーフの表面を軽く洗う。インドでよくやっていたやつだ。
この際はイドゥリ、ワダ、セミヤウプマを注文。すぐに蒸したてふわふわのイドゥリがやってきて目の前に置かれ、サルビスでぐしゃっと握りつぶされる。細かく砕きながらよく混ぜて食べると美味しいからね。
そこにサーバーから直接サンバルとチャトニがたっぷりかけられ、目の前には海が広がる。このサンバルとチャトニはティファン用に特別に調整された甘く香ばしいもので、お菓子的なジャンキーな中毒性がある。
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イドゥリはウェットグラインダーで大量に仕込んだものを一晩発酵させ、開店前にまとめて蒸しているという。開店直後に行くと自動的にアツアツのものが食べられる。
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スリマンガラムのイドゥリは滑らかで、ある種はんぺんのような食感と弾力がある。貴重な断面写真はこちらだ。ふっくらと均等に膨らんでいることがお分かりいただけるだろうか。
セミヤウプマはバミセリ(vermicelli:イタリア語)という細いパスタをレモンライスのような酸味と香ばしさを付加して仕上げたもので、パスタなんだけどまあ完全にインド料理だ。
ティファンは軽食なので一つ一つは軽いのだが、イドゥリは飲むように食べてしまうのでこのときも気づいたら5つくらい食べてしまっていた。
シェフのマハリンガムさんも次から次へと薦めてくるので断れないのだが、もし薦めて来なくてもおかわりをバンバン頼んでしまう引力がある食べ物だ。
グレート・インディアンキッチン
朝食を食べたら軽くお散歩。東京の街は駅で区切られているからデジタルだが、歩いてみると本当に狭い。繋いだことのないルートを徒歩や自転車でつなぐと景色の見え方が変わって新たな発見がある。
下高井戸の映画館で『グレート・インディアン・キッチン』という映画を観た。ケーララ州が舞台であり、家庭で料理が作られている様子がよくわかる。
初めのうちはホームスタイルのドーサ、チャンマンディ(ココナッツチャトニ)、サーンバール、カッパビリヤニなどケーララ家庭料理が数多登場し貴重な資料として見ていた。だが物語が進むうちに家庭の暗部が明らかにされていき、画面を正視できないタイミングも度々あった。取り扱われているテーマはなかなか重く、インドという国の難しい面を暴いている。そして我々も決して傍観者ではないのだろう。
是非観てほしい。
祖師ヶ谷大蔵スリマンガラム
世田谷は歩ける。小田急沿いから京王沿いまで歩き、また小田急沿いまで歩いた形になるが歩ける。
ディナーはもちろん祖師ヶ谷大蔵に新たにオープンしたスリマンガラムへ。朝に会ったマハリンガムさんとまた再会してしまった。まだお店の立ち上げ段階であり、朝から経堂でティファンを出し、夜は祖師ヶ谷大蔵でミールスを出すというてんやわんやスケジュールらしい。彼はこころなしかやつれているように見えた。
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この入りにくい入口を下るとがらんとした地下室に大理石のテーブルが大量に等間隔で並んでいる。1人掛けの席は食事をすると見知らぬ人と向かい合ってしまう形になり、それもまた良い。南インドの食堂に迷い込んでしまったかのようだった。
テーブルに着くとすぐにバナナリーフが来るのだがこれがでかい。4人がけの席に3人分の葉っぱが乗り切らないレベルだった。
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ミールスはベジとノンベジがあり、それぞれlimited とunlimitedが選べる。もちろんノンベジのunlimitedを選択。食べ放題だ。
ご飯はもちろんポンニライス。サンバル、ラッサム、クートゥ、ポリヤル、ベジのコロンブに加えてチキン、マトン、フィッシュのカレーが食べられる。
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メニューを見るとブンパロタなんかもある。現地ではあまりミールスと一緒に食べるものではないようなのだが、サクサクしてクロワッサンのような特別なご馳走感があるパンだ。次はこれも頼
腹パンになりすぎてしんどいが、己の限界に挑戦したい方はぜひ試していただきたい。
朝はティファンモーニングを食べ、ひたすら歩き回り、映画を観てから旧友とミールスをキメる。最後は友達のベンツで家まで送ってもらってしまった。南インドに飛ばされきった、最高の1日の過ごし方だった。
更新記事
最近、書籍紹介記事をいくつか書きました。近々またnoteにまとめます。
参考:『食べ歩くインド』
購読者限定パート
現世が忙しくてなかなか更新できない今日この頃だけど私は元気です。そういえば今度、ケーララ州の政府観光局に招待されてインドに行くことになりました。
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