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ルソーとカント(1)ルソーの影響という謎
このシリーズについて
2024年3月に知泉書館様より『スキャンダルの狭間で』が刊行されました。
著者はジェレマイア・オルバーグ先生で、私は翻訳を担当しました。
この本は、ルソーがカントの哲学に与えた影響をテーマとする研究書で、
特に『純粋理性批判』への影響を詳しく論じているユニークな一冊です。
このシリーズでは、宣伝も兼ねて、この本の議論を読み解きながら、
ルソーとカント、そして人間と学問の関係を考えていきたいと思います。
さらに詳しい議論や典拠が気になる方は、ぜひ原著を読んでみてください。
第1回
ルソーの影響という謎
天才の規則はその行い、つまりその作品から引き出されなくてはならない。その作品とはすなわち、他の人々が模作のためではなく模倣のための模範としながら、それによって自分の才能を試すことのできるような作品のことである。このことがいかにして可能なのかということの説明は困難である。
カントはルソーから深い影響を受けている。日本の高校倫理を学ぶ機会のあった人ならば、ルソーから「人間を尊敬することを学んだ」というカントの告白を聞いたことがあるかもしれない。しかし、不思議なことに、カントの主著にルソーの名前は登場しない。ここにおいて、「ルソーの影響はカント哲学のどこに表れているのか」という一つの疑問が生まれることになる。
20世紀以降の研究の積み重ねによって、いくつか分かってきたことがある。例えば、ルソーがカントの「理念」や「自律」といったテーマに影響を与えたという理解がその例である。しかし、このような個々のテーマではなく、批判哲学の構想そのものに対する影響はそれほど解明されていない。本書が取り組む課題は、批判哲学の構想に対するルソーの影響の発見である。
本書がこの課題を解決するために用いる道具は、スキャンダルという概念である。スキャンダルという言葉は、古代ギリシア語で罠や誘惑、躓きを意味するスカンダロンに由来する。本書におけるスキャンダルの概念は、一つの存在が私たちを引きつける力と私たちを退ける力を併せもつことを意味する。言い換えると、スキャンダルは私たちを誘惑するものと排除するもの、私たちが望むものと憎むもの、私たちに必要なものと不可能なものといった相反するものが一つの物事のうちに結びつくことで成立する。
本書がスキャンダルの概念を通して描き出すのは、欲望することで拒絶され、拒絶されることで欲望する人間の力学である。そして、このスキャンダルの力学は、ルソーの遺産としてカントの批判哲学のプロジェクトに組み込まれている。この力学は、人間性の危機を引き起こすものであるとともに、人間性の回復を可能にするものでもある。ルソーとカントは、この力学を通して、人間の本来の居場所、そして学問の本来の出発点に踏みとどまる術を読者に伝えようとしたのである。
(続)
書誌情報
著者 ジェレマイア・オルバーグ
書名 スキャンダルの狭間で カント形而上学への挑戦
出版社 知泉書館
出版日 2024年3月25日
各種リンク
知泉書館書籍紹介ページ
http://www.chisen.co.jp/book/b643354.html
紀伊国屋書店書籍紹介ページ
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784862854063
Amazon商品ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4862854060/