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バイバイ、ブラックバード
バイバイ、ブラックバード、読みました。
※内容に触れるので見たくない方はご注意ください。
いやああああああさすがでした。
伊坂さん、久々に読んだのだけれど、彼の作品でおもしろくないものがあっただろうかと。
つい先日も、ゴールデンスランバーの「人間の最大の武器は、信頼と習慣だ」という言葉をふと思い出し、トラックのところ好きだったなあなんて思いを馳せていたところでした。
なんてことはどうでもよくて、バイバイ、ブラックバードの話です。
この本の何より好きなところは所謂「転」の部分!
繭美が攫われるところがそこにあたるのかなと思いますが、ここからのあれよあれよの畳み掛けがすごい。
まず、例えば〜と繭美が話していたことが本当になるなんて思わなかったし、しかも意外とさっぱり片付いてしまう。
と思ったら今度は繭美から逃げる提案をされるという予想外その2がやってくる。
そこから更に繭美がまさかのバイクで助けに向かうという予想外その3がやってくる。
しかもその1番熱くなってきたところで話が終わる!
なんて、なんていじらしいんだ伊坂さん!!!
後半のこのあたりは好きなシーンがたくさんで、繭美のスニーカーの話とか、星野が繭美に対してさほど嫌悪感がないところにもとても共感できました。
最高だ、と思ったところがふたつあって、
ひとつは繭美が「東署の不知火だ!」と言ったところ。
もうひとつは学生から辞書をひったくったところの「何で、ドイツ語の辞書なんだよ。」です。
しかもその第二言語に対しての「ラジオ体操かよ」のつっこみまで最高です。
どっちも繭美だった。
後半を読みながら、実は星野は繭美の提案(上層部にかけ合う)に乗るんじゃないのかな、とか、まさか本当に結婚するとか言い出すんじゃないのか、とか、後半にいくにつれていろいろ先を想像しながら読み進めていました。
私はこの物語の「転」の部分が本当に好きで、これは東野圭吾さんの仮面山荘を読んでいたときにも強く感じたのですが、残り僅かのページ数なのに、ここから一体どんなてんやわんやが起こるのだろうか!と本当にどきどきして、わくわくして、そしてそれが綺麗に落とし所へ収まると、小説って最高だ!と思うのです。
このどきどきと、読んだあとの果てしない満足感のために私は本を読んでいるんだと思います。
「転」は「クライマックス」とも言えると思いますが、ここに向けて、本文の3分の2とか、4分の3くらいの量を費やして、こつこつ積み上げられていく様も、それらを裏切らないほどの大爆発をかましてくれる「クライマックス」も、本当にすごいですよね。
終わりだって、連載ものの漫画やドラマだったら120%!となりそうなくらいの引きつけです。
なのに、ここで終わりだなんて!
本当に、読者をどうしようって言うんでしょう。
普通だったら、というか、自分だったら、
この先まで書いちゃいます。
この先星野がどうなって、そもそも繭美は助けられたのか、星野と繭美はそのあとどうなったのか。
伊坂さんの中で決まっているのか、いないのかはわかりませんが。
でも、そうやって、1から10まで説明することが正解ではなくて、こうやってこんなにももどかしくさせるところであえて切ることができる、その判断ができることが、伊坂さんが彼の素晴らしさなんでしょうね。
それにしても、どうやったらこんなキャラクターを思いつくのか。
死神の精度の死神さんのこともしばしば思い出しました。
金の耳かきと辞書を持ち歩くハーフの繭美。
CDショップに集まり、度々雨に振られる死神さん。
ちょっと似ている気がする。
いやしかし、伊坂さんの生み出す人々や、物語の構成や、切り取られる視点まで、やっぱり素晴らしいなあと再確認した1冊でした。
と、やっぱり1から10まで書ききってしまうんです。
追記:そういえば、繭美が誘拐された瞬間も、
「え!実は繭美が<あのバス>に連れていかれる対象だったとかそういうオチなの?!」
と思ったのも束の間、違うとわかり、もうほんと、どれだけもて遊べば気が済むのよ!という気持ちでした。
きっとこんなに上手に振り回されてくれて、伊坂さんもさぞご満悦かと思います!