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詩「ファド・ジ・モルチ・スビタ(急死の宿命)」

「ファド・ジ・モルチ・スビタ
(急死の宿命)」
黒実 音子



ああ、
私の黒いマントンは、
月に服従する喪服・・
赤いワインは、
運命に逆らう静脈(ヴェノーサ)・・

海洋民族が描かれた
美しい皿に乗る
悪鬼貝(カニャディーリャ)の様に、
突如に熱せられ、
フルコースが終わる前に
棺桶の中で死ぬ。

漸層法(クリマクス)で
創世記の言葉を語る様な
突然死のファド(ファド・ジ・モルチ・スビタ)を
私は繰り返す。

ああ、
磯の香りを漂わせ、
モノクロの礼拝堂で密談する
密告者達の
決して歌ってはならぬファドが
ここにはかつてあった。

並べた美しい魚も、
血が巡る牡蠣も、
腐敗(ネクローゼ)により、
あと数日留めておく事は出来ぬ様に
この世界は、
有るべき神の永遠の似姿で
作られていない。

我々の罪の輻輳が・・
あるいは
湿度の気まぐれが・・
突如、私達を殺しても
それは神が定めた歌。
誰も抗えぬ。

ああ、
ノアの箱舟に乗れなかった者達が
洪積(ディルビウム)に
ラテン語で刻んだ文字を
ファドは歌う。

漁師達は恥辱を知っている。
逃亡者の涙も、
追う者の怒りも、
その[他者との距離]を知らぬ故に
ポルトガル人は
黒い波に呑まれるのだ。

切り落とされた魚(ガルーパ)の頭は、
サウダーデに捧げる夢。
亀の手(ペルシェペス)の木箱は、
イスカリオテの金勘定・・

ファドだけがその愚かさを赦し、
帳尻合わせをする。
その方法を知っている。

琥珀包理として閉じ込められ、
100年前から進めぬ地の虚しさを
ギターラ弾き達は奏でる。

ああ、
徴税人のダンス・・
船の労働者達への未払いの賃金・・
余所者を冷遇する
臆病な退屈・・
まるで
海鳥の排泄物(グアノ)の様に
この地に執着して離れない
隠遁の業。

それにしてもファドよ。
全ては同胞であり、
顔の無い他者でもあったのだ!!
それを勿論知っていながら、
貧者は沈黙し、密告する。

現実は彫刻ではなく、
美しい鱗の魚は
頭を切り落とされる・・
どんなに美に条理を求め、焦がれても
突然死により幕を閉じる。

ああ、ルジタニアの民よ。
それだけの残酷さを
内包した劇を誰が上演しよう?
それでも、敢えて
それを[救い]とし、
美しく歌う事が
許されているものがあるとしたら?

私は言うだろう・・
どんなに全てが喪失し、
無価値になっていく
運命なのだとしても・・

「それはきっと恐らく
ファドだけなのだ・・」
と。








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