見出し画像

灰色の空、黄金色のガレットとクレープ


暗く長いノルマンディーの冬

朝8時になっても空はまだ暗く、午後4時にはもう日が沈みはじめる。

ヨーロッパの冬は、驚くほど日が短い。

日本では考えられないことだが、ここでは朝、通勤や通学で行き交う人々の姿も、夕方の買い物へ向かう足取りも、すべて暗闇の中にある。

こうして過ごすうちに、冬の暗さとどう向き合うかを自然と学んでいく。

寒さと日照時間の短さに加え、私が住むノルマンディー地方では、雨や強風の日が特に多い。

灰色の空に冷たい風、窓を叩く雨音——こんな天気が続くと、どうしても気分が沈みがちになる。


みんなで楽しむガレット・デ・ロワ

1月になると、フランスの家庭や職場ではガレット・デ・ロワ( galette des rois)「王様の菓子」を囲む光景があちこちで見られる。

サクサクのパイ生地にアーモンドクリームを詰めたこのお菓子には、「フェーヴ」と呼ばれる小さな陶器の人形が隠されている。

みんなで切り分けると、フェーヴが入っていた人がその日の「王様」や「女王様」になり、紙の王冠をかぶって祝われる。

この行事には、もうひとつ面白い伝統がある。

子どもがテーブルの下に潜り、誰にどの一切れを渡すかを指示するのだ。

こうすることで、公平に運命が決まり、誰もがワクワクしながら自分の一切れを手に取る。

シンプルな遊びだが、家族や友人が集まり、笑い合うひとときには、寒い冬の日をふわりと温める力がある。


クレープを焼いて願いを込めるシャンドルール

2月2日は「La Chandeleur(ラ・シャンドルール)」。

もともとはキリスト教の祝祭日だが、今では「クレープの日」として親しまれている。

この日、フランスの家庭ではクレープを焼き、家族や友人と楽しむ習慣がある。

クレープを焼くときには、片手にコインを握りながらフライパンを振ると、お金に困らないという言い伝えがある。

また、誰が一番きれいにひっくり返せるかを競い合うのも恒例だ。

クレープが焼けるたびに広がるバターの香ばしい匂い。焼きたてを頬張りながら、誰が一番上手にひっくり返せたかで笑い合う。

そんな、何気ないけれど特別な時間が、この寒い季節を少しだけ明るくしてくれる。


人と会うことで、冬の寒さが和らぐ

ノルマンディーの冬は、雨と風に閉ざされがちで、外に出るのも億劫になる。

それでも、この季節には、決まって誰かと集まる機会が巡ってくる。

少し面倒だなと思いながらも、気がつけば外へ出ている——そうして人と時間を過ごすうちに、いつの間にか冬の寒さも和らいでいく。


冬を乗り越えるための小さな楽しみ

寒くて暗い日が続く冬。ヨーロッパでは日照時間が短くなるため、気分が沈みやすい。

それでも、人々は昔から、ちょっとした行事を通じて気分を明るくする工夫をしてきたのだろう。

エピファニー(公現祭)、ガレット・デ・ロワやシャンドルールは、大がかりなイベントではなく、日常の中に自然と溶け込んでいる。

それでも、「みんなでお菓子を囲む」というシンプルな行為には、不思議と人を笑顔にする力がある。

ノルマンディーの冬は、雨と風に包まれることが多い。

でも、その分、室内で過ごす時間の温かさをより深く感じることができる。

寒さや暗さに負けず、小さな幸せを大切にすること。

それこそが、フランスの冬の過ごし方に込められた知恵なのかもしれない。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集