フランスの片田舎の台所で「エンドレス」な日本の味
日本にいた頃の私は、料理とは無縁の人間だった。
スーパーのお惣菜、定食屋さんの出前(今でいうウーバーイーツ?)、コンビニ食。
そんな「作らない暮らし」が当たり前だった。
それが変わったのは、海外での暮らしが始まってから。
気がつけばフランスでの生活は10年が経っていた。
一時帰国の度に、スーツケースの中身は少しずつ変化していった。
かつてお気に入りの服で埋め尽くされていたその空間には、今や「生きるために必要なもの」が鎮座している。
乾燥わかめ、出汁パック、そして乾燥納豆。フランスでは手に入りにくい日本の食材たちだ。
お気に入りの服を詰め込んでいた場所には、今や乾燥わかめ、出汁パック、そして乾燥納豆なんかが鎮座している。
これらの食材はフランスでは手に入りにくい。
特に納豆は別格だ。運良く見つけることができても、日本では考えられないような価格で売られている、高級品。
だからこそ、日本から持ち帰った「乾燥納豆」は私の宝物だ。
今日は、その大切な乾燥納豆を使って挑戦することにした。
大好きなYouTubeチャンネル、料理研究家リュウジのバズレシピで見つけた「エンドレスオクラ」という料理だ。
実はフランスでオクラを探す、これがまたひと苦労。
フランスの一般的なスーパーでは、オクラは見かけない。
あったとしてもフランス産ではなく、ほとんどが南米やアフリアから輸入されたものだ。
オクラ自体がフランスではあまり一般的ではない。
スーパー「グランフレ」で南米産のオクラを発見!
これで「エンドレスオクラ」を作る材料は揃ったよ。
「エンドレス」という言葉に、なぜこんなにも心が躍るのだろう。
オクラを茹でながら、考えた。
今の私は、フランスの片田舎の台所で、ネバネバのない納豆を使って日本の味を再現しようとしている。
その状況の不思議さに、思わず笑みがこぼれる。
茹で上がったオクラを輪切りにし、乾燥納豆を加え、大切に日本から持ち込んだ塩昆布、ごま油、お酢で和える。
塩昆布の袋を開けた瞬間、懐かしい香りが台所いっぱいに広がって、思わず「うっ」と声が出た。
懐かしさで涙が出そうになった。
大袈裟かな?
一晩、冷蔵庫で納豆を馴染ませる。待つ時間さえも愛おしい。
翌日、ついに完成した「エンドレスオクラ」は、想像以上に「それっぽい」味わいだった。
乾燥納豆特有の控えめなネバネバは、オクラの粘りと塩昆布の旨味が見事に補っている。
箸を付けると...あれ?止まらない。本当に止まらない。これは確かに「エンドレス」だ。
ご飯にのせて、口に運んだ。フランスの片田舎で、私は日本の味を再現している。
次の帰国時は、乾燥納豆を5袋...いや、10袋持って帰ろう。
だって、これは「エンドレス」なんだから。