クリスマスの詩 トマス・ハーディ『The Oxen』

 さて、今年もクリスマスがやってきました。クリスマスにまつわるお話はいくつもありますが、今回はイギリスの作家トマス・ハーディによる『The Oxen』(1915)という詩を紹介したいと思います。短くて読みやすく、とっても素敵なクリスマスの詩です。

【原文】

Title: The Oxen

Christmas Eve, and twelve of the clock, 

   "Now they are all on their knees", 

An Elder said as we sat in a flock

   By the embers in hearthside ease.


We pictured the meek mild creatures where

   They dwelt in their strawy pen,

Nor did it occur to one of us there

   To doubt they were kneeling then.


So fair a fancy few would weave  

   In these years! Yet, I feel, 

If someone said on Christmas Eve,

   "Come; see the oxen kneel


"In the lonely barton by yonder coomb

   Our childhood used to know",

I should go with him in the gloom,

   Hoping it might be so.


【私訳】

題名:雄牛たちは

クリスマスイブの今夜十二時、

「さあ、雄牛たちが一斉に座るぞい」

私たちが暖炉の近くで憩うなか、

長老は言いました。

私たちは、あの大人しく穏やかな生き物たちが棲む

小屋のことを思い浮かべました。

その時、今頃雄牛たちが一斉に腰掛けていることを、

私たちのうち誰が疑ったでしょう。

近頃では、そのような楽しい空想に思いを巡らすことは

少なくなってきたようです。でも、私は思うのです。

「見に行こうじゃないか!私たちが子どもの頃は

よおく知っていた、あの谷間の寂しげな小屋で

雄牛たちが腰掛けるところを」

クリスマスイブの日に、もしも誰かがこう言ってくれたら

私は、彼とともに薄暗やみの中を駆けていくでしょう。

きっと、そうなることを信じて。


※私訳は、原文に忠実なものではありません。


【感想】

この英詩は、私が大学三年生の時に、ある授業で習ったものです。素敵なイギリス人の先生が教えてくれる授業でした。

この詩のテーマを一言で言うとしたら、「何かを信じることの素晴らしさ」といったところでしょうか。

この詩が作られたのは1915年。科学主義の勃興によって、キリスト教の宗教観が大きく揺さぶられた19世紀を経て、第一次世界大戦が始まった頃です。「クリスマスイブの夜に、雄牛が一斉に座る」という伝説は、作者が子どもの時には、みんなが信じることが出来ていたのでしょう。しかし、そのような伝説は厳しい現実の前では、いとも簡単に崩れてしまいます。時代の変化につれて、人々は何かを信じることが出来なくなってしまったのです。

しかし、10行目後半からの詩行では、大人になった今でも、この伝説を信じていたいという、作者の願望が表されています。たとえ、それが馬鹿げた迷信だとしても、たとえ、それを知っていたとしても。

クリスマスの日に、サンタクロースが、トナカイのひくソリに乗ってプレゼントを配る。下らない妄想でしょうか。現実には決して起こりえない空想を下らないと棄却してしまうのは、少し寂しいことだと思います。

この詩の作者のように、子どもの時は心から信じることが出来ていた空想をいつまでも信じていられる、そんな大人になっていきたいです。



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