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「1万時間の法則」という呪い

 「1万時間の法則」とは、アメリカの著述家であるマルコム・グラッドウェルが、著書『天才!成功する人々の法則: 講談社』の中で提唱した法則であるが、私は呪いの言葉と考えている。

 何故呪いなのかというと、「成功している人は1万時間という努力をしている」という主張に対して、「1万時間頑張れば、成功する」と考えてしまう人が、一定数存在するであろうからだ。その為に、そこから去るべきなのに、「置かれた場所で咲きなさい」という呪いも相まって不適切な場所で努力し続けるのだ。結果が出なければ、努力が足りない自分を責めることになりかねない。

 そもそも、この1万時間の話は、バイオリンの上手さでグループを三つに分け、上手なグループは1万時間練習に費やしていたのに対して、普通のグループは7800時間、下手なグループは4600時間だったという報告に基づいている (Ericsson et al. Psychological Review,100,363-406,2013)。そりゃそうだろう。楽器だったら時間をかければ上達するだろうし、そこまで上達しなかったら、そんなに練習に時間を割かないだろうから。

 楽器の上手下手というのは可視化しやすく、プロになって食べていけるかどうかは、やっている本人も親も理解しやすい。なのに、こと勉強となると、親はなかなか諦めがつかずに、塾や家庭教師という沼にハマってしまう。案外子供本人は学力が上がらない事が理解できているんだが。親に合わせて、テキトーに勉強している風にしているのだ。

 昨今の中学受験の現場を見ていると、この1万時間の呪いにかけられている親は実に多い。勉強に時間をかければ学力が上がるのは事実だが、親が期待するほどに学力が上昇することは無い。小学生の間に遊びを通して学ぶことも多いのに、中学受験に時間が費やされ過ぎて、自由時間や遊び時間がかなり減っているのが問題だ。もちろん成績優秀な子達は勉強を頑張ったら良いと思う。それがアイデンティティになってくるので。そのような子も、ギフテッドとの差に唖然とする日はやってくる。

 どんなに親が頑張っても、結局入る大学のレベルは変わらないという事実を、Voicyの中村淳彦さんが語っているので、中学受験に熱くなっている親は、是非放送を聞いてみて欲しい。


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