私の好きなミルクさんの歌 004
四首目は少し季節がズレてしまいましたが、初夏の少しトーンの落ちた色合いを感じる歌です。
・ 知らず居て張られ朽ちたる蜘蛛の巣が流れるかたち夏へのかたち
気付かないうちに巣が張られ、気付かないうちに住人も住処も朽ちていってしまう、注意して見ていなければ見逃す景色が、風という普段は目に見えないものの形を空間に留めていることの無常感が伺えます。きちんと五つの波を持つ音感も心地よく、少しだけ近い将来(未来)への予感に似た高揚感もあります。確かに蜘蛛の巣はモチーフとしてよく用いられるものですが、「人が見逃した大切な景色」が「朽ちて穴の空いた蜘蛛の巣」に例えられたこの歌が一番ミルクさんらしいのではないでしょうか。何かと形にこだわる人間をよそに、蜘蛛はその本能で綺麗な幾何学模様を描いていきます。かたち、かたちの繰り返しに込められた皮肉と真意、味わってこその素晴らしい歌だと思います。
ミルクさん 短歌のリズムで https://rhythm57577.blog.shinobi.jp/