「人、神、自然」展観て書き
ミイラ展の前にトーハクにも行ってきた。
カタール王族のコレクションがパリで展示されることになる前に世界巡業をおこなっているらしい。古くは紀元前4000年期から新しくは5〜6世紀頃まで、西はヨーロッパや地中海域、東は新大陸までの古代美術が、3章に分けて展示されている。
第1章 「人」は、王の彫像や、神殿に奉納された「祈る人」の像、貴人たちのための装飾品など。
第2章 「神」は、神や精霊の像、そして儀式のための品など。
第3章「自然」は、動物を模した器や装身具など。
しかしながら、これは言うまでもないことだと思うのだが、古代世界の造形物を見るにあたって、「人」特に王や死者と「神」を見分けることは難しい。おそらく区別されていないと言っても過言ではないのではないかと思う。事実今回の章分けを見ても、どっちをどっちの章に入れるのか曖昧に見えるものも多い。そしてまた、「神」と「自然」も元来当然に混ざり合う。というよりは、自然から神が発し、神の概念を造形することから美術が誕生し、人の似姿を作る技術が磨かれていく。というわけで、そうした「さかまわし」のストーリーが念頭に置かれた展示構成なのかもしれないとも思う。
いずれにしてもさすがロイヤルコレクション、と言っていい品々だ。東洋館の黒を基調とした薄暗い展示室内に、黄金や貴石のきらめきと、生命力と想像力のエネルギーが燦然と輝いている。
もっとも古い作品のひとつである《女性像「スターゲイザー」》(アナトリア半島西部、前3300~前2500年頃)は、一見するとまるでクリオネのような……宇宙人のような……スラリとしていながら丸みを帯びた頭部と翼のような手を持つ、大理石の小像である。これが極めて美しい。
おそらくは女性の姿を表しているのだが、極度のデフォルメ、などという言葉では表現できない。人類がまだ「描写する」とか様式がどうとかそういうしゃらくさいことを知らなかった時代の、概念と表象が一切隔てられずに強固に結びついたような、そういうたぐいの造形である。
ポスターにも出ているし、↑のサイトなどにも掲載されているので、ぜひ画像だけでも見てみてほしい。
動物の表象についても、思うことがある。ここには様々な地域の芸術があって、それぞれいろんな動物の形を作り出している。ペルシアは鹿、中国はクマなど。これが実に、なんというか、「果たしてこの作り手は、動物が身近にあったのか? その力を真に畏敬していたのか?」というのが、伝わってくるような気が……してしまうんだよなあ……
誰かのコレクションの展覧会というのはおもしろくて、いわゆる「文明展」とはちょっと違うように思う。歴史的文脈、学術的意義、そういったものはもちろん重要で学ぶべきことなのだが、コレクション展における「展覧会の文脈」というものは、そのあたりの地平からちょっと浮いてしまうことに、しばしばなる。
要するに、誰かの審美眼にかなったもの。来歴について多少詳らかでないところがあっても、歴史を組み立てる「筋」的なるものから外れていても、佳きと判断されたもの。ことによると、コレクターの心にも、我々は寄り添うことになる。古代の神々の聖なる力、今よりももっと世界を大いに闊歩していた頃の動物たちの生命力。そういうものに心震わせられたなら、そのとき我々はこのコレクションに参入することにもなるのではないだろうか。
特別展「人、神、自然-ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界-」
東京国立博物館
2019年11月6日(水)〜2020年2月9日(日)
午前9時30分〜午後5時(金曜・土曜は午後8時まで)月曜休館