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映画『フィッシャー・キング』 分断の時代の今こそ観てほしいファンタジー(ネタバレ感想文 )

監督:テリー・ギリアム/1991年 米

私はテリー・ギリアムを「世界一コスパの悪い監督」と評しているんですが、大好きなんです。中でもこの映画が一番好きかもしれません。
今回、公開時以来30数年ぶりの再鑑賞。「午前十時の映画祭」に感謝。

1991年、ギリアム51歳頃の作品です。
『未来世紀ブラジル』が85年ですから、ギリアム絶好調の時期でしたね。

この映画、いろんな面が「いい塩梅」だと思うんです。
ギリアムでは希少な(当時は初の?)現代を舞台にした作品で、
「リアル」と「ファンタジー」のさじ加減がちょうどいい。
「重さ」と「軽さ」もちょうどいい。
ロビン・ウィリアムズとジェフ・ブリッジスも絶妙にいい塩梅ですしね。
コアなギリアムファンには物足りないかもしれないけど、これくらいがいい塩加減だと思うんです。ギリアム入門編としてもオススメ。
まあ、CGの無い時代に無駄にスケールのでかい特撮をする「コスパ」の悪さは相変わらずですがね。

そしてなんといっても、脚本が美しい。最高に美しい「二重構造」。

劇中で「フィッシャー・キング」の寓話が話されます。
よく知らんのですが、元は「聖杯伝説」のフィッシャー・キング(日本語訳「漁夫王」(イサナトリのオウと読むらしい))のようです。
それはさておき、この寓話のオチの箇所「苦しんでる王様と気のいいウツケ者」のエピソードですよ。
この「苦しむ王様と気のいいウツケ者」2人の関係が、ロビン・ウィリアムズとジェフ・ブリッジス2人の物語に重ねられるわけです。

どっちが気のいいウツケ者なのか?
これが実に美しい「二重構造」になっている。

傷つき苦しんでいる王様がジェフ・ブリッジスで彼を救う気のいいウツケ者がロビン・ウィリアムズという形でストーリーは構成されていますが、実際に聖杯を盗む「ウツケ者」はジェフ・ブリッジスで、それで救われるのはロビン・ウィリアムズという逆の構造なんです。
結果、ロビン・ウィリアムズもジェフ・ブリッジスも互いに「傷ついた王様」であり「誰かを救うウツケ者」であるわけです。

そしてここに、互いの「恋物語」が重ねられる。
特にロビン・ウィリアムズの方。
地下鉄駅構内のダンスシーンの美しいこと!
中華料理Wデートのブロッコリー・ホッケーの素晴らしいこと!
このイカレ女が強盗ハニー・バニーになるなんて信じられるかい?
(『パルプ・フィクション』(94年)の話をしています)

30余年前に観て、その後一度くらい再鑑賞したかなあ?という観た記憶はあやふやだったんですが、映画自体は話もシーンも克明に覚えていました。
正直言うと、新たな発見はありませんでした。
初めて観た当時は(私も若かったし)観たことないものの連続で、散弾銃で頭ぶち抜かれて飛び散った脳みそを浴びるほどの衝撃があったんですが、今回はそういう感覚はなかった。

でも、今回の方が「闇」を皮膚感覚で感じてしまった。

ラジオで扇動された者が暴挙に走る。そうした発信が人の命を奪うこともあるということをSNS時代の今、痛感しています。
当時はSNSはなかったので発信者は限定的でした。ラジオDJとかね。
でも今は誰でも発信できる。そういうのが怖く感じる。
そうしたこととは無関係だと思うんですが、この映画の10数年後にロビン・ウィリアムズが自殺したことも影響しているでしょう。

「いい塩梅」の映画なんですが、個人的には「恋愛映画」が色濃く印象に残っていたのですが、再鑑賞で「現代の闇」の方を色濃く感じたというのが正直なところです。

(2023.02.18 TOHOシネマズ新宿にて再鑑賞 ★★★★★)

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