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映画『8 1/2』混沌、混乱、人生は祭りだ。もう大好き。(ネタバレ感想文 )
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14年ぶりの再鑑賞。午前十時の映画祭に感謝感謝。
今回の上映も14年前の2008年に観た「完全修復ニュープリント版」だと思うのですが、当時はそれ自体が25年ぶりのスクリーン上映という貴重な体験でした。
私もそれ以前はビデオでしか観ていなかったので、本当にありがたい。
「『8 1/2』はあるか?」とレンタルビデオ屋で訊ねて『ナインハーフ』(1986年)が出てくるってネタを見たことあるな。2つくらいのアメリカ映画で見た記憶があるので、映画通向けのアメリカン・ジョークなのかもしれませんな。ま、どっちもエロい映画だけど。
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フェデリコ・フェリーニ監督43歳頃の作品で、
「とりあえずデカいセット組んじゃったけど、どんな映画撮るかまだ考えてないんだよね、どうしようか…」と悩んだフェリーニが、
「とりあえずデカいセット組んじゃったけど、どうしようか…と悩む映画監督の話」に仕立て上げた作品です。
フェリーニは「映像の魔術師」などと呼ばれていますが、私は「世界一のヘタウマ監督」だと思っています。人物の立ち位置とか全然分かんない。
でもね、天才なんです。凡人には理解不能の超天才。
画面は混沌とし、話は混乱し、とにかく混沌と混乱の映画です。
(これ、白黒だからまだいいけど、次作以降はどぎつい色彩も加わるからもっと混沌・混乱する)
でも、話は分かりにくくないし、終わってみれば「これが人生なんだ」って思えちゃうの。
具体的にどこがどうだとか、何ならどこがどう面白いのかすら説明できません。
でもねぇ、なんだか映画なんですよ。
説明不能な映画的高揚があるんです。
緻密な計算とか巧さとか関係ないところで、なんだか圧倒的な映画的瞬間が訪れる。これはねえ、言葉では説明できない。
私は時折、ショーモナイ予定調和なストーリーとか見せられると
「もっと混沌が欲しい!」
「太った女が浜辺で踊ってるような映画が観たいんだよ!」
と思っちゃうんですよね。
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こういった理解できない話や映画を「高尚な芸術」と括って棚の上に乗せたがる傾向が世の中にはありますが、フェリーニ映画なんか全然高尚じゃないからね。「ハーレム作りてえな」とか妄想してる話だから。中学生か。
ただ、圧倒的な天才だけどね。
これは、「混沌の世の中で、語るべき言葉がない」と悩む物語なのです。
語るべき自分の言葉を探して内面を見つめ、自己をさらけ出し、さらに混乱していく。
これはある意味、人間の普遍的な姿なのかもしれません。
タルコフスキーの『鏡』(75年)も
ベルイマンの『ファニーとアレクサンデル』(82年)も、あるいはゴッホの自画像も、皆同じなのかもしれません。
そういった意味では、自己との対話と混乱は「高尚」なのかもしれません。
今も混沌と混乱の時代ですが、混沌を回避すべく「整理された情報」が与えられ、「表面上の言葉」に満足したり、「安直な他人の言葉」に振り回される時代のように思えます。
自己の内面を見つめたりせず、手っ取り早い回答を求める時代。
こんな時代にこの映画はウケないな……。
ちなみに、この映画の主演マルチェロ・マストロヤンニは皆さん分かりますね。最近ちょっと話題になった『ひまわり』(70年)の夫役。
このマストロヤンニの奥さん役はアヌーク・エーメ。私が「世界一どーでもいい話。★5」と評しているフランス映画『男と女』(66年)の主演。
美人看護師(?)を演じるはず(?)だったクラウディア役のクラウディア・カルディナーレは同年にヴィスコンティの『山猫』で世界的に注目を集めるんですよね。てゆーか、『8 1/2』と『山猫』同じ年か。1963年のイタリア映画すごいな。
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(2022.10.09 TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞 ★★★★★)