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映画『ブルーベルベット』 悪夢というより悪意の映画(ネタバレ感想文)
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私、デヴィッド・リンチを通ってきていないんです。
カンヌ国際映画祭60回記念製作映画『それぞれのシネマ』(2007年)の中の短編の1本「アブサーダ」(とはいえ、テレビ版だけでカンヌ上映版には無いらしい)と、2018年になってやっと観た『デューン/砂の惑星』(84年)くらい。
『ブルーベルベット』は、今回の4Kリマスター版(の2Kダウンコンバート版)が初鑑賞。
60年代のヒット曲「ブルーベルベット」の甘い歌声が誘うブリリアントな悪夢。鬼才デヴィッド・リンチ監督が悪夢的センスを開花させ、その名を不動のものとした代表作!
世界中を震撼させた衝撃のネオノワール・サスペンス!
映画紹介はすごく良いように書かれていますが、一口で言ったら「変な映画」。
変な映画なんですけど、「悪夢的センス」なのか?
噂に聞いていたほどイカレてる印象はありませんでした。
こちとら、鈴木清順とか寺山修司が大好物ですからね。
100年経ってもその意味わからん。
主演女優はロベルト・ロッセリーニ×イングリッド・バーグマンの娘。
超サラブレッド。しかもマーティン・スコセッシの元嫁。
そしてこの映画きっかけでリンチの彼女になったんですよね。
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一口に言えば、「光と闇はベルベットの幕一枚程度の差しかない」という話。
正直、私はリンチの「悪夢的センス」というより、リンチの「悪意のセンス」が光る映画だと思います。
昼間の明るく平和な街の方が嘘臭く見える。
そういう「悪意のセンス」が光る。
いわゆるアメリカの「理想の家庭像」みたいなもの(それは往々にして60年代の古き良きアメリカ像でもある)も一皮剥けば・・・という趣向の映画で、典型例は後の『アメリカン・ビューティー』(99年)だと思うんです。
しかしリンチは「一皮剥く」道具立てがイカレている。
「光(平穏・虚像)の世界」と「闇(混乱・現実)の世界」の境目は「片耳」。あるいはエレベーターの壊れたアパートの階段。
『ツィゴイネルワイゼン』(80年)でコッチの世界とアッチの世界の境目が切り通しだったのと同じです。
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そして異世界で目にするもの。
『アメリカン・ビューティー』のケビン・スペイシーはチアリーダー女子高生への恋心でしたが、本作でカイル・マクラクランが目撃するのはイカレたデニス・ホッパー(笑)
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そう考えると、筋立てはミステリーやサスペンスといった普通のジャンル映画ですが、その道具立てが「変」なんだと思うんです。
その結果、まあ年代の問題もありますが、御大層な芸術映画というよりチープなヘタウマ映画に思えちゃうんです。
結論=ヘタウマ変態映画。
(2025.02.25 新宿シネマカリテにて鑑賞 ★★★☆☆)