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【対談】「おもちゃとジェンダー」プロジェクトを振り返って。〜菅俊一さん(多摩美術大学統合デザイン学科准教授)×桐渕真人(ピープル代表)〜『ピートラ』Vol.103

広報チームの川端です。
現在うちの息子は2歳半。息子の好き(好奇心)を大切にしてあげたいけれど、周りの大人たちはどうサポートしてあげたらいいだろう?
こんな想いもあり、「おもちゃとジェンダー」テーマで商品化を目指すプロジェクトに参加しています。

昨年10月~12月の間に「おもちゃとジェンダー」をテーマに多摩美術大学総合デザイン学科 菅俊一さんのゼミとの共同研究を実施。

好奇心の壁を破るー。
幼児期のおもちゃとジェンダーの関係を再考し、ジェンダーバイアスが子どもの好奇心の壁になる状況を突破できるような新しい玩具や遊びを探求することを目指して、ゼミ生さんと一緒に子どもモニター調査などを行いました。

実は、菅俊一さんはピープルの元社員。
代表の真人さん(機ちょー)と一緒のチームで自転車の企画をしていたことも。

今回、プロジェクトを振り返って菅さんと真人さんの対談を行いました。
この問題に向き合う意味、好奇心をはじけさせる瞬間の作り方、外からみたピープルの商品開発など…いろいろな話が飛び出しました!


■『おもちゃとジェンダー』問題に向き合うワケ

ピープル入社は同期のふたり。

―― ピープルは「 子どもの好奇心がはじける瞬間を作りたい!」をパーパスとし、子どもたちが自分の好奇心にフタをしてしまう要因となりうる「おもちゃとジェンダー」問題は大変重要な課題としてとらえています。今回、この商品化にむけての調査を一緒にやろうと真人さんが菅さんに声をかけたところから始まりました。なぜ菅さんに声をかけようと思ったのですか?

真人:もともと、「おもちゃとジェンダー」というテーマよりも前から、 菅さんと一緒に何かできればいいなと思い続けてきたんです。それはなぜかというと、好奇心というのは、子どもが生まれ持っているけど、 子どもたちの中にもやもやとしてあるし、 もちろん子どもたち自身言葉にできない。 結果として行動に現れるけど、 これって好奇心じゃね?という、 見つけて発見するその「視点」がピープルにとってすごい大事だよなと。
しかしおもちゃメーカーとしては、 真面目な論文として書こうではなく、 ゲラゲラ笑ったり 楽しみながら僕たちがやっていきたいなと思ってました。
もちろん社内でもそういうのを見つけるスキルが磨かれているんだけれども、我々とちょっと違った視点として、楽しく観察して発見するということを 研究している菅さんと一緒にやったら、 すごい面白いものができるんじゃないかと思っていたときに、 これは菅さんに声をかけるチャンスだ、 そしてすごく乗ってきてくれそうだなと思ったので声をかけました。

―― お話しを聞いたとき、菅さんはどうでしたか?

:大きな話で言うと、僕個人の活動としてのミッションみたいなのがあって、それは、この国で生きる人を全員作り手にしたいというものなんですよ。
なんでそんなことを考えているかというと、 自分が面白いと思ったものを自分で突き詰めて作っていると、同じ作り手同士のリスペクトが当たり前に起きたり、相手の作ったものや価値観を尊重したりすることが当たり前のようにあったりするんです。そういう気持ちで作ることに没頭していると、争いを起こしている場合ではなくなるし、文化的な価値を生むことにもつながるかもしれない。そして何よりも心が平穏になっていくので、 結果的に今の世の中がすごく良くなることにつながるんじゃないかなと思っています。だから何か問題を解決するという手前のこととして、全員が何か作るとか生み出すことに熱中するみたいな状態を作り出せるのが、 一番良いんじゃないかと思っているんです。
今、僕は多摩美術大学の統合デザイン学科というところで教員をしているのですが、普段はデザインというアプローチから、実際に手を動かして何か作ることを通じて考えたり、世の中にあるものを他の人とは違った視点で捉え直すことで気づくといった技術について探求しているんですね。
だから、もしかしたら僕たちが今取り組んでいる考え方をうまく活かすことで、面白いお手伝いができるんじゃないかなと思って参加させていただくことにしました。

■自分の好きに正直でいられるようになったきっかけ

真人:質問していいですか。 好奇心は生まれ持っているものだと思うんだけど、成長する過程の中で否定されたり、やってはいけない というふうになっていくと、大人になったときに日本人の多くが好きなこと何?って聞かれて、 答えられない人が多くいると思うんです。どこかの時点で何かアプローチをして、 好奇心に従って素直に動いていいんだよ、もっと出していいんだよということを 教育なのか、そういう機会を与えるとしたら、 どこが一番重要だと思いますか?

:それは「好奇心を発揮することに慣れる」ということが大事だと思っています。例えば、今僕は大学で講義を数百人の前でするんですが、全く緊張しないんですよ。じゃあ初めから緊張しなかったかというとそんなことはなくて、何度も繰り返している内に慣れてくる。最初は無理だったことが経験を積んでいる間にできるようになるってことだと思うんですが、それは何か技術を身につけるということだけでなく、好奇心みたいなことにも当てはまるんだろうなと思っています。
今、自分の子供が5歳なんですが、いつも好き勝手に何か作ったり、書いたりしてるんです。それは自分の子どもが特別っていうより、他の子の様子を見ているとみんなそういう感じなんですけど、じゃあそのまま大人まで進めるかっていうとそうはいかない気がしていて、どこかで好奇心のままに動くという経験が積めなくなってくるような気がしています。小学生や中学生ぐらいになってくると、やらないといけないことが多くなってきて、誰か用意したものをただやるだけというフェーズに入ってしまう。
本当はあることができるようになるためには時間がかかるので、自分で勝手に何かに没頭する経験を積み続けられれば、大人になっても当たり前のように発揮できるような気がするんですが、どこかでそれが途絶えてしまうことが気になっています。
よく「この国には創造性が欠けている」みたいなことが言われたりしますけど、そんなことないと思うんですよね、例えば漫画家の方たちを見ても、ものすごい創造性を日々発揮し続けているじゃないですか。きっと漫画家になっているみなさんは、子どもの頃からずっと周りから何か言われながらも、自分で勝手に熱中して描き続けてきた人たちだったと思うんですよね。だから、やっぱり「発揮し慣れる」みたいなことがすごく重要な気がしているので、いかに止めないか、続けられる状況を尊重できるかというのが重要だと思います。

一方で、自分が好きなものを隠蔽してしまうような傾向も、私たちにはあるなと思っています。ある日電車の中で本読んでる人をふと見た時に、本のカバーを裏返してかけることで、何の本を読んでいるのか周りに分からないように隠している人を見かけたんですよ。それも1人じゃなくって結構いたんですよね。こういうところにも現れていますが、自分の好きなものが堂々と表明できないというか、知られるのは恥ずかしいっていう気持ちって、何か根っこにあるなっていう気がするんですよね。

―― 私も手で表紙隠す派です(笑) 本とか音楽のプレイリストとか人に見せるのはなんだか恥ずかしいかも…。

真人:みんな読んでる本隠すよね、でも菅さんって自分の好きなもの丸出しじゃない?強いハートはいつぐらいにできたの?

:強いのかどうかはわからないんですけど、元々僕は自分が好きだったものは常にマイナーと言われているようなものだったので、そういったことからの影響はあるかもしれないですね。
例えば中学校の時とかに自分が聞いてた音楽って、売れているものとかじゃなくって、本当に学校の誰も知らないようなものばかりだったんですよ。だから好みを否定されるというよりそもそも話が合わない、単純に(笑)。だから「ああ、自分が好きなものを他の人が好きとは限らないんだな」っていうことが当たり前になっていたし、それは裏を返せば、自分が好きなものを人に好かれる必要もないから堂々としていればいいんだよなって思ったんですよね。

真人:僕は小学校5・6年、元々千葉に住んでたところから東京に引っ越してきて、夏休み宿題を出す時に、自信作だった昆虫採集をした標本をしっかり作っていったら、クラスでギャー!気持ち悪い!ってなって、最終的にはクラスの人たちの前で先生に、「こういうことはかわいそうだからやめなさい」って大否定されて。ずっと虫好きだったんだけど、それをひた隠しにしてる間にいつのまにかやらないようになってしまった。そういうのの積み重ねの結果、将来の夢も周りの目を気にしてなりたくもない公務員やプロ野球選手って書いたり(笑)
その虫好きも、最近子どもたちがやりたいって言いだして、ちょっとまたやってみるかという感じになった。ようやく自分がこう生まれ持った好きなものに戻ってこれた。僕は開き直ることがきたけど、開き直れない人も多いよね。うちの長男も自分の好きを言うことに対してすごく気にしてるから、「いや気にしなくていいんだよ」って、周りが社会全体が、そういう形になっていく方がいいのかなって。

:人は集団になると、同質であることを要求していくから、同質でないことを主張することが難しいっていうことが一番の壁になってる可能性はありますよね。だから今回の「おもちゃとジェンダー」の話でも、そもそも「自分が好きなことを貫き通せない」っていう問題が根幹にあるような気がしているので、その壁をどうにか取り除いていくのが大人の仕事なんじゃないかなって思います。

■共同のプロジェクトを行ってみて…

―― 去年の10月から4回ぐらい子どもたちの遊ぶ様子を見る調査をし、12月にはゼミ3年生の皆さんが展示として調査結果をまとめてくれました。お二人は実際やってみてどうでしたか?ゼミ生や社員の様子など印象に残っていることがあれば教えてください。

:机上の空論ではなくって、現場にいって直面することが一番大事かなと思ってるんですが、現場に行くといつも予想外の事が起きるんですよ。すごく入念に試作を準備してモニターテストに持っていってけど全く遊ばれずに無視されたりとか、逆に適当にとりあえずって感じで持っていったものがすごい気に入られたりとかが当たり前のように起こる。自分の想定通りに遊んでくれたら嬉しいっていうのは当然あるんだけど、でも予想外のことが起きた方が「え、なんで?なんで?」って一番盛り上がるんですよね。当然僕らは答えを知らないままに色々やっているわけで、だからこそ現場に出かけた時に起きてる事の中からヒントをちゃんと見つけられるかどうかってすごい問われてる。その、何かを作るときに一番大事な経験を積めたのはすごく学生たちにとって贅沢なことだったと思いますね。

真人:最近「やりたい放題」を海外の方にプレゼントして遊んでもらったら『めっちゃ喜ぶんだけど、何これ?』っていう風に感動してくれることが起きてて。「やりたい放題」って40年間続けているし、僕たちの開発プロセスからすると当たり前。
ところが世界のおもちゃを見てみると、そんな風に開発してる会社ないのかもってだんだん分かってきて。おそらくビジネスをやっていく上で、調査に時間をかけるとか時間ないのが一般的で、いきなりどんどん作っちゃうんだけど、本当にそのユーザーが、うれしいように作るっていうところにしっかり時間をかけると、その喜びに違いが出てくるんじゃないかと思ってる。
だからこそ、今回のように何回も何回も同じようなテストを繰り返してるけど、これって本当に大事なこと。
「喜びそう」と「喜ぶ」の間には果てしない隙間があるんですよね。ある意味、一番子供を舐めてないんだと思うんですよ。

今年発売40周年を迎える「いたずら1歳やりたい放題」

■菅さんからみたピープル

:昔ピープルで働いてた時に、パッケージのための撮影とかに行くでしょ?そのときに撮影が上手くいく商品といかない商品があるんですよ。上手くいくっていうのはどういうことかというと、赤ちゃんや子どもたちの良い笑顔とか熱中する姿がすぐ撮れるもの。で、やっぱり撮影が上手く行った商品は売れるんですよ。逆に、ちょっと撮影に苦労したなって時は、やっぱり売れなかった。もちろん商品化にあたってすごく時間を欠けてモニター調査もして、開発をやってきても、どうしてもいくつかの商品はそれが起きちゃう。この撮影できるタイミングまで仕上げてようやく分かるってこともたくさんあったりするんですよ。
だから結局頑張ったかどうかよりは、本当にそこ(遊ぶ子ども)を捉えてるかどうかっていうのが大事で。でも難しいですよね。撮影まで行って後戻りするのってかなり勇気がいる。でも結構そこで見えちゃったっていうのがいつも気になってたんですよ。

真人:僕は今、経営者の立場だから思うんですけど、進めているものに対してアラートが出てることにどう気づくか?流通に対して約束したことを守らなきゃとか、売上計画がどうとかっていう経営上の都合を優先するのは、長い目で見たら、ストップしといた方が絶対得ですよね。

:でも自分が開発を進めている立場だったとして、その決断をちゃんとできるかどうかですよね。「ここまでやってきたし、たくさんの人にも動いてもらって、お金も動いて、社長もこれで行こうって言ってるのに」って思う気持ちが起きるのはわかるけど、結局、子どもが遊ばなかったらダメでしょっていう話なんですよね。我々は不正解を出してしまったので、ここでプロジェクトをストップしますって、言える勇気をもつことが大事だなと思います。すごい難しいことなんだけど。

―― 菅さんは、一旦ピープルから離れてみて、今だから気づくことやピープルの特徴みたいなものをどう捉えていますか?

:ピープルがずっとやってきたことって、今「デザイン思考」といったような言葉で扱われているような考え方に結構近いことをしていたんだなって思うんです。
たぶんピープルでは、そういう言葉は全く使われていなかったし、昔からモノを作るってのは本来こうあった方がいいよねということを素直に、ド直球でやって来た会社なんだと思うんです。だから何か本当にいいものを作ろう、正しくやろうとするんだったら、こういう手法しかないんだろうなって今の立場から見てると思います。当時、他のやり方を知らなかったから、みんな当たり前のようにこうやるもんだって思ってたけど、どうも他はそうではないらしい…。こういうものが売れている等データはあっても、本当に面白い発見っていうのはやっぱりいくら調べても出てこないから自分の足で稼がないといけない。すごい大変だったけど。
効率化やスケールするっていう意味ではピープルの方法は合ってないかもしれないから、大きい企業はやってないわけですよね。そういう意味ではピープルの規模だからこそできる丁寧で本質的なものづくりなんじゃないかなって気がするんですよ。そこは本当に生命線だと思うのですごく大事にした方がいい。

■これからやってみたいこと

―― 最後に、今回のプロジェクトをやってみて今後、一緒にやってみたいことや目標があればお聞きしたいです。

:そうですね。この「おもちゃとジェンダー」というテーマで、具体的におもちゃのアイデアを出してみることも考えられそうな気がするし、じゃあ他にはどんな壁があるのかな?って探してみるのも全然あると思いますね。

真人:やっぱり「おもちゃとジェンダー」をテーマとした商品開発は絶対実現したいなと思ったから、このテストをあと半年ぐらいは続けたいと覚悟を持ちました。何を発見するのが目的じゃなくて、しつこくやることを目的として一生懸命やりたい。
もう1つは「好奇心の本質」、好奇心とは何かというところを深掘りして今仮説として持ってる「きっかけがないと出てこないんだけど、きっかけがあるとどんどん発展していって、それは個性となる」みたいなことをアカデミアと組んだ共同研究をしてみたいなと思いました。

2時間以上ぶっ続けで話しても止まらない二人でした(笑)


≪菅俊一氏 プロフィール≫ 
コグニティブデザイナー。2014年までピープル株式会社にて乳幼児向け知育玩具の企画開発に携わる。現在、多摩美術大学美術学部統合デザイン学科・准教授。認知的手がかりの設計による行動や意志の領域のデザインを専門としており、近年は視線を用いた誘導体験や、人間の創造性を引き出す制約のデザインについての探求を行なっている。
著作に、『観察の練習』『行動経済学まんがヘンテコノミクス』『ルール?本』など。

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