残念な「コロッセオ」や「ピラミッド」の想い
コロッセオ
以前に、イタリア・ローマ旅行で「コロッセオ」の遺跡を見に行ったことがあった。「コロッセオ」はローマ帝政期の円形闘技場で、剣闘士と猛獣の戦いなどが行われた場所である。遺跡を見て感動したと言う人たちがいるが、映画『グラディエーター』の闘う場面なんかを想像して興奮をするのだろうか。私は想像力が乏しいのか、カメラでお決まりの写真を撮っただけで、地味な土色の壁面にすぐに飽きてしまった。
エジプト
私はエジプトに行ったことはない。かつては行きたいと思っていたが、具体的に予定を立てないと行けないものである。「ピラミッド」や「スフィンクス」を見て感動する人たちもいるが、一部の人たちは退屈だったと口にする。彼らは「ああ、こんなものか」、「思っていたのより地味だな」などと言って、恐らく私の見た「コロッセオ」と同じく、派手さのない地味な土色の遺跡に飽きてしまうのだ。残念なことだが、人それぞれ感動が違うのだと割り切るしかない。
組体操の「ピラミッド」
私が「ピラミッド」で具体的に思い出すのが、中学生の時に体育祭でやった組体操の「ピラミッド」である。私は組体操が大嫌いだった。痛い思いはするし、特に面白いわけでもなく、やらないで済ます方法は無いかといつも思っていた。
私の学校では、体育の授業は2クラスで合同に行われていた。1クラスに男子20名がいて、下から4人・3人・2人・1人の10人で2組できる。2クラスなので全部で4組できることになる。私は身長が後ろから2番目だったので一番下の土台になった。後ろから5番目の巨漢が1人いたが、率先して地面に手をついていた。デブでも土台になれば誰も文句を言わない。そして、その上を自分たちより背が低いものたちが順に乗っていく。
その時だった。背が低くて体重が重い者が、私の上に乗ろうとしていた。Xだった。帰宅部でオタクで小太りのXである。私より5キロ以上重い。私は睨むようにXに目をやり、「お前、何やってんだ。土台じゃないのか?」と聞くと、Xは無視をして私の上へ乗っかってきた。私はズシリと重いXに耐えなければならなかった。そして、さらにその上をクラスメイトたちが順に登っていく。一体、誰がこんなことを考えたのだろうか。見ていて誰が面白いと思うのだろうか。そんなことをしきりに思いめぐらしていると、Xの腕がプルプルと震え出していた。Xはブツブツ何か言いながら私の上で崩れ始め、その重さで土台の私も一緒になって潰れた。
潰れたのならば、再びやるしかない。他のチームは皆成功をしているようだった。土台の4人が何も言わずに並ぶと、その上を他の者たちがまた登っていった。私の背中の上にはXが乗っており、すぐに腕がプルプルと震え出していた。一番背の低い生徒が最上段を目指して登りかけていると、耐えきれなくなったXから崩れていった。
皆は怒り出した。Xは申し訳なさそうに下を向いている。体育教師も他のチームの生徒もこちらを見ている。Xは自分が上段に登れば大丈夫かもしれないなどと言い、Xを支えられない背が低い者たちが無茶を言うなと怒りだして、「お前、いつも何食ってんだよ」と吐き捨て始めた。Xは勉強も運動もできない肥満体であり、「頭はない、力もない、体重がある」と皮肉は続けられた。その後も他のチームは皆成功させていたが、わがチームだけが全く駄目だった。「小太り」は上になれば重いし、下になれば潰れる。組体操というのは「小太り」をどう扱うのかが問われる問題なのだ。
その後、チームではXにランニングや腕立て伏せ等の課題を出した。そして、潰れるたびにXのトレーニングの量を増やしていった。Xはゲーム好きのオタク仲間に励まされて、プレッシャーの中でもそれなりにやっていた。体育祭の日にちは迫っていったが、チームでも居残り練習を重ねていくうちにXの腕のプルプルも収まり、何とか格好がつくようにはなった。
そして、体育祭を迎えた。一番背の低い生徒が頂上に乗って形になると、前、横を向いて皆で声を張り上げた。成功だ。そして、ホイッスルに合わせて手を前へ伸ばす。私はダストの地面に叩きつけられた。痛い。いったい何度練習で叩きつけられたことであろうか。私にとっての「ピラミッド」は、Xを乗せて地面に叩きつけられた想い出だけである。