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【第6回】エコプロと再生板紙構法/展示会デザイナーがサステナブル社会を考える【前編】【スーパーペンギン】

>前回の続き
スーパーペンギン代表の竹村です。12月4日から6日まで開催されたエコプロ出展に関わるお話。今回で第6回。
 展示会における木材破棄物について、その対策として木工ブースの構法はそのままに、その素材を置き換える、という発想の転換を考えました。 

 これまでの展示会業界は、木材廃棄量の削減対策として、木工ブースを否定し、その代わりとなる別の構法を模索する、という流れがありました。しかし、木工ブースは寸法自由性や(集客的戦略を考えた)デザイン実現性などの理由からこれからも「なくなる」という方向性はないだろうと捉えています。そのように考えると、木材廃棄量をゼロにする、という目標の達成はかなり難しい、非現実的なものになってしまいます。

 一方で、「木工ブース」が本当に環境に悪いかというと、そうではありません。間伐材の使用やリサイクルの工夫など、木工ブース自体は環境に配慮されている、とも言えるのです。課題はあくまでも、展示会直後にそのほぼすべての資材を廃棄してしまうという現在のシステムの在り方。この観点から、木工ブースそのものを否定するのではなく、木工ブースの利点を活かしつつ、その構成素材そのものを置き換える、という考え方は、木材廃棄量をゼロにする、という観点からかなり有効な手法なのだと感じています。

 前置きが長くなりましたが、これまで2024年12月4日から開催されるエコプロへの出展準備を進めてきました。本日時点で既にエコプロは終了しましたが、会場での様子をお伝えしようと思います。今回はブース設営編。

2日間の設営期間でブースを完成させること

 エコプロは、12月2日(月)及び3日(火)が設営日。一般的に展示会ブースの設営期間は2日間あり、1日目にそのほとんどが出来てしまい、2日目は商品を設置する、という流れになります。今回も、初日12月2日(月)午前から資材を搬入し、ブースの製作に入りました。
 今回のブースは、そのほとんどを「再生板紙」によるブースとなりますが、その施工方法は木工ブースとほぼ同じになります。工場で事前に製作してきた部材を現場でブースの形状に組み立て、組み立て終わると、経師屋さん(壁紙屋さん)が壁紙を貼っていきます。展示会の施工は一般の方が想像するよりかなりスピーディー。午前9時に資材を搬入すると、すぐにブースの建て込みをはじめ、午前中には壁紙を貼り始めます。

基本部材の建て込み→パテ処理

 では、ここから実際の会場での写真をお見せしましょう。下の写真、午前9時前から資材の搬入をはじめ、10時過ぎには既に下記のような状態です。基本部材の建て込みをしつつ、右の方では既に壁紙を貼る前の下準備、パテ処理をしている状況が分かるかと思います。

再生板紙構法によるブース作業。木工ブースと何も変わりません。
事前製作をした部材の建て込みが終わったら、木工ブースと同じように壁紙を貼る前の下準備に入ります。
展示台にも壁紙を貼るので、下処理をしていきます。
今回はブースの一部、構造上心配な部分には木工も使用する、というハイブリッド形式にしています。(右上の内部構造)再生板紙で作った棒状の部材の重量がかなりあるため、上部の一部には木を使用する、という考え方を取ってみました。

 施工の様子。この写真だけを見ていると再生板紙でブースを作っているとはまるで気が付かないですよね。通常の木工ブースでは、事前に製作してきた木工部材をブース形状に建て込みが終わった後、壁紙を貼る準備として木材パネル(壁面パネル)などの継ぎ目などにパテをしますが、それはこの再生板紙構法でも全く同じ。ちなみに、建築・インテリアでも同じ手順を踏みますが、展示会の場合、スピードがかなり重要なのでこの工程は20~30分程度で終わらせます。

「壁紙」を貼る

 パテ処理が終わったところから、順次壁紙を貼っていきます。今回は、再生板紙構法の内部を見せるために、ブースの左半分は仕上げないことに。そして、倉庫のような奥の部分は敢えて骨組みを見せるようにしています。これは会期中に構造を説明するためのもの。ですので、パテ処理は主にブースの右半分。

パテ処理を終えたところから壁紙を。ブースの様子を確認する。

 壁紙を貼ってくださる職人さんは、ブースの横に機械を設置し、壁紙への糊付けを順次行っていきます。この様子は建築・インテリアの現場でもほぼ同じですね。

展示会用の壁紙に糊付けを行う。
壁面のサイズに合わせてカットする。貼りつけ施工前の準備。
準備が出来たところから順次貼り付け。インテリア系のビニルクロスに比べるとかなりスピードが速い。

 展示会ブースでの壁紙貼りはとにかくスピード重視。よそ見をしていると、いつの間にか壁一面が既に貼り終わっていた、ということもよくあります。

複数人で次々に壁紙を施工。この2小間ブースサイズであれば1時間もかかりません。
横に長い部分は、複数人で一気に施工。なるべく継ぎ目を出さないように。

 当社がいつもブースの設営をお願いしている設営会社さんは、とにかく前向きで丁寧。今回に限らずブースが出来上がると、今回はどの部分にこだわって作ったのかを私や当社のスタッフに説明してくれます。こちらが何も言わなくても丁寧なモノづくりをしてくださる、そんな設営会社の皆さんです。

 壁紙貼りで大切なのは細部の貼り方。面としての綺麗さも大事ですが、設営会社さん(正確には壁紙職人さん)の腕前は細部に現れます。細かな部分をどう丁寧に処理をするか。ここがとても大事。

細かな部分の仕上げで壁紙の成功の技量が分かります。
意外にこの細かな部分を処理していくことに時間がかかります。

 さて。今回のブースは当社自身のブースのため、設営日1日目は、ここで終了。この時16時頃。当社のお客様のブースの場合、この日のうちに文字まで貼ってしまうこともありますが(壁紙の感想を待ってから)、今回は急がないのでここで終了。言葉関係の貼り付けは、2日目の設営に回します。

「サイン」を施工する

設営日2日目も朝9時から作業開始。
 壁紙を貼ると、その壁紙が乾くまでしばらく置いておきます。そして乾いた頃合いを見て壁面の文字の施工に。今回は、前日に壁紙を貼ったので、朝から文字の施工に入ります。
「サイン」。空間デザインには「サイン計画」という言葉がありますが、壁面などに掲示する、文字や写真などのデザイン全般を意味します。このサイン計画。文字や写真等の施工に関しては、写真などの場合のように壁面全面に出力紙を貼る方法もありますが、簡単な文字程度の場合には、カッティングシートによって文字施工を行います。今回は出力は一部のみ。ほとんどがカッティングシートによる施工です。

 その施工段階での話ですが、当社の場合、貼り付け場所の最終決定は当社側で行います。展示会業界では、このサインの最終位置決めに関して、デザイナーではなく施工担当者が図面に基づいて貼り付けする、という方法がとられています。インテリアや建築のデザイナーからすると、「自身で決めないなんて信じられない」というところでしょうが、展示会業界では一般的です。しかし、当社は展示会系専門の空間デザイン会社。サインの位置決めは当社自身で決めます。
 サインの貼り付け。事前にデザインしておいたものを、壁紙が貼り終わった後に、施工会社さんに「仮貼り」をしておいていただきます(下記写真)。最終取り付け位置は当社で決定するため。
ですので、今回の場合、朝一から仮貼りをしておいてもらい、その後最終の位置決定をします。

壁紙が乾くとカッティングシートを図面の指示通りに仮貼りしておいていただきます。

 仮貼りをしておいていただいたカッティングシートに対して、最終的な貼り付け位置を決めるのは、私竹村の役目。ブースを遠くから見たり、違った方向(来場者動線)から見たりしながら、微妙な位置調整を行います。10ミリ下にする、25㎜上にあげる、など見え方を整え、最終的な貼り付け位置を決定し、設営会社の皆さんに伝えていくようにします。そこまでしなくても、と思われるかもしれませんが、図面上で検討している時と会場での実際の見え方は結構違うもの。見た目の印象、デザイン性を整えるためには、会場での最終確認が必須だと日頃から感じています。

ブースの左半分には壁紙を貼らない仕様に。直接文字のカッティングシートを施工しています。写真では文字が水平になっていないように見えますが実際には大丈夫です。

 今回の再生板紙によるブースは、その構法を知ってもらうために、ブースの左半分はそのまま。なので、左半分は素材の色をそのまま残しています。
ただし、展示ブースとしての機能は持たせる必要があるため、再生板紙の上から直接、カッティングシートを施工。再生板紙構法が社会に広まったら、このような表現でもいいですね。

 ちなみに、このブースを作り上げる素材としての再生板紙ですが、現在は製造機械の都合で、幅が400㎜のものしか作れません。ですので、この写真(上の写真)を見てもらえればお気づきかもしれませんが、途中に目地が出てきてしまっています。将来的に巾900㎜の再生板紙が生産されるようになると、このような継ぎ目が出てこないデザインが可能になるのですが・・。

ブース内の備品を設置

 サインの位置がそれぞれ決まってくると、一気に完成した感が出てきます。この辺りから、ブース内に資料を置いたり文具類を置いたり、接客するための備品関係をブース内の各所に設置しいていきます。これは当社スタッフの役目。今回の当社のブースは何か特別な商品があるわけではないので、比較的準備は簡単。印刷をしておいた配布物や手持ち資料などを設置していきます。

カッティングシートを施工しながら、当社スタッフは備品類の設置を開始。
壁面のカッティングシートの貼り付けが完了。ただし床の養生(保護)シートは最後に。

 サインを貼り付け終わり、書類関係の整備が終わったらブースはほぼ完成です。上の写真、まだ床の養生シートが残っています。展示会ブースの施工においては、床の養生シートはがしは最後に行うもの。展示品の設置が終わり、ほぼほぼブースの中には入らない、という状況になったら最後に床の養生シートをはがし、掃除機をかけて最終の清掃を行います。
この養生シートをはがし終わると、この日はブース内土足厳禁。靴を脱いでブース内に入ります。ブース内は展示会オープンぎりぎりまで綺麗にしておくことが大切になります。

 このようにして完了したのが下記の写真。まだ通路にごみ等が残っている状況ですが、これが設営2日間(12月3日)15時頃の状況です。

ブースが完成。これから展示会事務局が会場全体の清掃を行い、展示会オープンを迎えます。

 さて、このように再生板紙構法のブース設営の様子を解説してきましたが、実はこの流れは木工ブースも同じ。ですので、本記事は、木工ブースの製作の流れの解説そのままと思っていただいて問題ありません。

すぐに導入が可能な構法

 木工ブースの構法はそのままに、ただ「木」を「再生板紙に変える」というこの方法。今回、このブースの設営を担当したアドスペースさんによると、「おそらく他の設営会社さんに20分ほど話せば、すぐにできるようになりますよ」とのこと。つまり、展示会業界の方にとっては、すぐに取り組める構法になっているんですね。この「すぐに導入できる」という点がこの構法の利点だと考えています。
 今回のブースは説明するために、敢えて「未完成」のような完成形にしていますが、実際に全てを再生板紙で制作すると、木工ブースとの違いはすぐには気が付かないだろうと思われます。

展示会業界の未来から、カーボンニュートラルの実現へ

 出展社の方々や設営会社がこの構法を導入する上でのメリットは、「環境に配慮したブースにしている」という点がまず挙げられます。しかし、あまりにも木工との見た目上の差がないため、本当に再生板紙構法を採用しているのか、疑われることもあるかもしれません。その観点から今後、何らかの「証明」のようなものが今後あった方がよいように感じました。それほどまでに、この構法は木工ブースと変わりがないのです。

 しかし、再生板紙によるブースの場合、木工の廃棄量を極力ゼロにできるだけでなく、このブースに使用した再生板紙も廃棄することなく、新しい再生板紙として再生が可能です。

 この構法が一般化した時、世界的に達成を必要としている「カーボンニュートラル」を、展示会業界として実現させる。そのための大きな一歩になるのではないでしょうか。
 形だけのサステナブル対策、付け焼刃的な施策ではなく、実効性と効果が高くなる現実的な手法として、今後展示会業界に広がっていってくれれば、と感じています。


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