アイデンティティーがないとどうなる?(自己有能感と交えて考える)
他人の行動をアイデンティティーと自己有能感の観点から分析すると、ある程度納得のいく解を見出せることがある。
人間は基本的に他人から認められたいものだけど、自己有能感というのは人の行動にかなり影響を与えているように思える。
例えば、高校の部活ではチームを引っ張っていくような存在であったのに、大学の競技力が高い部活に入ったとたん、部活へのコミットを弱める人がいる。その人は「大学に入って別のこともやりたいからコミットを辞めた」のではなく、「部活において感じられる自己有能感が低下したため、コミットしたいと思えなくなった」のだと思っている。その結果、競技自体への熱量も失ってしまうこともある。
今日本で陸上が大好きなトップ選手が、もしジャマイカに産まれていたら陸上を好きになったかさえわからない。「練習への意識が高いから強くなった」は絶対だけど、「強いから自己有能感によって練習が楽しく感じる」面もあると思う。「働きアリの法則」は「誰かがやってくれるからいいや」ではなく、「一生懸命働く側が自己有能感を感じる一方で、感じられなかった側がコミットを弱めていく」という理由で生じるのではないか。
アイデンティティーを自分の中に持つということは、他人と比較しなくても自己有能感を感じられるようになることだと思う。逆に言えば、アイデンティティーを持たない人は、常に他人と比較して自分が優れていると感じていないと生きられない。
アイデンティティーを持たない人というのは、中学高校時代に勉強やスポーツで良い成績を収めていた人に多いように思う。勉強やスポーツで良い成績を収めている人は、アイデンティティーを持たなくても、それらで自己有能感を感じることができる。しかし受験に落ちてしまったり、大学に入って勉強で他人と比較する尺度を失ったり、スポーツで活躍できなくなったりした瞬間にそれらの自己有能感は崩れ去る。こうして、何かしらの方法で自己有能感を得ないと生きられない人が誕生する。
そのような人たちが自己有能感を感じる場として、ファッションと逸脱を例に挙げる。
高級なブランドを多く身につけることは手軽に自己有能感を感じるための方法である。本人に才能がなくても金を出せば「自分の方がブランド品を持っている」「自分の方が金を持っている」と自己有能感を感じられる。
また、ファッションが好きで他人は関係なく追求している人は別だが、おしゃれな服を着た上で、時に周りの人をダサいと評価する人は、ファッションで自己有能感を感じたいだけの人だと考えている。そのような人たちは勉強やスポーツを追求することを「意味がない」ことだと評価する。ファッションこそが大切なものだと思い込み、そして吹聴する傾向が高い。その考え方への批判に対しては、自己有能感自体を傷つけられることになるから、まったく受け入れない。
逸脱というのは、人と同じような道を進むことを嫌い、退学したり、就活をしなかったりすることだ。それ自体は全く悪いことではない。ただ彼らは、自分がそのような道を歩む理由として、「大学や仕事に何の意味があるんだ」「自分は他の人とは違う感性をもっている」とアピールすることが多い。
前者は「すっぱい葡萄」のキツネの考え方だ。自分が活躍できない、自己有能感を感じられないものに対して「意味がない」とレッテルを張る。それによって自分が優れていないことを認めないで済む、一種のルサンチマンだ。
後者の例として、「皆は社会に適応できてすごい、私はできない」と主張することがあげられる。自分を下げているように見せて、実際は「皆とは違う感性を持った自分」にある種の自己有能感を感じようとしているにすぎない。そのような人たちはTwitterで「人とは違う感性をもった自分」をよくアピールしている。
他人と比較して自己有能感を感じようとすることは難しいし辛い。だからといってわざわざ他人と違う存在であろうとしなくても、自分が自分であるだけで自己有能感を感じさせてくれるものがアイデンティティーだと思う。
アイデンティティーが確立される中学高校時代は、そこに所属していること自体がアイデンティティーになることと、「大学に進む」という敷かれたレールを進むだけで将来を考えない人が多いことから、アイデンティティーの大切さに気がつくことは難しい。しかし確実に卒業後の生き方に差が生まれてくる。
このアイデンティティーと自己有能感で他人の行動を分析すると大体は納得できるし(その人のアイデンティティーは何か考えてみるのは楽しい)、自分の行動にも適応している。それによって自分の考え方が働かないアリの思考になっていないか、ルサンチマンではないかを考え、正すことができる。無意識のうちに自分の行動が他人を意識したものになっていないかを確認する。
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