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記事一覧
赤の事件簿 HOMRA in Las Vegas 01
第一回『《吠舞羅》 灼熱に死す!』
著:鈴木鈴
アメリカ合衆国、カリフォルニア州。デスバレー国立公園。
『死の谷』と呼ばれるこの場所は、しかし、その名に反して多くの生命が存在している。餌と水場を求めて荒野を躍動するコヨーテ、洞穴の奥で日射を避けるコウモリ、生きるためにほとんど水を必要としないカンガルーネズミ――もちろんすべての生き物が、この過酷な砂漠に適応できるよう、何千年もかけて進化して
赤の事件簿 HOMRA in Las Vegas 02
第二回『砂漠の不夜城』
著:鈴木鈴
乾いた砂漠で、2人の男がにらみ合っている。
ひとりは上半身裸で、トレードマークのニット帽も脱げ落ちて、それでもその瞳には、抑えきれない怒りが宿っていた。
ひとりは白いバンのシートに気だるげにもたれながら、その怒りをむしろ楽しむような、気に障るにやにや笑いを浮かべていた。
八田美咲と伏見猿比古。2人の男は、照りつける熱射の下で、じっと互いを見据え
赤の事件簿 HOMRA in Las Vegas 03
第3話「蛇を追うもの」
著:鈴木鈴
ぎい、ぎいい、と定期的に響く音で、目が覚めた。
御槌は汗に濡れた上半身を起こした。ひどい悪夢を見ていたような気がするが、よく覚えていなかった。喉が渇いていた。水を捜そうとして、御槌は異変に気づいた。
部屋が真っ暗だ。一寸先も見えない。灯りは、と思いかけて、すぐに思い違いであることを知った。
部屋が暗いのではない――目が、見えていないのだ。
赤の事件簿 HOMRA in Las Vegas 04
第4話「トラブル・イン・ラスベガス」
著:鈴木鈴
マルーンホテルの雇われディーラー、ダニー・バックマンは最初、その2人の関係がよくわからなかった。
ダニーの目の前にいるのは、赤髪の青年と白髪の少女だった。青年のほうはつまらなそうに回転するルーレットを眺め、少女は目を輝かせてボールが落ちる瞬間を待ちわびている。親子のようにも兄妹のようにも見えるが、子どもの方が熱心に食いついているというのはあ
赤の事件簿 HOMRA in Las Vegas05
第5話「エドゥアルド・エル・ロホ」
著:鈴木鈴
紫煙を深々と、肺の奥まで吸い込んだ。
先ほどと比べれば、周囲は嘘のように静まりかえっている。聞こえるのは、ぶちのめした黒服たちのうめき声くらいのものだ。ルーレット台にもたれかかっていた周防は、煌めくシャンデリアめがけて、ゆっくりと煙を吐き出した。
ふと、後ろに気配を感じた。
振り返ると、見知った顔が苦笑いを浮かべていた。
「シロウトさん相
HOMRA in Las Vegas 06
第6話「死に損ない」
著:鈴木鈴
葬列が、荒野を進んでいく。
どことも知れぬ、広く、白茶けた荒野だった。ブラックスーツに身を包んだ一団が、長い列を為しながら歩いて行く。誰もが一様にうつむいて、咳ひとつ聞こえない。静々と、粛々と、彼らは歩きつづける。
その光景を、エドはじっと見つめている。
――待ってくれ、俺も……!
エドは彼らにそう呼びかける。呼びかけたはずだ。だが、声は出なかった。
HOMRA in las Vegas 07
第7話「赤の邂逅」
著:鈴木鈴
伏見猿比古は、窓際のソファにどかりと身を投げ出した。
窓の外には、ラスベガスの夜景が広がっている。無数に瞬くカジノネオン、贅を尽くした最高級ホテル群のナイトショー、それらが織りなす綺羅星のごとききらめきは、まさしく百万ドルに値する眺望であった。
が、その美景も、伏見の淀んだ目を癒やしてはくれなかった。
「お疲れ様です。伏見さん」
目元をごしごしと揉んでい
HOMRA in Las Vegas 09
第9話「妄執」
著:鈴木鈴
マリア・レイエスはベッドに腰かけ、じっとタンマツを見下ろしていた。
連絡先にある『エドゥアルド』の項をタップして、電話をかけようとする――マリアは先ほどから、何度もその動作を繰り返していた。そのたびに諦めるのは、「仕事中に連絡をするな」とエドからきつく言い含められていたからだ。
マリアが今までその禁を破ったことはない。ラスベガスに悪名轟くギャングスタ、エドゥア