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赤の事件簿 HOMRA in Las Vegas 01

第一回『《吠舞羅》 灼熱に死す!』

著:鈴木鈴

 アメリカ合衆国、カリフォルニア州。デスバレー国立公園。

死の谷デスバレー』と呼ばれるこの場所は、しかし、その名に反して多くの生命が存在している。餌と水場を求めて荒野を躍動するコヨーテ、洞穴の奥で日射を避けるコウモリ、生きるためにほとんど水を必要としないカンガルーネズミ――もちろんすべての生き物が、この過酷な砂漠に適応できるよう、何千年もかけて進化してきたのだ。なんの用意もしていない生き物、たとえば森と水に満ちあふれた国ニッポンからやってきたホモ・サピエンスにとっては、ここは文字通りの『死の谷』となる。

 そして、今、陽炎に揺らめく州道190号線の上を歩く、5つの人影があった。

 全員ズタボロの格好だった。ニット帽は脱ぎ捨てられ、汗みずくの巨体を揺らし、サングラスは片方のレンズが割れ落ちて、茶髪はべっとりと肌に張り付いて、パーカーにはいくつも穴が開いている。灼熱の日差しに照らされて歩く彼らは、さながら物乞いか物狂いの一行といった有様だ。

《吠舞羅》の主要メンバー――八田美咲、鎌本力夫、坂東三郎太、千歳洋、エリック・スルトの、哀れな姿であった。

「八田さん……ベガス……まだっすかね……?」

 息も絶え絶えといったように、坂東が訊ね、

「バッカおまえ……もうちょっとだよ……もう少しでたどり着ける……はずだ……」

 同じような調子で、八田が答え、

「水……なんでもいい……泥水でもいいから……水……」

 千歳はうつろなまなざしを、乾ききった荒野にさ迷わせ、

「あァーッ!」

 鎌本が、不意に金切り声で叫んだ。

「八田さん、見てください!! スイカがありますよ!!」

 一同はそれに反応する気力もなく、転がるように『スイカ』に駆けていく鎌本の背中を、ただぼんやりと見守っていた。『スイカ』に飛びついた鎌本は、しかし、次の瞬間には激痛にもんどり打ち、

「いってぇ!? なんだこのスイカ、棘がびっしり生えてやがるッ!?」

「鎌本……それ、スイカじゃなくて、サボテンだぜ……」

 哀れみの混じった声で、八田が指摘する。鎌本は夢から覚めたように「え……?」と彼らを振り返り、またサボテンを見、また八田たちに目を向けた。

 そこでエリックに限界が来た。

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