Take-36:映画『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(2015)は面白かったのか?──ここから既にフュリオサは主役?
【映画のキャッチコピー】
『おまえのMADが目を覚ます』
ちょっとスットンキョなコピーですが😂海外版のキャッチコピーは『The future belongs to the Mad』──また『What a Lovely day』というバージョンもあります(これも面白いコピーですねw)
【作品の舞台】
大量殺戮戦争勃発後、文明社会が壊滅した世界が舞台。
生活環境が汚染され、生存者達が物資と資源を武力で奪い合うこの設定は『マッドマックス2』から唐突に始まった世界観ですが『2』においては劇中で核戦争があったという言及はありません。
【原題】
『Mad Max: Fury Road』
【上映時間】120分
皆様、よき映画ライフをお過ごしでしょうか?
N市の野良猫、ペイザンヌです。
現在、マッドマックスのアナザー・ストーリーにあたる『フュリオサ(2024)』が公開中。ボクも観てまいりましたが、皆様もう観られましたでしょうか。
今回は新作『フュリオサ』の方ではなく、前作『マッドマックス/怒りのデス・ロード』を初めて観たときのことを思い出しながら少し書こうと思います。『フュリオサ』は『デスロード』とはまた別に少し書きたいこともあるので、そちらもXの方でまず呟こうかと…
シリーズ4作目にあたる『怒りのデスロード』は、シリーズ3作目『マッドマックス/サンダードーム(1985)』以来、27年ぶりの続編であります。蓋を開けてみればまあ2作目『マッドマックス2(1981)』の大幅リメイクというのが正しかった気がします。
そもそもパート1と2の世界観があまりにも世界観が違うためこれを同じシリーズとして扱うのどうなのよ? (゜▽゜*)というのも少しあるほどでw
『3』においてはほとんど記憶にすら残ってなかったんですよね。
TVでモノマネ芸人コロッケがティナ・ターナー(昨年亡くなられましたね😢合掌)のコスプレをしていたことしか覚えてないという、ほぼ、私の中では“なかったことにしちゃえ映画“になってしまっているパンドラ状態。
しかし、フト「いや待てコレは……ずいぶん昔のことだし、自分の見方が悪かっただけではないのか?」──そう思い、実はつい先日パンドラの箱を開き、配信の方で見直しました。うん、コレこそまさに、このマガジンのタイトルである『あの映画は本当に面白かったのか?』の真髄ですやねw──が、残念ながらやはり同じような感覚でした……
前半は好きなんですよ。 雰囲気やサンダードームでのバトルも。ただ後半になり子供たちだけの集落が出てくると……急に『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説(1984)』、ともすれば『グーニーズ(1985)』ぽくなっちゃうんですよね。
個人的にマッドマックスは「硬派で暴力な世界のイメージ、何よりカーチェイスが最大の売りだと思ってます。が、『3』ではそれもクライマックスのみ。
「あ〜そうだわ、これがテンションが下がった理由だわ」と、むしろ「残念さ」を改めて再確認することとなってしまいました。
これを見てお気づきの方もいるかもしれませんが、そう、先ほど述べた『インディ』や『グーニーズ』なども、この辺り──同じ年代に製作されたヒット作なんですよね。おそらく「子供を出して活躍させる」ことが当時ハリウッドでヒットさせるためによく使われてた手法なので「ミラーちゃ〜ん、マッドマックスもそうしない〜?」なんて大人の事情との板挟みがあったのかもしれません😅
またジョージ・ミラーもこの後、子豚を主人公にした『ベイブ(1995)』シリーズや、ペンギンを主人公としたアニメーションの『ハッピー・フィート(2006)』シリーズを作ったりと、転換期というか、キャリア的にもまだまだ「あ〜でもない、こ〜でもない」とチャレンジや試行錯誤の途中だったのかもしれません。
長い間、失敗作と言われ続けてきた『3』ですが、それが好きだという人ももちろん見かけます。そういう方を否定する気は全くございませんのであしからず。
時は過ぎ、『怒りのデスロード』。今回マックスを演じるのがメル・ギブソンからトム・ハーディへとチェンジ。もともとメル・ギブソンが再びマックスを演じる話もあったらしいですが、延期延期が続き、とうとう降板するに至ったそうであります。
ボクはといえば『サンダードーム』の時の苦い記憶もあったのか、はたまた当時は少し「映画とケンカ離れして別居してた」のかもしれませんね(時々そういうモードに陥りましたw)、今みたいに公開されてすぐ飛びついたという記憶はないんですよね😅
まあ前三部作の監督ジョージ・ミラーがちゃんと自らメガホンを取るということや(シリーズ通して全作品同じ監督なんて実はとても珍しいんですよね)、さらにはとうとうアカデミー賞10部門ノミネートまでされちゃったので、
あ……あれ? こいつぁ……ひょっとしてアリなの?
(゚A゚;) ゴクリ…
と、遅まきながらも気付き、鑑賞に至ったわけです。
『2』ではマックスの唯一のパートナーである犬と一緒にドッグフードの缶詰めを食っていたのが印象的でしたが(あれがウマそうなんすよね……)今回はデカいトカゲみたいなのを足で踏んずけ、そのまま生で食ってしまうという暴挙にw
おや? これは初っぱなからワイルド激増しな予感が……
デ・ニーロ・アプローチを地でいく女優シャーリーズ・セロンが今回は頭を丸刈りにしてヒロインを演じるフュリオサ。まさか、彼女が主役で映画が作られるとはこの時思ってもいませんでしたね。丸刈りが──という理由ではないでしょうが、『怒りのデスロード』はアカデミー・メイクアップ&ヘア・スタイリング賞も授賞しております。
特筆すべきは、ぶったまげることに上映時間の四分の三……
いや、
五分の四くらいが、すべてカー・チェイス!!!
( ; ゜Д゜)マジカヨ……
これがちょっと度肝抜かれましたね。
おそらくは映画史上最も長いカーチェイスなんじゃね?──というトンデモナイ映画に仕上がってるじゃあ〜りませんか。
昔、ボクがまだお子ちゃまだった頃、『レイダース/失われたアーク』をTVで観て
「ああ、ラブシーンも説明シーンもなしで、冒頭のあの洞窟アクション・シーンみたいなのがずっとずっとずっ〜と休憩なしに二時間続いたらどんなにか面白いだろう……」
──なんて思っていたのですが(まあ、お子ちゃまですからね、会話シーンやドラマより動きのあるアクションだけが見たい年頃なわけですよw)まさか「その願い」がここで叶うことになろうとは。
しかも結構凄い。
何度も、
『うわ、危ねって!』とか、
『よせってよせってよせって、ダメだって!』とか、
『うわ、アイツ絶対死んだよ。死んだって!(スタントマンのことね)』とか、
結構ポツポツ声に出してたような(あ、もちろん劇場ではないですよ。DVDが初見でした)
今でこそボクは脚本重視の見方でありますが、そんなものこの映画にはあってないようなもの。なのにこれほど映画館に足を運ばなかったことをガクブルで後悔したのは久しぶりでした。
後に再上映やモノクロ・バージョンなども公開され観ることができましたが、配信や狭苦しい画面でなく、映画館のデカいスクリーンでこそ観たい映画……観るための映画といっていい一本ですやね。
先日、新作の『フュリオサ』を観た時も改めて感じたんですがやはり「広い」んですわ。他の映画に比べ高層ビルも電線も、ましてや木すら無い。邪魔なものが一切なく『アラビアのロレンス(1962)』などと同じく大きなスクリーンがさらに広く感じるんですよね。
本作『怒りのデスロード』を、中には「ただ行って戻ってくるだけの映画」という人も見かけましたが、いいんですよ、コレは、それで! (まあその通りだしねw)
『マッドマックス/怒りのデスロード』は良く言い変えれば『ロード・オブ・ザ・リング』などのファンタジーの基本概念「行きて帰りし物語」なのであります。そもそも『マッドマックス』は英雄神話を研究した神話学者ジョゼフ・キャンベルによる著書『千の顔を持つ英雄』をテーマとされてるのも有名な話です。
この『千の顔を持つ英雄』という本は物語ではなく、古今東西の神話・伝承に登場する英雄たちを、ユング心理学の原理に立って分析し、そこに現れる無意識の象徴の意味を明かす分析書のようなものです。
ジョージ・ルーカスも大学の授業で感銘した1人で、それをもとに出来上がったのがかの『スター・ウォーズ』ですね。
以前「映画『ザ・ホエール』は面白かったのか?」の時に紹介した旧約聖書の『ヨナとクジラ』にもかなり共通したものがありますのでよろしければ⬆タップしてお読みくださいませ。
主人公(フュリオサ)は神(支配者イモータン・ジョー)から逃げ、苦難というクジラに飲み込まれ、真実を知り、導く者(マックス)に出会い、自己を見つめ帰還する──
そんなテーマを内包しつつ、しかも「何も考えなくていい」というエンタメに、ここまで振り切ってくれる映画も珍しいですからね。
ただひとつ違うのはこの『怒りのデスロード』では皆「帰る場所がない」んですよ。そこがポイントであり、それこそがこの作品の「核」だといっても過言ではありません。劇中で何度も「帰りたい」「帰る場所」といった言葉が使われますし、ピークはやはり故郷を失ったフュリオサが砂漠にうずくまり声高く叫ぶシーンでしょう。
ユダヤ人などといった「故郷を喪失」した人種や、また女性が男性のもとへ嫁ぐといった意味での「喪失」などもありますが、自然を失い、資源を失い、人間性を失った世界からもう元には帰れなくなってしまうかもしれないよ──といった意味での「故郷喪失」こそ、『マッドマックス』がシリーズを通して最も強く呼びかけてるテーマだとわかります。
「女性は男が帰るべき場所」や、「女は港」など──そんな考え方はもはや古く、過去のものですが、それでもクライマックスのフュリオサからは「ならば帰る場所を作るのだ。今度は私自身が“帰る場所”となるのだ」という執念すら感じます。逆説的ですが、故郷を失ったフュリオサが自ら「港」を作るために戦っているようにも見えてくるんですよね。
そしてそれは現在公開されている『フュリオサ』のラストシーン、「怒り」や「恨み」を地に埋め、肥やしとし、木に生まれ変わらせるのだ──という行為からもわかるような気がします。
なので『怒りのデスロード』は既にフュリオサが主人公であるといえます。葛藤や目的遂行を持ってるのはマックスでなく彼女の方だからです。
マックスはどちらかといえば逃げたかっただけなのに巻き込まれてしまったという形になりますが、結果的に主人公を導くオビ=ワン・ケノービやガンダルフのような賢者的立ち位置だったといえるでしょうね。
マックスの場合、過去作はシリーズを通してそうですが──巻き込まれ、不条理に対する怒りが芽生え、時には情が生まれ、結果として誰かを救うことになるというのが定番となっております。 逆にそこにスーパーヒーローのようなあからさまな正義感というものがない分、誰もがそうなれる可能性を秘めた「地についた“孤独のヒーロー”」であることには変わりないのですが。
そういえば『怒りのデスロード』が公開された年、2016年アカデミー授賞式、10部門ノミネートされていた本作があまりにもバカバカと賞を獲得していくもんなんで「ドキュメンタリー部門受賞」発表の時にも『マッドマックス!』とホストがジョークを言っていたのを思い出しますね。思わず鼻からコーヒーぶちまけるくらい爆笑したのを覚えておりますw
最終的に6部門を受賞──衣装デザイン賞、録音賞、美術賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、音響編集賞を獲得。
この年の作品賞は『スポットライト/世紀のスクープ(2015)』でした。
この年は他にスピルバーグの『ブリッジ・オブ・スパイ(2015)』や『レヴェナント/蘇えりし者(2015)』『マネー・ショート/華麗なる大逆転(2015)』などと争っておりますね。
監督賞は『レヴェナント/蘇りし者』のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが二年連続で獲得してます。
う〜ん、作品賞はともかくジョージ・ミラーにはここで監督賞獲ってほしかったなぁ!
(´Д`)
では、また次回に!
【本作からの枝分かれ映画、勝手に選】
映画『マッドマックス』
映画『マッドマックス2』
映画『マッドマックス/サンダードーム』
映画『ベイブ』
映画『ベイブ/都会ヘ行く』
映画『ハッピー・フィート』