Take-43:映画『聖地には蜘蛛が巣を張る(2022)』は面白かったのか?──強姦した方もされた方も石打ち? イランの異常性とは──
【この映画のキャッチコピー】
『それは、一線を超える』
【作品の舞台】
イラン北東部にあるラザヴィー・ホラーサーン州の州都、マシュハドで起こった事件が元となっており、映画の舞台も同じ設定。
マシュハドはイスラム教シーア派における聖廟都市(聖地)の一つで人口は約300万人、首都テヘランに次ぐイラン第二の都市です。
但しマシュハド現地では撮影の許可が下りず、代替でヨルダンへ。しかしコロナウィルスの影響でトルコへ現場を移しますがそこでも許可が下りず。紆余曲折の経て、最終的に時期を置き再びヨルダン・ハシミテ王国の首都、アンマンを中心に撮影されております。
【原題】
『Holy Spider』
ペルシア語『عنکبوت مقدس』
英題と同じく「聖なる蜘蛛」の意味。
【上映時間:115分】
皆さま、よき映画ライフをお過ごしでしょうか? N市の野良猫、ペイザンヌです。
さて、現在公開されている『アプレンティス/ドナルド・トランプの創り方(2024)』の監督、アリ・アッバシ。本作『聖地には蜘蛛が巣を張る』は、この監督さんの前作にあたります。
『アプレンティス』の方はアリ・アッバシ自身は脚本では参加してないようですが、昨年のカンヌの情報を耳にした時、これまでの作風からして「え、なぜに今回はトランプ?」と少し呆気に取られてたのを覚えてます。
我が町、長崎では遅れての公開となりまだ未見ですので、その辺りをまだ確かめられてないのが残念であります。
下に貼った記事にもありますが、この『アプレンティス』決してイデオロギー論争を起こしたいわけではなく「人間の複雑さ」──そして、下の文のようなことを描きたかったと監督は言ってます。
まあ、まだ観てない映画のことをとやかく語るのも野暮なので、新作のことはひとまず置いておくとします。
んで、今回取り上げた『聖地には蜘蛛が巣を張る』。
こちらは劇場で観ました。
ざわざわするんですよ。観たあとに。
近年イラン映画が個人的にかなり面白いのはそこが理由であります。
なんかね、こう書くと語弊がありますがSFなんですよ。
これホントに地球上の物語なのか? どこか違う星、惑星タトゥーインの話じゃないのか? と、日本の片田舎で暮らすボクはやはりどこかで衝撃を受けたわけなんですよね。
まあね、『ガンニバル』のように田舎にも田舎なりの暗黙の掟があるっちゃあるわけですが(人は食いませんw)「郷に入っては郷に従え」の「郷」ってのは、本来この映画のようなものを指すのかもな……そう思うと少し怖くなるくらいでしたね。
この映画は、サイード・ハナイという男が2000年から2001年にかけて、マシュハドで娼婦として働いていた16人もの女性を殺害した実際の連続殺人事件から着想を得られております。
観る前は謎解きかと思いましたが、ヒッチコックの『フレンジー(1972)』形式と言うのか、犯人側とそれを追う女性ジャーナリストの視点が交互に映される──そんなつくりでした。
ハリウッド映画ならここらへんで終わりだな──てとこからもう一幕あるわけですが、この最後の一幕が「ドンデン返し」とかではなく「なんだコレは?」という得も知れぬ「ざわつき」の最高潮となるんですよ……
観た後、「自分がこの映画に対して湧いた感情って、はたして合ってんのかな?」とやけに疑問に感じまして、すぐさまwikiを探りました。
そこには監督が若かりし頃、実際にイランで遭遇した連続殺人の結末が「あまりに奇妙だった」ことが言及されており、「あ、よかった。ドンピシャだわ。コレを観て感じたことと全く同じだ」と胸を撫で下ろしたくらいです。
イラン映画深いです……
「生活が苦しいから体を売るしかない」という女性たち。そんな女たちがいるから神聖な地が汚れるんだという矛盾。
決して「私利私欲のためでなく、純粋に、真っ直ぐに」連続殺人を犯していく男。
もし自分が現地に住み、このようなな情勢・宗教観をず〜っと見せられて暮らしたら洗脳というか、確かにそちら側の「郷」、「そちら側の理論」に飲み込まれれてしまうかもしれない……
そんな怖さがあったというか。
順序は逆なれど、こういう事件の現場にいたアリ・アッバシ監督が『ボーダー/二つの世界(2018)』でデビューを果たしたのはなるほどな〜と唸りましたね。一見全く違う作品のように見えるんですが根っこは全く一緒であるように見えました。
ネタバレになるので多くは書きませんが、カンヌ国際映画祭で「ある視点賞」を獲った、この『ボーダー/二つの世界』もまさに「異人種」という中で起こる「常識の逆転」を描いており通ずるものがあります。
そもそもあの映画が興味深かったので本作も足を運んだというのもあるんですけどね。
だからこそ新作の『アプレンティス/ドナルド・トランプの創り方』に「ん??」となったのですが、ひょっとしたらそこにも何かしらこの監督の世界観との繋がりが見えるのかもしれない……そんな期待も密かにしております。
もともと女性への扱いが乱暴な国だというイラン。
「独身の女性」、または「離婚した女性」など特に雑に扱われる姿を近年の『白い牛のバラッド(2020)』や『英雄の条件(2021)』などで「普通に」「当然の如く」見せられてるうちに、だんだんこの国のことがわかってきたというか……(わかっていいものなのか?)
昨年末にも女性のヒジャブ着用の新法で、抗議がありました。イランの有名シンガーがヒジャブを着用せずコンサートを行い逮捕、その後に亡くなった事件に対することへの抗議です。
女性の体のラインが見えるような服を着用するのを禁じているイラン。日本でも、何か事件が起こるたびに「そんな服を着てる方が悪い」などといった論争が起こることも常になってきてますが、行きつくところまで行ってしまうと、だったらこのイランのような法律でも無けりゃ駄目なんじゃないか?──なんて、とんでもなく飛躍してしまう不安もありますやね。
また、イランに根強く残る姦通罪においてはもう無茶苦茶です。イランでは強姦した方もされた方も「神に背いた」として罰されます。
鞭打ち、もしくは女性が既婚者である場合は石打ちによる死刑もあります。以前など強姦した方の男は鞭打ち100回で済んだけれど、被害者である少女の方が死刑になった──そんな事例もあり、逆に「神はいるのか?」と思ってしまうようなひどい法律ですわな。
そんな異質なる、謎の惑星、未知なるSF──イラン映画。しかし確実にこのような世界が地球上に存在してることが日本人からしてみるとどうにも不思議というか……不気味にすら思えてきたりします。それともこちらが少し平和ボケに染まってる証なのか?──などとよくわからなくなってきます。
もっと観てみたいな……
まあ正確に言えば本作『聖地には蜘蛛が巣を張る』は“イラン映画”ではありません。あしからず。「イランを舞台にした」デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス合作の作品ですね。
では、また次回に!
『聖地には蜘蛛が巣を張る』 [DVD]
『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』
『フレンジー 』[DVD]
『ボーダー 二つの世界』 [Blu-ray]
原作『ボーダー/二つの世界』 (ハヤカワ文庫NV)
『白い牛のバラッド』(DVD・Blu-rayはありませんでした💧)
『英雄の証明』 [Blu-Ray]