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Contents (循環器 [総論・心臓])

理学・作業療法士や柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師を目指す学生さんを始めとして、医師・歯科医師を目指す学生さん、そしてすでに現場で働かれている医療従事者の方々にとって循環器は解剖学を学ぶ中でも特に重要な領域の1つだと考えます。理学・作業療法師、看護師、柔道整復師、鍼灸師、はり師きゅう師、あん摩マッサージ師の過去全ての国試を分析しさらに解剖学の定期試験で問われやすいポイントを赤で表記しています。
さらにオフラインでも学習できるようにダウンロード用PDFファイルも用意しました。PDFファイルは循環器(総論・心臓)の説明スライド14枚、関連する国家試験問題と解説(作業・理学療法士、看護師、柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ師の過去問から合計54問)、問題集と解説文を搭載しています。循環器(総論・心臓)をマスターしたいあなたへ圧倒的な構成内容でお届けします!


総論

スライド1

循環器系心臓と血管からなる心血管系と、リンパ管とリンパ節からなるリンパ系に分類することができます。循環器系は酸素や二酸化炭素の運搬、体に必要な栄養素や不要な老廃物の運搬、熱の運搬、ホルモンの運搬といった輸送機能を担います。
はじめに血管系を構成する動脈と静脈、その内部を流れる血液の分類についてみていきます。動脈は心臓から拍出された血液を末梢に運ぶ血管で、静脈末梢からの血液を心臓に運ぶ血管を指します。血管内部を流れる血液は、酸素や二酸化炭素の濃度の違いによって動脈血静脈血に分類されます。動脈血とは酸素が豊富で二酸化炭素が少ない血液を、静脈血とは酸素が少なく二酸化炭素が豊富な血液を指します。一般的に、動脈内部を流れる血液は動脈血で静脈内部を流れる血液は静脈血です。例外的に、心臓の右心室から肺に向かう肺動脈の内部を流れる血液は静脈血で、肺から左心房に戻る肺静脈の内部を流れる血液は動脈血ですので注意しましょう。
循環は肺に向かってガス交換を行う循環である肺循環(小循環)全身を循環する体循環(大循環)に分類することができます。肺循環のスタートは右心室で、内部を流れる血液は肺動脈を通り肺に向かいます。肺の毛細血管で二酸化炭素炭素を排出し酸素を取り込んだ血液は肺静脈を介して左心房に戻ります。体循環は左心室に始まり、大動脈、さらに分岐した動脈によって血液が全身に運ばれ毛細血管で物質の交換(栄養素や老廃物、酸素や二酸化炭素など)を行った後、静脈として心臓に戻ります。全身の静脈は最終的に下行して右心房につながる上大静脈と上行して右心房につながる下大静脈とに統合されます。

血管の形態、構造

スライド2

動脈では動脈同士が吻合するパターンと吻合しないパターンが存在します。体の多くの場所では動脈は吻合しており、仮にある動脈が閉鎖したとしてもその他の動脈の枝からの血液供給を受けることができるようになっています。これを側副循環といいます。それに対して、動脈同士の吻合が無い動脈を終動脈と呼びます。体の中で終動脈は脳、肺、腎臓、脾臓、心臓に存在し、これらの臓器で血管の閉鎖が起こると組織は壊死します。終動脈の閉塞によって生じる脳梗塞や心筋梗塞は有名な疾患ですね。
動脈と静脈の間をつなぐのが毛細血管で(毛細血管と周りの組織によって構成される領域を毛細血管床といいます)、ここで物質交換が行われます。細動脈から分岐する毛細血管につながる動脈をメタ細動脈とよび、その周りを前毛細血管括約筋が取り巻き血流の調節を行います。毛細血管を挟まないで動脈から静脈につながることを動静脈吻合といい、手足の末端や顔の一部に存在します。手足における動静脈吻合は体温調節に重要な役割を担います。体温が上がった時は細動脈の平滑筋が弛緩することで血流が増加し放熱し、体温が下がった時は平滑筋が収縮し、血流を低下させることで放熱を防ぎます。このように手足の動静脈吻合は体温恒常性(体温を一定に保つこと)に重要なのです。脈管の脈管とは大血管に栄養を供給する小血管を指します。
次は血管の構造についてみてみましょう。動脈も静脈も疎性結合組織からなる外膜、弾性線維と平滑筋からなる中膜、内皮細胞からなる内膜の三層構造ですが、大きく異なる特徴が2つあります。1つ目は動脈の中膜は発達した平滑筋と弾性線維のため静脈と比べ厚い構造となっています。2つ目の違いは血液が逆流しないように静脈には静脈弁があります。静脈弁は全ての静脈にあるわけではありません。例えば右心房につながる上大静脈下大静脈、肝臓と消化管の間に存在する門脈や腎臓からつながる腎静脈顔面の静脈等には弁がないので注意しましょう。
毛細血管の構造は内皮細胞と基底膜から構成され、動脈や静脈に認められる弾性線維や平滑筋はありません。毛細血管は動脈や静脈の外膜や中膜がない血管というとイメージしやすいですね。

心臓(形状、位置)

スライド3

ここからは心臓についてみていきます。心臓の形状は四角錘をイメージすると良いでしょう。四角錘の底面は心房が存在し(心底部と呼びます)、四角錘の頂点には心尖が存在します。心底部は背中側で心尖部は前胸壁側なので、心臓は横隔膜の上に横たわるように存在する臓器です。心臓の大きさは成人で握りこぶし大で重さは200~300gです。
心臓は左右の肺の間の空間である縦隔に存在します。①の図で縦隔を点線で示していますが、縦隔には心臓の他に、心臓に出入りする血管や、気管・気管支、食道などがあります。心尖は左第5肋骨と第6肋骨の間である第5肋間と鎖骨中央部との交点に存在し、ここで心尖拍動を触診することができます。心臓は左にあるというイメージがありますが、実際は心臓の1/3は正中線より右に、2/3は正中線より左に存在します。

心臓(冠状溝、室間溝)

スライド4

心臓の外観をみていきましょう。心臓表面には冠状溝室間溝という溝があり心房や心室の境界となります。これらの溝は心房・心室の境界に相当する大事な溝ですが、その溝を走行する動静脈との対応も重要なポイントになります。冠状溝は心房と心室の間の溝で、心臓を栄養する動脈である冠状動脈の枝や心臓の静脈が集まる冠状静脈洞が走行します。室間溝は左右の心室の境界に相当し心臓の前面には前室間溝、後面には後室間溝が存在します。前室間溝の上を左冠状動脈の前室間枝と大心(臓)静脈が、後室間溝上を右冠状動脈の後室間枝と中心(臓)静脈が走行します。冠状動脈の左右の別も重要ですのでしっかりと覚えるようにしましょう。
心臓に出入りする大血管は5種存在します。動脈は右心室から肺につながる肺動脈と左心室から全身に血液を送る大動脈の2種です。静脈は全身から右心房に戻る血液が通る上大静脈下大静脈、肺でガス交換後の血液が通り左心房につながる肺静脈の3種です。前のスライドでみましたが肺動脈と肺静脈は肺循環に、上・下大静脈と大動脈は体循環に関係する動静脈でしたね。

心臓(心房と心室、中隔)

スライド5

心臓には2つの心房と2つの心室からなる4つの部屋があります。これらの部屋を区切るのが、中隔と房室弁です。中隔は左右を分ける壁で、房室弁は心房と心室の間にある弁です。左右の心房の間は心房中隔左右の心室の間は心室中隔右心房と左心室の間は房室中隔と部位によって3つに分類されます。胎児期の心房中隔には卵円孔という穴が存在し、血液の一部は右心房から左心房に流れます。出生後はこの穴は閉じ、右心房側からみるとくぼんでいるので卵円窩という名前がついています。なぜ胎児に卵円孔があるのかについては胎児循環の所で説明します。

心臓(弁、線維輪)

スライド6
スライド7

心臓には房室弁動脈弁という2種類の弁が存在します。スライド7の図は房室弁と動脈弁が存在するレベルの断面図で、上下左右や肺動脈と大動脈の位置関係は間違いやすいので気を付けましょう。房室弁は左右にあり右の房室弁を三尖弁左の房室弁を僧帽弁とも呼びます。三尖弁と僧帽弁を作る弁の数はそれぞれ前尖・後尖・中隔尖の3枚と前尖・後尖の2枚で違うので注意が必要です。これらの房室弁は腱索というひも状の構造で乳頭筋と結合します。血液が心房から心室に流れこむ拡張期では房室弁は開いていますが、心臓の収縮期では心房へ血液が逆流しないように房室弁は閉じます。
動脈弁は前、右、左の半月弁からなる肺動脈弁右、左、後の半月弁からなる大動脈弁があります。それぞれの半月弁中央部はこぶ状に隆起し半月弁結節が存在します。房室弁周囲は線維輪と呼ばれる結合組織によって取り囲まれており、刺激伝導系の房室束(ヒス束)が通過する一部を除いて完全に心房の筋と心室の筋を分離します。

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