ひと色展旅行記 中
ひと色展控室でバナナパンを頬張ったぼくは、背負っていたリュックを、どっしりとした象のようなソファにどすりと置く。
中身がとても重たかったのだ。
およそチワワ成犬6匹分ぐらいはあったと、そう言い伝えられている。
さて、イシノアサミはどこなのだろう?
姿が見えぬが。
と、うわちゃんに言う。
そだ。お客さんと一緒にまわりながらお話をしてるだよ、とうわちゃんが答える。
それならば先にちょっとだけあたりをみてまわろう。
大倉山記念館は、なかなかに面白い造りになっていて様々な小さな造りのおもしろき趣に目が奪われる。
ぼーろさん、アサミさん、そこにいますよ?
鍵穴を覗いていると、うしろからうわちゃんに声をかけられる。すると、回廊の端のほうにイシノアサミの姿がちらりと見えた。
ぼくは重厚な金属扉の向こう側へ行き、うわちゃんやさちさんに声をかけた。
イシノアサミをここに呼んで!
鍵穴を覗かせて!
わたしが来たことは内緒にして!!
彼女たちはにやりと笑ってとてもゆっくりとうなづいた。
さてここで、ひと色展を出た後の、僕の足取りを一足先に一足飛びにお届けする。
大倉山駅→横浜駅→藤沢駅→江ノ島駅
江の島ってちっちゃく見えるからちゅるちゅるってそうめんのようにあっさりいただけるものなのだとばかり思っていたら、江の島の奥へ進めば進むほど観光客たちの顔つきが、誤って人を刺してしまったときのような絶望した顔つきに変わってゆくのがわかった。
江の島はとても広く、一周すると四時間かかるそうな。江の島最深部の洞窟では、もはや誰も喋るものはいない。地獄のような顔つきであった。
浮世絵とかだと子どもたちも楽しそうな感じなのに。
江の島では、福岡の宗像大社の三人の女神、宗像三女が祭られている。自ずと社が三つあるのでそれらをめぐろうとすると島を回ることになる。
あんなに観光客が無口な観光地もあんまりないと思う。
海苔の海洋の滋味。
小豆とさとうきびの大地の滋味。
甘味と塩味が、汗でミネラルを失った体中に染み渡る。旨い。
まずマーケティングとしてこの場所で店をしていることが上手い。江の島はエネルギーを使うから、ここでこれを食べていなければ残りの江の島巡りを断念して海の藻屑となって消えていたことであろうな。
そしてこの後すぐにしらす丼を食べる!
江の島にはタイワンリスが生息しているらしく、店の中をしっぽふわふわの可愛いリスが駆け抜けていった。
江ノ島信仰の根源は海水が掘り進めた洞窟の奥にある。土偶のような顔つきの二体の狛犬が護る石の社。
神秘的な空間でとても勉強になこれからまた同じルートをまた歩いて帰らなければならないとおもうとうなだれった。
江ノ島は美しかった。
ひと色展旅行記 下 に続く。
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