あおいくちびる
私はいま服屋さんでバイトをしているのだけど、服屋でバイトをしていると、季節感とかを意識して服を選ばなくてはならなくなる。
3月になってから、東京では最高気温が15℃以上に予報される日がちらほらと出てきた。最高気温が15℃以上だと、太陽が出ている時間帯ならタイツはもう不要だろう。ひとによっては発熱効果のあるインナーは暑く感じるのではないだろうか。
ファッションを取り扱うお店はもう春真っ只中だ。一枚で着れるシャツやブラウスがずらりと並び、冬用のニットはもう出していない、出していても50%オフのシールが貼られていたりと、もう厚着はそろそろおしまいだよねと春を先取りしてくる。店全体の色も黄色や緑、インディゴデニムなどの爽やかなカラーが揃う。
それに合わせて店員である私も、働くときの服装は春の装いだ。
デニムのスカートを履いて、黄色いTシャツに白い爽やかな薄手のカーディガンを羽織って出勤。鮮やかなパステルカラーの靴下とか履いちゃって。冬ものコートの中は春だ。コートを脱いだらすぐに働けるように着て向かうけど、実際まだ寒いのでスカートの下にタイツを履いて職場で脱いで働いている。ショッピングモールの中はとても暑い。
こないだはリネン100%のズボンを履いて出勤した。真夏に着ても涼しい素材なので、今はもちろんとても寒い。だけどタイツ履いて出勤する。
それに私はリネンの素材がとても好きなので、早くこれが着たいとずっと思っていたので、寒いけど内心かなりうきうきしていた。でもさすがに駅のホームで電車を待つ間、あまりに寒すぎて、いま自分のマスクの中にある唇は青くなっているだろうなと想像した。フィッティングモデルの仕事を少しだけやらせてもらった時期のことを思い出した。
いまから1年前くらい。メンタルがかなり回復して、仕事をそろそろ増やすかと思い立ち、いろんな仕事を見て探していた。その中に服屋でまた働くことも考えていて、アパレル業の会社ホームページの求人を片っ端から見て回っていた。すると不思議な仕事を見つけた。
「フィッティングモデル」
私が大好きだけど高くて買ったことのない憧れの服屋での募集だった。募集要項を見ると、「身長162cm前後、服の着用サイズがMサイズ」と書かれていた。私は身長163cm。好みの長さにもよるけどだいたいの服のサイズはMサイズを着ている。
私の仕事じゃん!と思って軽い気持ちで応募した。職務経歴書が必要だったので、周りの就活経験のある友達に手伝ってもらい、面接に行った。割とすんなりと受かった。
フィッティングモデルという仕事。
簡単に説明すると服の着丈や人が着た感じを的確に伝えられるように服を着て、写真をとってもらうって感じの仕事。
普通のモデルさんはおしゃれな撮影現場に行ってごはんや小物などを使って服やブランドのイメージを伝えるけども、フィッティングモデルは服そのものを伝えるための仕事なので、撮影スタジオは真っ白背景で、大きな窓から太陽光が刺している(服の色がそのほうが自然だから)。小物とかもあんまり用意されない。
いろんなポーズをするけども、正面、横、後ろ姿は必ず撮影されて、特徴のある服を着ているときはその特徴部分をアップにして撮影をされる。
いろんな人が想像しやすい具体的な写真だと、ウェブストアのモデルさん。いろんなポーズの写真が何枚か上がった後に、正面と横の姿、後ろ姿の写真がありませんか?それらを撮られる仕事でした。
2月の後半。面接をした事務所に向かいご挨拶をした。早速これ着てくださいと女性のカメラマンさんから服を手渡され、ドアがちゃんとついてる小さなフィッティングルームで着替えた。憧れの服屋の!!!春服だ!!!リネンだ!!!!!
服を着て扉を開けると撮影スタート。白背景の壁の前に立ってポーズをとる。
このポーズがなかなか難しかった。ただ棒立ちを要求されるもんだと思っていたけど、片足重心にしたり、ちょっと手や腕に動きを要求されたり、ときには服の質感を写真で伝えるべくくるくると回りまくったり。
そんなポーズのレパートリーなんて何にもないから、休憩中にカメラマンさんが他ブランドのインスタグラムとかをたくさん見せてくれた。こんなポーズもあるね!これとか次やってみようか!優しい。
その女性のカメラマンさんは、仕事は広報の仕事で、ウェブ関連の露出全般をになっていたみたい。なのでコーディネートをその人が考えて、その人がカメラを構えていた。私とその人とのマンツーマンの時間が多かった。ときどき他の広報担当の人もお手伝いに来てくれて、服のシワを整えにきたり、私が着終わった服をハンガーにかけてくれたりしていた。
撮影中、たまにスマホで音楽を流してくれるんだけど、そうすると最近の音楽の話題にもなったり、差し入れのお菓子を食べながらどこのお菓子屋さんが美味しいとか、そういう楽しい話も割とした。
おそらく15~20パターンのコーディネートを4~5時間かけて撮影していたと思う。とにかくたくさん着替えて、とにかくたくさん撮った。どのコーディネートも私が普段絶対やらないだろうなという組み合わせで、1つ1つの服がただでさえ可愛いのに、組み合わせで本当に素敵なコーディネートに大変身していくのが本当に楽しかった。しかもそのコーディネートを私が着るんだ。「私なんかが」とときどき思ってしまったけど、ずっと楽しかった。
ただ、まじで辛かったのは「寒さ」だった。
2月の後半はまだ気温1桁だけど、ファッションの業界は常に先を行くし、私はその"先"を一番最初にお披露目する仕事だったので、4月後半とかにみんながしてる格好をする。ブラウス一枚とか、長袖ワンピース一枚とか、足は素足で、服に動きをつけるため腕まくりとかする。
撮影スタジオは暖房をつけてくれているけど、かなり広いのでめちゃくちゃ暖かいって感じの部屋ではない。ちょうど私が着替えるフィッティングルームの真上にエアコンがあったので、着替えてる最中はあったかいけど、それ以外はかなり寒い。ずっと鳥肌が立っている状態での撮影だった。服にひびいたり透けたりするといけないのでヒートテックやタイツも着れない。
そこに加えて外撮影もたまにあるから、本当に大変だった。
2月や3月の日差しはぽかぽかして見えるけど、風は冷たくひんやりとしている。そこにガンガンの薄着をして出て撮影する。1時間くらい外にいたこともあったと思う。一応自分の着てきたコートを持って出たこともあったけども、歩いてる間も撮影し続けてたりするので結局着れず、ただの荷物になってしまった。
4~5時間の撮影が終わってフィッティングルームで着てきた服に着替えていると、くちびるが真っ青だったのを覚えている。たくさん着替える仕事なので、着替えの最中に服に化粧品をつけるのをできるだけ避けるため、フェイスカバーもしてるけど常にすっぴんで挑んでいた。顔出しなかったのが救い。
寒さを凌ぐために変な体力を使ったためか、なんだかヘトヘトのガクガクで、帰る電車に乗る前に耐えられずドトールに入ってあったかいココアを2杯ぐらい飲んでから帰宅し、布団に飛び込んで寝込んだこともある。
毎回仕事が終わると「もっと厚着をしてくればよかった」「なんでホッカイロ持ってくるの忘れたんだ」「手袋が欲しい」と強く強く思っていた。
いつのまにか寒さが減って、いつの間にか汗ばむ季節になっていた。
汗ばむ季節はそれはそれで気を遣った。いつもよりも10分早く到着するように心がけて、着いたらフィッティングルームにこもって服を脱ぎ、制汗シートで身体中を拭きまくる。私は汗っかきなほうなので、念には念を入れて3枚使って汗を拭いた。
服に匂いをつけてはいけないので、制汗シートも無香料のものを選んだ。相変わらずエアコンの効きはそこまで良くないので、扇風機に当たって全身の火照りを冷やした。
そんなに忙しい仕事ではなかったので、私が仕事をする頻度は週1〜2日だった。もっとお金が稼ぎたくなった。そろそろ秋服を着て撮影スタジオで汗だくになるだろうという頃に、私はその仕事をやめた。
顔は出していないものの、私が憧れの服を着た写真は、今でもインターネットの海を漂っている。たまに公式サイトを見に行っては嬉しかったあのときの気持ちを思い出す。
もっとお金を稼いで、次は大好きなあの服を、自分用で手に入れて着たい。汗とか寒さとか気にせず自由に着れるから。
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最後までお読みいただきありがとうございました!お知らせも読んでくれると嬉しいな。
お知らせ
久しぶりに「水野谷みき」名義のライブのお知らせです!
以下の3本が決まっております!
【1本目】
2022年4月20日(水) 東新宿にある 真昼の月 夜の太陽 にて
「太陽のセレナーデ~3マンライブ~」
人数限定&有料配信ライブ
開場18:00/開演と配信開始18:30
ご来場チケット前売¥2500/当日¥3000(ドリンク別)
有料配信チケット¥2200
出演 柳本しほり(O.A)、水野谷みき、ソラリナ、AKANITA(ITAZURA STORE)
ライブ配信や投げ銭の詳細は下記のリンクにて!
【2本目】
2022年6月9日(木) 高円寺ウーハ にて
開場19:00/開演19:30
料金2500円(+1ドリンク500円)
出演 天元ふみ、タクトくん、水野谷みき(19:30~)
お店の高円寺ウーハのHPは下記のリンクにて!
【3本目】
2022年7月29日(金) 高円寺ウーハ にて
開場19:00/開演19:30
料金2500円(+1ドリンク500円)
出演 松浦湊、ババカヲルコ、水野谷みき(19:30〜)
お店のHPは上記のものと同じです!
よかったらライブ見にきてね!それではまた次の記事で〜!