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シキカタ・キッズの夏
面接を担当していたおじさんは、ちょっといらだったように私の履歴書を表示したタブレットをパタン、とテーブルに置いた。
「色がちゃんと見えないんだ。——本当、最近多いんだけどさ、どうやって仕事するつもりなの」
「商品の名前と場所をしっかりおぼえますから」
私はモゴモゴと口ごもる。
「まあ、君のせいじゃないっていえばそうなんだけどさ——仕事が遅いんだよね、シキカタの子は」
よく言われることだ。す
ヨークシャーにて、コロナの季節に墓地を歩く
家の近所の墓地を歩いていて、新しい墓標が目につくことに気づく。──というよりは「気づき続けている」。
奇妙な表現なのだけれど、毎回「ああ、木製の十字架が目立つな」と思い、毎回なぜかそれを「忘れる」。子供を追いかけたり、家族のための食事を作ったり、子供達の勉強の面倒を見たり、合間の時間で掃除をしたりしながらなんとか読書と執筆の時間を作ろうと、日々の生活をまわして──いるうちに、忘れる。
そして、
ロックダウンのヨークシャーから
イギリス全土が封鎖されてちょうど一週間がたちました。この二週間ぐらいで、あまりにもめまぐるしく状況が変わり、今まで何かを書けるような状態ではありませんでした。
でも、ふと、こういう状態でどのように心身状態が変化するのかは書き留めておいた方が良い、と思い立ったので書いておきます。
恵まれた環境でもつらいこと。イギリスのロックダウンはフランスやイタリアのものよりもずっとゆるい形で始まりました。必需
ブレグジットごはん バナナ
第3話 バナナ 2012年 夏
「バナナは持った?」
2012年夏。東京。
一歳児を連れての移動に備えて私達はバタバタしている。幼い子供を連れての都内の移動は大変だ。お腹をすかせてぐずらないよう、バナナと赤ちゃんせんべい、麦茶あたりが必需品。
地味に粉ミルクとお湯がかさばる。イギリスにあったみたいな液体ミルクがあればいいのに。
「色よし! 形よし! EUも文句を言わない優良バナナ!」
ブレグジットごはん いちご摘み
第1話 いちご摘み 2016年 5月
「いちご摘みに行こう」
というような話になったのは5月のことだった。
イギリスのいちご摘みシーズンは5月から夏いっぱいだ。
土地が違えば旬が違うのも当然で、日本育ちの私は3月になるといちごが食べたくてそわそわするのだけれど、ちゃんとした地場物の美味しいいちごが食べたかったら、この国では5月まで待たなくちゃいけない。
いちごに砂糖をふりかけ