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書籍「いつか、アジアの街角で」

本屋さんの文庫本コーナーに平置きされていた「いつか、アジアの街角で」。
表紙がめっちゃ美味しそうなマンゴーかき氷で、パケ買いしました。

人気女性作家6人による短編集で、触れ込みは「心に沁みる珠玉のアジアン・アンソロジー」。

どのお話も、香港とか台湾とかアジアの香りをさせる物語で、めっちゃ面白かった。
特に印象的だった2編についてご紹介します。

・「停止する春」/ 島本理生

この短編集の中で一番恋愛要素が強い。さすが島本さん。(誰)

生理痛がひどくて会社を休んだ主人公は、翌日も、その翌日も、家から出られなくなった。
仕事をバリバリこなしてキャリアを積み上げてきたのに、初めてのずる休みをする。

ベッドから起き上がった主人公は大根餅が食べたくなって、大根をすりおろし、片栗粉でまとめて、大根餅をつくった。からし醤油とよく合う。

そのうち、ここ数年で起きた、両親の病気の介護、相次いだ死、既婚者との報われない恋、色々な場面が描かれていく。

辛かったんやなあ。仕事頑張ってても、みんなほんまに色々あるよなあ。
どんな辛いことがその人の毎日に降りかかってるのかって、仕事上の付き合いではほんまにわからんなあ。とか色々考えました。的確に仕事をこなしていくあの人も、気遣い上手なあの人も、何を抱えてるかわからんなあ。

そしてさすが島本さん(また言うてる)やなあと思ったのが、休んだ初日から主人公を気遣って連絡してきてくれていた、チームリーダーの長岡くんが実はキーパーソンで、終盤にあっと驚かされるところ。

そして肝心の「アジアン・アンソロジー」要素ですが、

母親が死ぬ前、病院の近くの大根餅を食べたいと言ったので買っていった。
今、主人公はその気持ちがなんとなくわかる。
「死んだ獣の肉を食らうほどの気力はなく、それでもほのかに辛い水分と弾力の中で、まだ生きて欲しているものがあることを味わっていたのかもしれない。」

なるほど、アジアン・アンソロジー要素を大根餅に一点集中させてきたか!
と膝を打ちました。

親の死や失恋で突然走れなくなるバリキャリ女性の話、というとありがちのようにも聞こえますが、読み応えのある短編でした。
大根餅、無性に食べたくなる。今度食べよ。

・「チャーチャンテン」/ 大島真寿美

このお話の魅力的なポイントは個人的に2つ。

  • 香港の美味しそうな食べ物がめちゃくちゃ登場すること

  • まだ記憶に新しい香港民主化運動の話がリアリティをもって語られること

生まれ育った香港で民主化運動に参加した末に、日本に渡った20代のケリー。
若いころ香港が大好きで毎月通っていた50代の奈美子。

この2人が、友人を介して出会い、今の香港、昔の香港について話しながら、ひたすら香港料理を食べる。

そのお店の名前が、タイトルの「チャーチャンテン」で、調べてみたら飯田橋に実際にあるやん!今度絶対行ってみよ。
なんせ、出てくる食べ物が美味しそうすぎる。

・公仔麺(ゴンヂャイミン):香港のインスタントラーメン
・鴛鴦茶(ユンヨンチャ):コーヒーと紅茶が合体した飲み物
・凍檸檬茶(ドンリンモンチャ):アイスレモンティー
・蛋三文治(ダンサーンマンジー):卵サンドウィッチ
・鳳爪(フォンジャウ):鶏の足
・蝦餃(ハーガウ):えび餃子
などなど。

香港の民主化運動は、もう全然報道されなくなりましたね。
ケリーは、香港では民主化運動に参加した若者たちの裁判がはじまっているのに、自分は逃げて、逃げた事実に向き合うのがつらくてもうニュースも見なくなって、でも辛くて、苦しくて…という胸の内を明かします。

私も、このお話を読んで久しぶりに、
「そういえば香港ってどうなったん?」となりました。
ちゃんと自分でウォッチしないと、何もかも忘れ去っていきますね。あかん。

他のお話もアジア感満載で、アジアに旅行に行ったことがある人もない人も、きっと楽しめるお話ばかりでした。是非。






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