構造に縛られない王国で

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大審問官の問題圏

ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』に、「大審問官の話」というものがある。この話は至る所で言及・引用されており、さまざまな解釈がある。今回はそうした解釈を紹介しながら、私なりに大審問官を読んでいきたい。 まずはあらすじを手短に述べよう。 カラマーゾフの兄弟には登場人物としてイヴァンとアリョーシャという兄弟がいる。大審問官の話では、簡単にいえば彼らは有神論か無神論かについて議論している。イヴァンは、神様がいるなら、罪のない児童がひどい目にあう児童虐待などはないはずだ、と

    • 越境

      机の上 白い茶碗に盛ったご飯の上で おにぎりのために 張り付けたのりはしおれていた そのとき気づいた 何かが 永遠に過ぎ去ってしまったと 今も永遠に 過ぎ去っているところだと 動けなくなって、 ずっとそのまま固まっていた。 ただ、 時間が過ぎていくのを 秒針が動いていくのを 眺めていた。 空が暗くなってきて 指先の逆むけを剥ぎ取る 自分に気づいた ちょっと動けるようになっていた やっとの思いでコンビニまで歩き、弁当を買った。 ぽっかり浮かぶ月の下で、寒い中、夜のコ

      • アジールとしての「トー横」

        私にとって、2017年の「トー横」というのは間違いなくアジールだった。まだ「トー横」という単語もそこまで流行ってはいない時、あそこに集まったあの人達を超える衝撃に、私はまだ出会えていない。 「トー横界隈」と呼称されるような歌舞伎町に集まる若者に代表される、現代の若年層に潜む精神病理について、考えたことを話したい。  さて、引用から始めさせてもらうと、マタイによる福音書の22章39節に「隣人を自分のように愛しなさい」という言葉がある。単純にこの言葉を理解すれば、「隣人を愛す