パーラー三芳

酒と良いあてあります。パーラー三芳、福岡今泉

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最近の記事

冷酒

『美味上等の冷酒は、貧乏徳利に酒を入れ75℃に熱燗。密封して、急遽氷桶で冷やしきって作る』 何気なく手に取った辰巳芳子さんの本に、そんな一文を見つけて嘆息しました。 次の夏まで待って、したり顔で真似でもしておけば少しは小粋を気取れたのでしょうが、堪え性がなく、また明日をも知れぬ店でもありますから、この秋の日にさっそく試してみたのです。 曰く、朝露ほどに冷やす。 酒にしろ豆腐にしろ、トマト、胡瓜、すべからく冷やし過ぎて旨味もわからぬようになってしまっては文字通り味気ない。

    • アラのちり鍋、キムチ鍋

      気がつけば鍋の良い季節。去年はもつ鍋、水炊き、鴨鍋について書いたけれども、今年はまた違った鍋をもう二種類ご案内したいと思う。どれもすごく飲めます。 アラのちり鍋 食べて旨い魚はいくらでもあって、その優劣をつけることは難しいけれど、こと鍋にしたときの「出汁」の旨さの話となると、アラという魚は頭一つ飛び抜けているように思う。 味は濃厚にして香り芳醇、滋味深く、それでいて飽くことなく飲み続けられるような優しい旨味。鍋も進んで少し煮詰まってくると、皮目のゼラチン質のおかげか、少しと

      • 素晴らしい「玉川」というお酒について

        美味しい日本酒があるんだよと勧められて良く出てくるのは、香り華やかな大吟醸か、あるいは乳酸が爽やかなキレのよい辛口、まずそのあたりが多かろうと思います。 ところがここでお勧めしようとしている「玉川」というお酒には、かけらもそれらの要素は感じられません。昨今流行りのモダンな日本酒には必須とも思われる、華やかさも爽やかさにも著しく欠けているわけです。 しかし、それが旨い。 初めて飲む人は、自分が一体何を飲んでいるのか、わからなくなるかもしれません。 バターを思わせるコクと少しの

        • 鮎と豆腐

          街にいても美味しい鮎が廉価に手に入るようになったのは、養殖と流通技術の発達で得られた素晴らしい恩恵だと思う。かつてはその希少さゆえ、食べる機会にはどうしても塩焼の一択を半ば強いられていた気がするけど今は違う。鮎という特別な魚の魅力を、あらゆる料理をもって堪能できるのは現代人の特権であるから大いに行使したい。 そんなわけで、僕は夏になると、はらわたを除いた鮎を素焼きにして風干しに乾燥させたものをたくさん作っておいて、いつでも取り出して使えるようにしている。ほぐしてパスタに炊き

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        • 愛すべき酒について
          2本
        • 三芳の酒、肴
          22本

        記事

          スパイシーなもの

          夏はスパイス。 日本人にとってそれは未知の世界のものだから、どんなに慣れたつもりでも醤油と同じにはいかなくて、作るとき食べるとき、いつもそわそわした気持ちがつきまとう。そんな浮ついたところもなんとなく夏らしい。 鶏と焼き茄子のガンボ 黒胡椒、フェンネルシードをホールのままオリーブオイルで温めて香りをだし、そこに刻んだにんにく、唐辛子、さらに鶏肉とスライスした玉ねぎ、ピーマンを加えて炒め、クミン、コリアンダー、粉唐辛子、パプリカ、さらに酒かワインと水、コクを出すために昆布とト

          スパイシーなもの

          年度末いろいろ

          年度末の慌しさにかまけてしばらく書けていなかったところを少し思い出して特に面白かったものをまとめて書いておこう。取りこぼしはないかな・・・ 濁り酒と山椒の唐揚げ 乳酸と山椒がまぁ実にお酒に合う唐揚げになる。 存外胸肉を使ってもよかった。 あら鍋 白身のうまさもさることながら、あら出汁の味わいに比肩するものなし。 次のシーズンはもっと使っていこう。 とりきもの煮物 香草スパイス一切入れず、酒とみりんと醤油で低温1時間。 肝自体がある程度新鮮なら臭みも出ないので、そうやって

          年度末いろいろ

          黒豚と桜島大根の塩煮、イイダコと揚げた新じゃがのマリネ、焦がし雑炊

          黒豚と桜島大根の塩煮 昆布と一緒に黒豚のバラ肉を茹でておいたその湯に、桜島大根を大きめの乱切りにしたものを入れて酒と塩、丁寧にアクを取りながら20分ほど煮る。皿に盛る際には、バラ肉は薄くスライスして大根に添える。 巨大なる桜島大根をいただいて、いくつかのことを試したけれども、これが一番よかった。見た目とは正反対とも言えるその繊細な味わいを損なわぬためには薄口醤油ですらも邪魔で、ただ塩のみ。煮てすぐは山椒などをふりかけると良いように思えたけれど、2、3日もして味がしみてくると、

          黒豚と桜島大根の塩煮、イイダコと揚げた新じゃがのマリネ、焦がし雑炊

          山椒のきいた炒り豆腐、牡蠣の佃煮、水イカの墨田楽

          山椒のきいた炒り豆腐 細切れにした地鶏を炒めて、水切りして崩した豆腐、出汁と醤油、水分が程よく飛んだところで卵を割り入れて、火を止めたら塩で調味、ごま、葱。 このところずっとはまっている炒り豆腐、今回は唐辛子の代わりに山椒をふりかけてみたけれど、これもまた良い。炒り豆腐という食べ物は、福岡の人はあまり食べないようだけれど、他地域ではどうなのだろう。いずれにしても、こんなに手軽で安価で美味しい料理を食べないという手はないと思う。 牡蠣の佃煮 醤油味醂酒を火にかけて沸騰させたと

          山椒のきいた炒り豆腐、牡蠣の佃煮、水イカの墨田楽

          七草粥

          七草粥、あるいはそれに限らず四季ごとの伝統的な食習慣などは、平常季節感を見失いがちな現代人こそ大切にすると良いように思う。 形にはこだわらない。肝要なのはそれを「している」という意識なのだから、形にこだわりすぎて億劫になるくらいなら、表面上のスタイルは多少崩してでも続けた方が良いに決まっている。 平たくいうと「粥じゃあ酒が飲めない」。ということでリゾットでもチャーハンでもよかったけれど、今回は中華粥に。 七草の中華粥 出汁は干し海老、アゴ、スルメ、しいたけ、昆布、猪の脂、そ

          年末年始いろいろ

          実家の倉庫の奥の奥に立派な四段重を見つけたのは去年の春頃のことで、それ以来機会を見つけては積極的に使うようにしている。気ぜわしい年末にわざわざ重箱料理を拵えようというのは、滅多に着ることのない晴れ着を苦労して着付け、楽しむのと同じようなものだと思う。そういう遊びができるゆとりを構えて忘れないようにしたい。 御重 日程の都合上、御節ではなく年末料理として。 来年こそは御節として御重の本領を発揮させてやりたいところだが、個人的には、御節に付き物の「茹でた海老」、あれがどうしても

          年末年始いろいろ

          牡蠣焼き、アオナの一夜干し、風呂吹き大根

          初めて数ヶ月。だんだんに冬らしくなってくる「あて」の内容を見返すと、あらためて四季があることのありがたみを思う。 牡蠣焼き 牡蠣の殻を外した中身をすり鉢で擦って、味噌味醂、適当な野菜を刻みいれたペースト状のものを、外しておいた殻に詰めて下火で焼いてつまみにする。 東北ではホタテでやるという貝焼きを、牡蠣を使ってやってみたもの。牡蠣の旨味と味噌の香ばしさが良いあてになる。 殻の大きさの都合で、溶き卵を流し入れることができなかったが、次は「牡蠣味噌」を作る段で混ぜ込んでみると面

          牡蠣焼き、アオナの一夜干し、風呂吹き大根

          カニとキムチのスープ、いかの梅酢ぬた、はまぐり汁

          カニとキムチのスープ ワタリガニを割って殻ごとごま油で炒めたところに、水と昆布を加えてくつくつと出汁をとる。味付けはキムチ、賽の目の豆腐に薄口醤油、塩。 キムチは昆布の旨味を損なわない程度に入れるのが良い。 いかの梅酢ぬた いただいた梅酢味噌に、茹でたヤリイカを合わせてぬたに。実も取り出して混ぜ込んでおく。 ここで使った梅酢味噌というものは、手作りの麦味噌に梅を漬け込んで置いたもので、平戸あたりではこういう食べ方をするらしい。 はまぐり汁 熱したフライパンに生の貝と酒を入

          カニとキムチのスープ、いかの梅酢ぬた、はまぐり汁

          落ち鱸の潮汁、茹でた豚肉、八宝菜

          寒いこれからの時期はお通しに汁物があると嬉しいような気がする。ちょうど古い大内塗りの小さな汁椀を手に入れたところだった。 落ち鱸の潮汁 骨と頭でゆっくりとった塩味の出汁に、身の部分を炙って入れる。 澄んだ香りにわずかな焦げが芳ばしい。この方法はなかなか良い。 茹でた豚肉 塩をしたもも肉を塊のまま鉄鍋で低温1時間、柔らかく。 このシンプルな美味さはどんなソースにも合うだろうから、定番として作っておいて遊んでみるのも面白いような気がする。 八宝菜 豚肉を水で煮込んだ残り

          落ち鱸の潮汁、茹でた豚肉、八宝菜

          鶏皮のネジネジ風、芝海老のエビチリ、野菜のスープ

          鶏皮のネジネジ風 鶏皮を1週間ほど醤油と酒に漬け込んだ後に丸二日ほど風干しにしたものを、軽く炙って食べる。 このところ福岡のどこでもみるようになった、あのネジネジした鶏皮串をイメージして作ってみたものだが、これがなかなか良いものに仕上がったように思う。あくまでネジネジ"風"なのは、串にネジネジするのが面倒だからで、三芳では軽く炙ったものをスルメのようにハサミで切ってお出しする。 芝海老のエビチリ 少し多めの油を熱した中華鍋で芝海老をからりと焼いたところで、刻んだ玉ねぎ、豆板

          鶏皮のネジネジ風、芝海老のエビチリ、野菜のスープ

          鮭料理

          福岡生活道具店と共同開催の会の二度目、今回は「鮭をたべる」 馴染みがあるようで実は福岡では意外と知られていない鮭料理をいろいろ試せる機会が得られたのは貴重であったし、なかなかに面白くもあった。 檀流三平汁 鮭のあらに塩をしておいたものを昆布と一緒に水から火をかけて出汁をとり、良い具合の温度になったところで、鮭の身のところを適量、人参、皮のまま炒めた新じゃが、大根、ごぼう、白菜を加えて火を通しながら、味噌と酒粕を溶かし込む。 一般的にはこういう料理を石狩鍋とか石狩汁とかいって

          副産物いろいろ

          残り物、余り物、あるいは失敗作から、新しい発見、これまで知らなかった美味を見つけるということはしばしばあって、料理を作っていてこのときほどわくわくすることはないように思う。 炙った鶏と白菜のくたくた煮 鶏もも肉を焼いて冷やしておいたものを削ぎ身にして、白菜と一緒に薄口の出汁でくたくたになるまで煮る。 地鶏の塩焼きのあまりを活用した副産物なのだが、これを作る過程でもう一つ、妙にクオリティの高い副産物を得ることに成功した。後述。 炙った地鶏を冷やして削ぎ身にしたもの 塩をした

          副産物いろいろ