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ヘッドホンは性癖では無い。
新宿三丁目駅の改札を抜け、地上に向かうエスカレーター。
すれ違う下り側のエスカレーターには、凡そ70代のシルバーのヘアカラーの素敵な女性。僕の視線は無条件に惹きつけられた。理由はヘッドホンを着けていたから。それだけ。イヤホンではなくヘッドホン。僕は思わず笑みが溢れた。
(↓これだった)
実は僕はヘッドホンをつけている人に無性に惹かれるのは今に始まったことじゃない。同じヘッドホンをつけていても、男性よりも女性の方が魅力的に感じる傾向があるのは明らかだった。これは性癖では無いと思う。(完全否定するほどの自信と根拠は無いのだけど)
相対的に女性のヘッドホン着用者を街中で見かけることが少ないため、どこかで希少価値を感じていたのだろう。単純にヘッドホンしている姿はファッション的に好きなこともある。一般的にはイヤホンの方が持ち運びは手軽だし、夏場は蒸れない。情報を耳から入れるだけならイヤホンで十分である。それでもヘッドホンが良いのだ。
なんの音楽を聴いているのだろう。
ヘッドホンをしている人には、特にそのことが気になる。
許されるならヘッドホンをしている人を街角でインタビューしたい。片っ端から。性別も年齢も問わずに。(やっぱり性癖ではない)
清潔感には気を配った僕はスケッチブック片手に街角に立つ。
手を挙げて、口を無音でパクパクする僕。
立ち止まるヘッドホン愛用者。
さらに口をパクパクする僕。
思わずヘッドホンを外してくれるヘッドホン愛用者。
僕は尋ね、一瞬ヘッドホンをお借りする。
音に揺れる僕の体とそのリアクションを楽しむヘッドホン着用者。
スケッチブックにアーティスト名と正の字を書いていく。
(繰り返し)
渋谷のデータが取れた。次の街へ。
(これも繰り返し)
なんて、怪しすぎて出来やしないことを一通り妄想して気を落ち着ける。
人生の時間有限で限られた体験しかできない。幸せを感じる時間に、幸せを感じる五感。五感の一つの聴覚も有限だ。年齢を重ねると聴こえづらくなる周波数もあるという。
耳も有限だからこそ、僕は自分の耳には出来るだけ良い音を通したい。
そして話は新宿三丁目へ。
あの女性に目を奪われたのは、年齢を重ねた方だからこそ、ヘッドホンをされている姿にさらに惹かれたのだろうか。
そういう僕はヘッドホンを持っていない。
まだまだ人生の楽しみがあると無意味な前向きさがいまはあるみたいだ。
周囲への興味と自己から湧き出る前向きさ、今日もいい日曜日になりそうだ。