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『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #61 『愛の断想』 串田孫一

PARK GALLERY が発信するカルチャーの「本」担当。2024年の夏、地元・長崎で古書店を開業したパークスタッフ秋光つぐみが、PARK GALLERY へ訪れるみなさんに向けて毎週一冊の「本」を紹介する『わたしのつれづれ読書録』。
本とは出会い。
長崎から、パークに想いを馳せながら、誰かの素敵な出会いのきっかけになる一冊を紹介していきます。

2024年12月26日の一冊
「愛の断想」串田孫一(大和書房)

今年最後の一冊。
ずっとベッドサイドに置いたまま、読書灯に温められていた。

この連載を通して、私は多くの言葉に出会った。私が読まなければ始まらないということもあり、意識的に読書の時間を確保した。本を開かなければ、知り得なかった言葉、物語、世界があった。その度に、”本を読む” ということが私に与えてくれる価値を再確認することにつながった。

本を読み、知る。それが私の “生きる” を支えてくれた。意識していたとは言え、結果としては知らず知らずのうちに週に一度のこの営みに、私は生かされた。

2024年の締めくくりに、ぬくもりをともなった豊かな贈り物を自らに与えることができた。そのことを理解できたのは、串田孫一による『愛の断想』の存在があったから。

私はこの連載を毎週書くにあたって、最も大切にしてきたことがある。最初からではなくて続けているうちに、確かになったことがある。

それは、大きな主語で語らないこと。

あくまでも私の連載であり、私の主観による “読書感想文” なので、できるだけ「私たちは」「みんなは」とせず「私は」と表現してきた(もし過去の投稿に紛れ込んでいたらごめんなさい、見逃してくださいまし)。ここで発言すること全ては、決して他責にできるものではなく、”私の” 責任の内と考えているからだ。

今回は、個人的なことを少し書いてみたいと思う。

今年は激動だった。

4月末にパークのお店番を卒業し、東京から地元の長崎に活動拠点を移した。それから古物商の免許を取得したり、仕入れのための資金を集めたり、古書組合に加入するなど3ヶ月ほどかけて準備を進め、8月に古書店として正式に独立した。

その後は、九州内で仕入れに奔走したり、通販を中心として紆余曲折しながら商いに試行錯誤している。この秋には初の催事出店を経験することができ、世の中に向けて小さくデビューした。気がしている。

1年前と比べたら、明らかに私は「こうでありたい」と願っていた自分の姿に着実に近づいている。到底果たしてはいないが、近づいている。ここに至るまでの、鉛のように重たかった最初の一歩を、踏み出したときのことは忘れない。忘れないでいたいと思う。

しかし現状は、まだまだ力不足。進めば進むほど、次々と課題に出会う。目先のゴールにひとまず到達したかと思えば、掬い取っても流れていく水のように手元から消えてなくなる。その繰り返し。

本を購入してくれる方や、SNS やショップを見て応援してくれている方へ、もっと楽しんでもらえるようなお店になるには、どうしたらいいか、どうあるべきかを考え、実行に移していく時間は大変に楽しい。思いついたらすぐにやらないと気が済まないし、体力さえ続くのであればずっと仕事していたいと思う。充実感ゆえの満たされない想いが募る。

今後の計画は、店舗を持って、いつでもお客さまを迎え入れられる空間をつくる。古本や古い印刷物でいっぱいに埋め尽くして、宝探しを楽しむことができるような場所を生み出す。そして、合わせて次世代を担う作家さんとの出会いの場としても機能するギャラリースペースを設ける。古いものと新しいものがクロスオーバーし、見る者の好奇心を誘い出す、というか店主である私がいつもワクワクしていられる、奇想天外なお店を描いている。

現実は、なかなか孤独なものだ。というか孤独な時間の方が長い。

でも、月も満ちてはまた欠けていくしまた満ちる。晴れている日もあれば雨が降る日もあって、降った雨によって農作物も育つ。深い夜の闇に引きずり込まれそうなときもあるけれど、じっと堪えて目を閉じ、眠れば朝がやってくる。疲れたら夜のフリしてまた眠ればいい。

そうやって、私も、人間で、自然の一部なんだと納得させながら、自らの機嫌をとってあげて、ころころと自由に転がって、時を刻んでゆくものなのだと。

いつかの新年のテレビ番組。「今年の抱負は?」という定番の問いかけに、お笑い芸人のいとうあさこさんが「今年も、”生きる”!」と答えていて、良いなあと思った。

シンガソングライターのカネコアヤノさんが「屋根の色は自分で決める」とうたっていて、良いなあと思った。

当然にそこに在ることを、そうとは思えない。捻くれているという点もあるが、私はつい何かと抗ってしまう。わかっていることをわざわざ言いたくなってしまう。代わりに言って、思い出させてくれる人がいたらありがたい。それを時に忘れてしまうことがあるから。

そんな自分をまるごと愛でてみたいとも思う。

みんながはっきりと生きる意志を持っていればよいのであるが、生きる意志を持つことが難しくなった時、人間の幸福は大きく揺れうごくだろう。人類の幸福も何処にあるのかさっぱり見当がつかなくなるし、人間はそれを繰り返している。生きることを知らないわけでもないが、それを忘れ、自分に向って絶えず、生きなければならないことを云いきかせる。さもなければ、人間は本来の方向を見失い、思い思いの方向に向いてしまう。そして向きの異なった人同士では、その幸福を互いに理解することも出来ないし、腰も落ち着かない。

『愛の断層』-幸福とは- より

2024年、暮れ。
みなさま良い年越しをお迎えください。

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秋光つぐみ

古書堂 うきよい 店主。
グラフィックデザイナーなど。
2022年 夏からPARK GALLERY に木曜のお店番スタッフとして勤務、連載『私のつれづれ読書録』スタート。2024年 4月にパークの木曜レギュラー・古本修行を卒業、活動拠点を地元の長崎に移し、この夏、古書店を開業。パークギャラリーでは「本の人」として活動中。
【Instagram】@ukiyoi_inn

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