よむラジオ耕耕 #28 『ちょっとだいずなだいずの話』
💁 こんなひとにオススメ:食や農業について興味がある。日本の食文化について興味がある。大豆について知りたい。
加藤:今回「食」をテーマに話そうと決めた理由でもあるんですが、実はみんなで「畑」をやっているんですよ。そろそろ収穫の時期なんでその畑の話をしたいなと。
大豆と枝豆が同じものとは知らなくて
星野:ちなみに何を育てているんですが?
加藤:みんなで「大豆」を育てていて、この時期は「枝豆」として収穫するということになるんですが、せっかくなのでこれを機に「食」=「カルチャー」ということで話せたらと。
星野:気になります。
加藤:そもそも大豆を育てることになった理由なんですが、実はぼく「枝豆」=「大豆」ということを知らなかったんですよ。枝豆というのはそのまま「枝豆」という植物だと思っていましたし、とは言え大豆は大豆として豆腐とか味噌とか醤油の原材料で、認識はしていた。
星野:だって枝豆は緑だし色も味も違いますもんね。
加藤:そう。全然ちがうよね(笑)。エンドウマメやインゲンマメとかと一緒かと思っていた。この放送を聞いているひとで、驚いているひとも多いんじゃないかな。畑に手伝いに来てくれるひとたちもみんな驚いてる。でも、こんなにすごく身近にある食材なのに全く知らないなんてなんか腑に落ちないなと思って⋯。最近若い子たちも食に興味があるひとが増えているっていうのも耳にして、ちゃんと食を音楽や映画と同じようなカルチャーとして楽しめたらなと思っています。
星野:なるほど。楽しそう。
加藤:星野くんとおなじ20代の頃は僕も食について何も知らなかったし、毎日のご飯のことにあまり興味がなくて、うまけりゃいいや、というよりもとにかく貧乏だったし「お腹いっぱいになりゃいいや」、「お酒がおいしく飲めればいいや」くらいに思っていたんだけど。2011年あたりからかな、東日本大震災が影響しているんだけれど、自分が食べたり、食べるために選んだりしているものについて、「これってどこから来ているんだろう?」「誰がどんなふうに作っているんだろう?」と思うが増えた。ぼくだけじゃなくみんなにとっても、あの時期は「選びはじめる」時だったと思います。それで調べることもあるんだけれど、意識して買い物をしてみると自然と情報が入ってきて、食材からしっかり選ぶように。でも結局、良いものは高くて、値段の安さで選んでしまったりもして。なのでどこかのタイミングでしっかり振り切って、高くても納得いくものを「ちゃんと食べよう」「飲もう」と思うようになりました。その頃、ちょうど「豆腐マイスター」の工藤詩織さん(通称まめちゃん)に会うんですよね。
星野:そんなのがあるんですね(笑)豆腐マイスター。
加藤:実際にあるんですよ。で、まめちゃんから「豆腐の現在の事情」を教えてもらうんです。例えば町の豆腐屋って、ピーク時は全国に5万件もあったけど、今はたった5000件なんですよと。超減ってる。1日に数件というレベルで廃業している。その時に「豆腐業界」の厳しさを知ったんだよね。このままでは豆腐業界、並びに大豆業界が廃れてしまうと⋯。まめちゃんに「僕の能力でできることがあれば力になりたい」と伝えて、ふたりでウェブマガジンを立ち上げて、大豆に関するさまざまなひとたちを取材して、その魅力について発信するようになりました。廃業の背景には国産大豆のシェア率の低さなどいろいろな問題があって⋯スーパーなんかで豆腐は数十円で売られているじゃないですか。安すぎる。でも、あんまりおいしいとは言えない。味がしない。そんな中でも、本当においしい豆腐っていうのもあるんですよ。ちゃんと味が濃いんです。僕らがいつも食べている豆腐ってなんなの?と思ってしまうほど。もちろん同じ「大豆」が原料だけれども、おいしい豆腐はちょっと高くて、使っている大豆も微妙に異なる。
星野:へぇー知りませんでした。
20万トンのうちのたった500トン
加藤:僕は日本の食文化の礎となっている大豆のことをおざなりにしてきたんだなと思って。身近な食文化を大事にして、ちゃんと選んで食べたりする方が、いい音楽を知っていることなんかよりずっとカルチャーとしての偏差値が高いというか、豊かなのでは?と思うようになりました。30代前半にしてようやく気づいた感じ。いい音楽や映画も “だいず” だけれど、大豆がもっとだいずなのでは?と思うようになりました(笑)。
星野:だいず、ですね(笑)。
加藤:ちなみに大豆は食用のほかにも、肥料や飼料にも使われているし油になったりするんだけど、食用としては全体で1年で100万トン。そのうち国産大豆はたった20万トン。あとは輸入に頼っている。カナダとか中国とか。
星野:全然ない⋯。
加藤:でも、がんばっている方かと思います。国産は安心できるし、ちゃんと売れますからね。ちなみに20万トンの中で、8割は豆腐として消費してる。残りは納豆、味噌、醤油、煮豆、あとは「きなこ」とかに使われているけれど、割と大豆と豆腐の関係は重要ですね。煮豆はさておき、ほかの加工品は大豆の味はあまり影響しないですからね。豆腐は大豆の味がダイレクトなので。輸入のでもいいかなとなってしまうものも多いです。実際、味噌とか納豆は海外のを使っていること多いかな。
星野:言われてみれば確かに。
加藤:とはいえ、大豆の味にはこだわり。そこで、ぼくらが育てていて、かつ注目しているのが「在来種」と言われているジャンル。品種改良をせずに、その土地でずっと育ってきた品種です。在来種となると生産率は 0.003%、たった500トン。急に下がるんですよ。
星野:20万トンのうちの500トン⋯。
加藤:少ない。でも「なぜ在来種の大豆が少ないのか」。現在の農家さんはその土地で作られた大豆ではなく、国が推奨する、多様な環境にも対応できて、バランスよく育ち、虫などの外敵にも強くて、比較的、粒も揃いやすい品種のものを使って栽培をしています。その方が収穫もしやすいし売りやすいし、加工もしやすい。そのいくつかの品種が農家さんを支えています。それに対して、在来種は環境に敏感で場所によっては育ちにくく、かたちもバラバラで、手間がかかります。味は濃いけれど。
星野:おいしいとは限らない?
加藤:そう。濃いと感じることはあっても甘いとは言い切れないかな。甘い品種もある。でも甘いだけがおいしさではない。ありのままの姿で育てていこうというのが、在来種のあり方。ちなみに在来種って大豆だけじゃなくて、例えばにんじんとか。品種改良を重ねて、いまでこそにんじんは甘いけれど、朝鮮人参とかもそうだけど在来種は苦い。にんにくとかも青森の方の原種はかたちはバラバラだけど味は濃いよね。ちなみに在来種と反対にあるのが、*F1種というもの。フィックスワンという意味で一代で終わってしまう種。味が薄いけどどんな環境でも育てやすく改良されてる。ホームセンターで売ってるような種に多いかも。
星野:F1種はじめて知りました。
*大豆に限ってはF1種としての改良はないとのこと。リスナーさんから指摘を受けました。優性な大豆を厳選して量産して奨励品種としているそうです。
在来種の大豆を育てるということとは
加藤:話は長くなったけれど、僕らがやっているのは「在来種の大豆づくり」です。2014年にその存在に出会って、そこからずっと作っています。でもこれ、自給率の少なさの理由がわかるというか、本当に難しいんですよ。土ひとつとっても、日本中にはいろんな土壌があって。そういう中、肥料などを加えるわけでもなく環境により沿って作る在来種って素敵じゃないですか。大事。でも難しい。そういうことも含めて大豆の魅力をメディアで広めるのも大事だなど思ったし、何より自分でやってみなきゃわかんないよね、ということで畑を借りて、作りはじめました。1年目は豊作で。
星野:はじめからすごいですね。
加藤:おいしかったです。それは、埼玉の神川町というところで畑を借りてやったんだけど、みんなで6月くらいに種をまいて、何度も通って。本当にこんなのでできるのかな?なんて思っていると10月ぐらいから枝豆ができはじめる。そしてそれを枝豆でも食べるんだけれど、収穫せずに放っておくと、だんだん畑の上で枯れていくんですよ。その枯れてカラカラになったものが大豆になります。鞘を開けると、秋のうちは枝豆が出てくるけど、冬は大豆になって出てくる。
星野:もともとの種はどうやって手に入れたんですか?
加藤:いろんな地域に在来種ってあって、その時は、神川に伝わっていた大豆を分けてもらって増やすかたちでやった。今は、神奈川の西側にある南足柄市の山奥の矢倉沢というところに畑を借りてやっているんですけど、神川で使っていた種を持ってきたり、山形とかで気に入った在来種を買ってきたり南足柄の農家さんから種を分けてもらったりしながらやってる。何年もかけて10種類くらいの種を蒔いてきたけれど、中には育たないものがあったり、ものすごく元気に育つものもあったり。一代しか育たないF1種に対して、在来種はその土地の土壌の情報をインストールして、どんどん種自体が育っていくというか、進化していく感じがするんだよね。なので毎年、どの種子が一番良いか見極めています。
星野:僕も一度、南足柄の畑に連れて行ってもらったことがあります。
加藤:枝豆の時だね。
星野:おいしかったなあ。
加藤:でもこの数年間のあいだに、かなり畑は被害を受けていて。水害や雪の被害。ある年は畑に行ったら雪で真っ白で。本当は乾いていなければいけない大豆がびしょびしょで腐ってしまったんですよ⋯。日当たりも肝心ということで、2019年に地元のおっちゃんたちの協力で、日当たりのいい畑を借りることができたんだけど、この年からコロナで、おっちゃんたちが手伝ってくれるはずだったんだけど、なかなか作業できず⋯。でも、日当たりのおかげでその年は黄金色の畑になりました。大豆もよく育った。けれどその翌年はコロナで里山に人の気配がなくなってしまったからか、鹿によって食い荒らされちゃいました⋯。2021年は、鹿に誘われた猪によって、畑が荒されてしまった⋯。
星野:ひどい⋯。
加藤:でもこっちもバカじゃないから、雑草をあえて生やして、大豆を隠しながら育ててみたり、ネットを張ったり作戦を練った。そしたらしばらく動物の気配はなくて、枝豆は無事収穫できたんだけど、その後しばらくして鹿・猪のダブル攻撃で全滅。これ、ほんとにツラいよ⋯。1年間かけて育てたのに⋯。農家さんの大変さが伝わってきました。
星野:確かに。
加藤:だから、2023年は「獣害のないところにすんべ」と新しい畑を近くで紹介してもらって、育てています。そしていよいよ収穫の時です。いやー約10年。この放送では語れないほど、いろんなドラマがこれまで畑を通じてありましたよ。大豆のこともそう、畑に関わる人間ドラマについてもそう。地元のおっちゃんたちとの交流も毎回がドラマですよ。
星野:また話してください。
加藤:うん。ただ、僕は生産者の苦労を代弁したいわけではなくてね、もっと気軽でかんたんな話というか、僕らの身近にあるけれども、意外と知らないことを知るってとても豊かなことだし、それがめちゃくちゃおいしいということは、アートに触れることにも通じているような気がしているんだよね。だから本当はもっと、種まきから収穫に至るプロセスの大切さや美しさについても語りたいんだけど、それってかなり哲学的だし語りきれる自信がない(笑)。
星野:いや、すごく伝わってきました。
加藤:畑をやっているアートギャラリーってかっこいいよね(笑)。
星野:新しいなあ。
おしまい
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