『美しき緑の星』の街、パリ。
こんなタイトルをつけると、
まるで『美しき緑の星』そのものが
パリであるかのようだけれど、
もちろんそうではない。
1996年、主役も演じている
コリーヌ・セロー監督の映画で、
他の星に住んでいるミラが、地球にやってきて
人々を次々と覚醒させ、
本来の自分に気づかせるという、
今ならすんなり受け入れられそうなストーリー。
その映画の舞台となるのがパリだ。
1996年、私はフランス映画にも
フランスにさえも、
とりたてて興味を持っていなかった。
80年代はアメリカ映画を楽しみ、
90年代は時々邦画も観たような気がする。
母の若い頃の60年代は、
映画といえばフランスで、
アラン・ドロンは日本女性の、そして
ジャン=ポール・ベルモンドは日本男性の
憧れだったようだ。
私は、2001年くらいから
フランス映画を観るようになったので、
『美しき緑の星』については全く知らず、
昨年、中古DVDをパリで見つけて、
初めて観たのだった。
お金さえあれば何でも手に入り、
物質的には相当便利になった今、
本当は自分にとって何が大切か、
そして本当は
生きているだけで素晴らしいんだと
思わせてくれるような、
精神世界を描くこの映画が
フランス映画だと知って驚いた。
なぜなら、私の知っているフランス映画は
男女関係の心のヒダみたいなものを描き、
そして、必ずしもハッピーエンドではないものが
多いように感じていたからだ。
でもこの映画は、その類でもなく、
ファンタジー過ぎる夢物語でもない。
心のどこかでわかっていたことを
思い起こさせるような映画だ。
主人公ミラの力になってくれる医者、
マックスの奥さんが
サラダ菜の葉脈を見て、全てを悟るところは
私の好きなシーンのひとつだ。
ところで、私はどこで撮影されたかを
探りながら映画を観るのが好きだ。
この映画は、25年前の映画だけれど、
パリの街はさほど変わっていない。
白黒の、例えば
ルイ・ド・フュネスの映画の中のパリでさえ、
ほとんど今と変わらない。
だから、すぐに「あ、○○通り」
「このレストランまだある!」
と他の楽しみ方もできる。
映画の聖地巡礼的なものが
好きなのかもしれない。
撮影場所を通るたび、
私は映画の中に入り込み
キュンとなる。
10年以上前だったか、
『サウンド・オヴ・ミュージック』が撮影された
オーストリアのザルツブルクに行ってみたり、
フランスに来てからは
『シェルブールの雨傘』のシェルブールに、
『ロシュフォールの恋人たち』のロシュフォールに、
撮影場所巡りの旅をした。
もちろん、『アメリ』や
『ミッドナイト・イン・パリ』での
あらゆるシーンも、当然のことながら
歩くたびに思い出してしまう。
『美しき緑の星』での
撮影場所を少し紹介すると、
地球ではお金がまだ存在していたので
主人公ミラが、自分の星の長老に
最初にヘルプを求めて
足を水に浸けながら交信したのが、
ここ、リュクサンブール公園そばの天文の泉。
そして、かなり昔の服を来ていたミラを
若い女の子が見つけ、
洋服を交換することになったのが
ここサン・ミッシェルの泉。
大天使ミカエルの銅像の前だ。
いつも、自分の星に住む
息子たちと交信する時には水に足を浸ける。
セーヌ川のこの場所でも
ミラは交信していた。
ちょうど白鳥がいるあたりだろうか?
錚々たる俳優陣による映画にも関わらず、
フランスであまりヒットしなかったようだ。
時代が早すぎたのかもしれない。
今なら受け入れられるような気もする。
現に、私の友人にDVDを贈ったところ、
「今観るべき映画だわ!素晴らしい!」という
感想をもらった。
ついこの前、歩いていたら
街路樹に抱きついて、うっとりと
目を瞑っている女性がいた。
もしかしたら、『美しき緑の星』を
観たのかもしれない。