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87 優しさを持つと、なぜ疲れるのか?——脳の仕組みとエネルギー管理

ある日、猫カフェで店員さんと話をしていたときのこと。
「昔、私は性格が悪かったんです。でも、優しくなろうと思ったら、なぜか前よりも傷つくことが増えてしまって…。」

この言葉に、私ははっとした。
優しさは、人との関係を円滑にする大切な要素。でも、優しくなったことで「前よりも傷つきやすくなった」「疲れるようになった」と感じる人も多いのではないだろうか?

実は、優しさを持つことは、脳にとって高度な処理を必要とするため、エネルギーを大量に消費する行為なのだ。
では、なぜ優しさが脳の負担になるのか?そして、どうすれば「優しさを持ちながら疲れない生き方」ができるのか?

今回は、脳神経科学とメンタルトレーニングの観点から、優しさとエネルギー管理について考えてみたい。

優しさが脳にとって負担になる理由


① 共感による「ミラーニューロンの活性化」

人が優しさを発揮するとき、「共感」が大きな役割を果たす。
脳にはミラーニューロンという神経細胞があり、これが他人の感情をまるで自分のことのように感じさせる。

たとえば、友達が落ち込んでいると、自分もなんとなく悲しくなるのは、このミラーニューロンの働きによるもの。
しかし、この共感機能が強いと、他人の感情に振り回されやすくなり、「共感疲労」が起こる。

共感するたびに、脳は「これはどういう感情なのか?」「自分はどう反応すべきか?」と処理を繰り返し、エネルギーを消費する。
その結果、優しさを発揮すればするほど、脳のリソースが消耗してしまうのだ。

② 感情のコントロールにエネルギーを使う

優しい対応をするためには、自分の感情をコントロールする力も必要になる。
イライラしているときでも、相手に対して冷静に接するには、脳の「前頭前野」がフル稼働する。

前頭前野は、脳の中でも特にエネルギーを使う部分。
感情を抑えたり、適切な振る舞いを選択することで、脳のグルコース(糖分)消費量が急上昇することが研究で確認されている。

つまり、優しくしようとすると、理性的な判断をするために脳がフル回転し、結果としてエネルギーが枯渇しやすくなる。

③ 「他人の感情」と「自分の感情」を区別する作業が負担に

優しい人ほど、他人の気持ちを自分のことのように感じやすい。
しかし、そのままだと自分が疲れ果ててしまうため、脳は「これは自分の感情ではなく、相手のものだ」と整理する作業を行う。

このとき働くのが、「島皮質」と呼ばれる脳の領域。
島皮質は、「自分の内面の感情」と「他人の感情」を分ける役割を持つが、共感力が高すぎると、この仕分け作業に負担がかかる。

優しさが行き過ぎると、まるで自分が傷ついたかのように感じ、脳がストレスを処理しきれなくなる。
結果として、「優しくするほど、心が重くなる」状態に陥る。

④ 優しさを発揮するたびに「意思決定」が増える

優しさとは、単に共感するだけでなく、「どう行動すれば相手にとって最善か?」を考えるプロセスも含まれる。

「友達が落ち込んでいるけど、どう声をかけるべき?」
「慰めた方がいい?それともそっとしておく?」
「どんな言葉を選べば、相手が傷つかない?」

こうした「意思決定」は、前頭前野に大きな負担をかける。
優しい人ほど「相手のために最適な行動」を考えようとするため、そのぶん脳のエネルギー消費も増えてしまう。

優しさを持ちながら疲れないために


優しさが脳の負担になるとはいえ、それを手放したいとは思わない。
では、どうすれば「優しさを守りながら、疲れない生き方」ができるのか?

① 「優しさを使う相手を選ぶ」
すべての人に優しくする必要はない。
優しさを大切にしてくれる人に向けることで、脳の負担を減らせる。

② 「ポジティブリフレーミング」を活用する
「優しくすると疲れる」と考えるのではなく、「優しさは自分の成長につながる」と捉える。
視点を変えるだけで、脳のストレス反応を軽減できる。

③ 「脳をリラックスさせる時間を作る」
朝日を浴びる(セロトニンを増やす)
ゆっくり深呼吸をする(副交感神経を活性化)
リズム運動(ウォーキングやスクワット)をする

優しさを持ち続けるためには、「脳のエネルギー回復」が必要。

まとめ:優しさを守るために


優しさは、脳にとって**「高度な情報処理」**を必要とするため、エネルギーを消費する。

✅ 共感によるミラーニューロンの活性化
✅ 感情のコントロールによる前頭前野の負担
✅ 他人の感情と自分の感情を区別する作業
✅ 優しさを表現するための意思決定の増加

だからこそ、優しさを持ち続けるためには、「脳の負担を減らす習慣」を持つことが大切。
すべての人に無理に優しくするのではなく、優しさを使う相手を選ぶことも、心を守る大切なスキル。

優しさを大切にしながら、自分自身も大切にする方法を見つけていこう。

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