HOT SAND LAB mm |hum のブランディングデザイン事例_vol.01
ブランディングデザインプロジェクト「hum」は、日本橋に12月7日にグランドオープンするホットサンド専門店「HOT SAND LAB mm(ホットサンドラボ ミリ、以下mm)」のブランディングデザインを担当しました。
mmは空間設計・デザインチーム、株式会社NODの自社事業。
同社が企画運営するビルプロジェクト「GROWND」の第1弾となる日本橋ビルの1階に構えます。
今回、humを主宰する神岡が「GROWND」プロジェクトのクリエイティブを担当していた関係で、mmのブランディングデザインに協力させていただく運びとなりました。
このnoteでは、mm誕生の経緯と、humとして辿ったブランディングデザインの軌跡をワークフローに則って紹介します。
humとは?
情緒を見出し、ブランドにユーモアを - humorous branding
もの・企業などに情緒を見出し、ユーモアという付加価値でブランドをかたちづくるデザインプロジェクトです。
ブランドをひとりの「人」と捉えて、情報・目的の整理から情緒的な要素を定義。「哲学、個性、性格、表情、会話」というセクションで区切りつつ、考え方から最終的なビジュアルまでを一貫してブレなくデザインしていきます。
詳しくはwebサイトと、私たちの考え方・スタンスをまとめたnoteも併せてご覧ください。
webサイト
ブランディングデザインへの向き合い方
はじめに
HOT SAND LAB mmについて
ホットサンドをメディアとして日本橋・日本全国の食材を発信する、元鮨屋のホットサンド専門店です。
NODについて
株式会社NODは、これまで「リアルな場における制限やハードルを越えて、街を自由にもっとおもしろくしたい」という思いから、建築・不動産の領域を 軸に、クリエイターやアーティストとともに「新しい空間の在り方」を模索するプロジェクトをつくっている空間設計・デザインチームです。
これまで、解体前の遊休ビルを 利用した食の実験場「ツカノマノフードコ ート」や、移動型滞在施設「BUSHOUSE」空間設計・企画などを行ってきました。
GROWNDについて
GROWND はNODが手掛ける、新しいアイデアを自由に実装できる環境をつくるプロジェクト。
リアルとデジタル、実店舗とECサイト、レストランと食品工房など、2つの要素をかけ合わせることで、リアルの場で生み出される価値をさまざまな制約と向き合いながらより多くの人に丁寧に届けられる仕組みを作るというもの。
第1弾は日本橋にて、遊休不動産(解体前など、短期的に使い手のいなくなった 不動産)の一棟ビルを使い、場の歴史を大切にしながら空白の期間に長期的な価値を育んでいきます。
背景 - GROWNDプロジェクトの一環としてmmが生まれるまで
GROWNDプロジェクトに至るきっかけ
それはNODの
リアルな空間でのクリエイティブにかかる 「制限」
という課題意識でした。
デジタル上では誰もがクリエイティビティを発揮し、SNSやコンテンツなどで世界に発信できるのに、リアルな空間でなにか面白いことを仕掛けようと思っても、費用や法律、物理的な問題など、格段にハードルの高さがあります。
特に、飲食店は、その最たる例。 飲食店を出店しようと思っても、初期投資の大きさの割りに得られるリターンは少ないし、初期投資の大きさによって席数も限られ、繁盛する時間も限られている。
不動産における、リアルにおける 窮屈を取り除きたい。そんなことを考えているタイミングで出会ったのが、第1弾となる日本橋ビルでした。
コロナ禍においての飲食店のすがた
日本橋ビルと出会うタイミングと同じくしてきた、新型コロナウイルスの流行。
様々な事業やコンテンツが苦しみました。
飲食店もその最たる例。コロナ禍で、休業・廃業に追い込まれていくお店もたくさんありました。
愛されるお店の味を絶やさないために、そしてこれからも新しい食文化がうまれつづけるように。
リアルとデジタルをなめらかにつなぐことで、お店のおいしさや楽しさをより多くの人に届けられる仕組みをつくり、食文化と人々の繋がりをうみだす場。
その実験場としてGROWND nihonbashiがあり、具体的なひとつの飲食店の実証実験としてmmが生まれました。
空間設計・デザインチームが「飲食店」をもつということ - 哲学①
場を考えてきたNODが飲食店の実証実験を考えるとなった時、次の2つが大切だと考えました。それは、
01
ビル全体の企画者として、GROWNDのコンセプトをいかに体現できるものとなるか
02
いかにその場がメディアになり得るか
です。
01. ビル全体の企画者として、GROWNDのコンセプトをいかに体現できるものとなるか
お店の企画までを担うということは、まちの方への接点を直接つくりあげる機会が生まれたということ。いかにGROWNDのコンセプトを「くどくなく、かつまっすぐ感じてもらえるか」がキーになると考えました。
02. いかにその場がメディアになり得るか
繰り返しにはなりますが、NODは空間設計・デザインチームです。
そこが飲食店に挑戦する、という点にオリジナリティがあるとするならば、人ともの、人と人の関係性を繋いでいく「場所」の魅力が最大化するように、一種の「メディア」として機能するテーマの方が面白いと考えました。
元鮨屋の店舗で、ホットサンドを - 哲学②
前述の2点を頭の片隅に入れて何を提供するかを考えていく中で、「キャッチー」であることと「展開性」があるという点で選んだのが「ホットサンド」でした。
今回のお店は「鮨屋」だった場所です。
鮨の構造は、酢飯=シャリの上にネタを載せて握るというもの。江戸時代のファストフードとも呼ばれています。
その「鮨」にも一種の「シャリを媒体に、様々なネタを味わう」という展開性があると考えました。
そんなスタイルを踏襲したとも言えるホットサンドを「現代のファストフード」という位置付けで、かつ新旧・和洋織り交ぜた世界観で押し出す。
また、日本橋というまちは、古くからの伝統や食文化を引き継ぎながら次々と新しい文化が芽生えはじめているとして注目をあつめています。
アンテナショップが集う日本・東京の中心で、都心には多く流通しない地方の食材をパンという媒体で挟み、距離を近づける。
地方と都心、若者とご年配の方。ホットサンドが場所や世代を超えて交わる「食のセレクトショップ」となることが核にあると考え、ブランドコンセプトを
おいしさとの距離を挟むホットサンドラボ
と定めました。
ブランドコンセプトをどう表出させていくか - 個性
気軽さと納得度のバランス
「おいしさとの距離を挟むホットサンドラボ」というブランドコンセプトをいかにして表に出していくか。
それは気軽さと納得度のバランスにあると考えました。
このブランドコンセプトは大きく2つに分けられます。
「おいしさとの距離を挟む」
「ホットサンドラボ」
「おいしさとの距離を挟む」は納得度、ブランドの求心力となる部分。「ホットサンドラボ」は気軽さ、キャッチーで専門性を演出する部分。
「おいしさとの距離を挟む」は、理解してもらいたい点ではあるのですが、それを最初から語りすぎると敷居が上がってしまうし、何より冗長でお客さんを逃してしまう。
「なんかおしゃれでこだわってそう」
くらいのノリで入れる「気軽さ」の方が必要です。
ただし、その上で納得して帰ってもらうきっかけも同時に忘れずにつくらないといけない、というのがひとつの課題でした。
「偶然性のある出会い」をうみだすブランドの「個性」
前述した、最初からブランドの根幹に触れすぎたコミュニケーションをとると敷居が上がるという話。
では敷居を低くした先にはなにがあるのか。それは、
偶然性のある出会い
だと考えました。
日本橋は日本・東京の中心で、アンテナショップも豊富です。
けれども、そういったところは明確な目的がないと入りづらかったり、若者にはなかなか縁遠いものだったり。
フラッと入ったファストフード店で知らない味に出会う。
そう言った偶然性のあるお店って、今の時代にもっとあってもいいのではないかな、と思います。
今回は出会った後に「リピート」の選択肢をECサイトにも用意して、食材を購入できるようにもしています。また、完全キャッシュレスでありながら、食材への愛やまちへの愛も忘れない。
テクノロジーをうまく使って今の時代にちょうどいい「干渉」を作りだし、偶然性をうむことが体験に温度を与えます。
今回はそんなブランドの個性の部分を「心地のいいおせっかい」と定義しました。
スマートな人懐っこさ - 性格
今まで、ブランドの着想、哲学、個性の順にお話してきました。
前述した内容を踏まえて、このブランドはどんな性格を持ちうるか。
まちに「いる人」と「くる人」
元々GROWND nihonbashiプロジェクトでは、比較的年齢層の高い人がくるまちにむけて若者への入り口になることを念頭において進めていました。
ただし、若者だけをターゲットに据えていてはその土地に馴染むものにはなりません。
若者に向けつつも、それ以外の層にも届く親しみをいかに作り出すか。そこを考えるに当たってターゲットとなる「このお店と接するひと」を今回は「いる(そのまち在住の)人」と「くる(他のまちから訪れる)人」に分けてペルソナを立てました。
何を価値として感じ取って欲しいのか
ブランドを人と捉えて姿勢を言語化してきましたが、そこから滲み出る価値の部分を仮説として定義しました。
機能と情緒を合わせて体験をつくるという考え方のもと、今回は
テクノロジーと人間味が共存する、
便利・気づき・親しみの3つのおいしいブランド体験
と定義しました。
キャラクターのイメージ共有
今まで言語化した内容を、どんなキャラクターで表出させるか。
パーソナリティはこのあとのビジュアルデザインへの橋渡しにもなる重要な要素です。
個性の「心地のいいおせっかい」も踏まえつつ、有名なキャラクターと俳優さんを例に定義づけました。
世界観の先の空気感を考える - 表情
HOT SAND 「LAB」の理由
mmは、HOT SAND 「SHOP」とは言わず、HOT SAND 「LAB」と表明しています。
そこには2つの意味があります。
1つは、
飲食店のあたらしいかたちとしての「実証実験」の意味
もう1つは、
お客さんが知らず知らずのうちに
全国・日本橋の食材を「試食」しているという状況
この2つを「SHOP」ではなく「LAB」という言葉で示しました。
また「mm(ミリ)」という名前も、建築領域で使われる単位から転じて
様々な「おいしさ」との距離を指し示す単位
という意味を込めました。(空間設計・デザインチームが飲食店をやるという背景を忍ばせながら)
ブランドの世界観の中心にある「物語」
ストーリーとタグラインは、ブランドの世界観を中心にある、様々な要素を纏った言葉です。
humでは、ストーリーを「ヘッドコピー」と「ボディコピー」に分けて策定します。
今回は、「距離」「地方」「2面性」など様々な要素を世界観を読み取れる言葉に変換しつつ、以下のように策定しました。
ヘッドコピー
「おいしい」まで、あと何ミリ?
ボディコピー
おいしさとの距離が近づく時は、どんな時だろう。
食材への思いを聞いた時。
土地の物語に触れた時。
知らない食に出会う驚きや喜びも、
全て「おいしい」のタネになる。
ふと入ったお店で全国の食材に出会う。
買おうと思った時、すぐに買える。
そんな偶然から生まれる「おいしい」との距離を、
リアルとデジタル、地方と都市部、製造工場と飲食店舗
様々な2面で挟みます。
ここは「おいしい」が一番近くになる
ホットサンドラボです。
ブランドの空気感を纏うモチーフとビジュアルイメージ
ビジュアルという非言語の会話に落とし込む上で大切なイメージの共有をしていきます。
デザインコンセプトも、humでは一言で端的にまとめています。今回は
おいしさまでの目盛り
です。
「距離」や「mm」など、明確な要素が出てきていたため、最終的なモチーフにもなった「目盛り」もこの段階で出てきています。
意志・世界観を濃縮させた非言語コミュニケーション - 会話
ヴィジュアルアイデンティティ=VIの核となる「ロゴ」を作成していきます。
今回は「目盛り」というモチーフをベースに据えて、初稿提案で3案提案しました。
議論の結果、B案をベースに、もう少し目盛りらしい要素と、建物・風景らしさのチューニングをしていくこととなりました。
機能と情緒のバランス - コンセプトを分解する
ヴィジュアルデザイン、特にロゴ/VIに関しては、私たちは「機能」と「情緒」のバランスが非常に大切であると考えています。
「機能」はそのサービスやプロダクトの行動指標、「情緒」はそこに色をもたらすイメージの要素です。
ここで一度、コンセプトを「機能」と「情緒」の2面から分解してみることにしました。
今回「機能」に当てはまる要素は、
日本全国のおいしさの距離を近くする
という点にあります。
この点に関しては上の提案A〜Cは基本的に抑えられているポイントです。
しかし「情緒」に関しては、なんとなくイメージしていたものはあるにせよ、かなりふわっとしていてヴィジュアルに落とし込まれている感じが見受けられませんでした。
そこで新たに「情緒」を言語化、
昼下がりに食べたくなるホットサンド屋さん
としてヴィジュアルを練り直すことにしました。
以下が変遷です。
そして最終的にこちらの案で決定となりました。
おわりに
キャッチーなホットサンド専門店、その裏側を構築していたブランディングデザインをご覧いただきました。
この難しい状況の中、信じて進み続ける株式会社NODのメンバー、mmの店舗スタッフへの敬意とエールを、このnoteに代えさせていただきます。
ホットサンドも、本当の本当に美味しいので、ぜひ!
HOT SAND LAB mmを具体的に知りたいという方は、こちらの記事もお勧めです。
繰り返しにはなりますが、humのブランディングデザインへの向き合い方は別のnoteにて詳しくお話しておりますので、そちらも併せてご覧ください!
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