徳島県神山町で出逢った、丁寧な暮らし・丁寧なサウナ
四国は徳島県の中部に『地方創生の聖地』と言われている町があるのはご存じだろうか。
吉野川の南側に並行して流れる鮎喰川上流域に位置する町、それが【神山町】だ。
元々は【消滅可能性都市】として人口減少にあえいでいた町であったらしいのだが、
ここ十年で若者を中心にたくさんの人が移住し活気を取り戻している。
さらには多くの企業(代表格はIT企業であるSansan)がサテライトオフィスを開くなど、
ますます盛り上がりを見せている。
そんな神山町には人々との交流を何よりも大事にしている【丁寧】なカフェがある。
そしてそのカフェを経営する方が自身の所有する山に、これまた【丁寧】なサウナを作った。
その名も【森のサウナ】だ。
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京都市内を9:00に出発。
私と、パートナーと、お仕事でお世話になっているSさんと、
淡路島経由にて神山町を目指す。
高速を使えば3時間あまりで到着するようだ。
私にとっては初・徳島。
徳島と聞いて思い浮かぶワードはみっつ。
すだち、なるとのうずしお、あわおどり。
しかし今回の目的はそのどれでもないのだ。
私たちはある女性に会いに、神山町を目指している。
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14時を7分ばかり過ぎた頃、
お目当てのお店【カフェ オニヴァ】に到着。
店前に駐車をしていると、扉からちょこんとチャーミングな笑顔が見えた。
カフェオニヴァのオーナー、イクコさんだ。
イクコさんはappleの元社員さん。
東京でバリバリ働かれていたが友人が住むこの神山町に数年前に移住し、
カフェオニヴァを開いたそうだ。
今回はお知り合いであるSさんのご紹介でお邪魔し、イクコさんとは初対面だった。
が、あたかも昔から知り合いだったかのような錯覚に陥るほど親しみやすい方で、
私はすぐにイクコさんを好きになってしまう。
THE・近所のお姉さん。
いや、とってもいい意味で。
今回は朝食と宿泊のできる古民家、さらにサウナをご用意頂いているとの事。
このサウナというのが、Casa Brutusにも掲載されたあの【森のサウナ】だ。
設計を担当された方ははるばるバルト三国、
エストニア・ラトビア・リトアニアを訪れその経験を基にこのサウナを設計された。
施工はなんと驚き、イクコさんと仲間たちが手仕事で行ったそうだ。
オニヴァは通常、カフェの営業もされているが
新型コロナウイルスの影響で現在は一時休業されている。
しかし元々オニヴァのメンバーは週休3日、年間200日休暇を取るのだそう。
長期休暇中はみんなで海外に行き料理やワインの知識を深めたり、自身の興味のある分野に挑戦したり勉強したりする時間に充てる。
ということはカフェオニヴァは、休暇を取るごとに成長してみんなの前に姿を現してくれるのか。
そんなお店が近所にあったらいいのにな。
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1時間ばかりの雑談のあと、
イクコさんにテリトリーである山や畑を見せて頂いた。
山では木を間伐し、
その木はお店やサウナを暖める薪になる。
畑ではビール酵母や玉ねぎを育て、種類の違う3羽の鶏がその近くを自由に散歩している。
鶏が卵を産んでいたよー!
二つの卵を私に手渡すイクコさんの表情はまるで少女のようだ。
イクコさんはこの地で手に入れた宝物たちを、
次から次へと私たちに見せてくれた。
その一つ一つが素朴で、豊かで、心が温かくなる。
この3つの要素を兼ね備えているものは、私の村にはあいにく無い。
キャッチーで、効率的で、無機質なものしか【東京村】には存在しない。
数日後にはその村に帰っている自分を想像すると、なんとも言えない感情に襲われる。
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日が暮れてきたのでお店に戻り、私たちゲスト一行は近くの温泉施設に向かう。
森のサウナは朝がおすすめとの事なので、明日に取っておくことにする。
一行が食事を済ませお店に戻ると、イクコさんが薪ストーブでお店を暖かくして待っていてくれた。
お土産で買ってきたクラフトビールとイクコさんお気に入りのフランス産赤ワインを4人で分け、
たくさんの、たくさんの話をした。
1年に1回あるかないかの、特別な、素敵な夜だった。
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翌朝目覚め、集合時間である9時にお店へ向かうと朝食が用意されている。
オートミールに自家製パンとジャム、コーヒーというシンプルなラインナップだが、
素材にこだわっているシロモノなので
一口一口に驚きがあり楽しい。
そこでも会話に花が咲き、設定した出発時間の10時を15分ほど過ぎる。
でも、まあいっか、サウナは逃げないし。
東京村の住民は、この【神山時間】に心地よく身を委ねることにする。
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予定より20分ほど遅れ、私たちはオニヴァを後にする。
イクコさんの軽トラを先頭に、山の中をグングン進む。
近くの道路からよ~~~~~く目を凝らすと、
木の間隠れにお目当ての森のサウナが見える。
車を止めそこから徒歩で1分弱、森へ入ると
こじんまりとした素敵なサウナ小屋が現れる。
向かいの更衣室で水着に着替え、早速お邪魔します。
イクコさんが慣れた手つきで薪をくべると、一気に点火。
瞬く間にサウナ室内の気温は上昇していく。
ストーブの上には天然の石、そしてヤカンが。
頃合いを見て、ロウリュを。
野外なのと、通気口をたくさん設けているので温まり方が比較的ゆっくり。
20分くらいじんわり暖めた後、天然水風呂へ。
これはもうシングルの中のシングルなのでさすがに心臓に悪いと判断し、
飛び込まず軽く水浴び。
それだけでキンキンに冷やしてくれる。
そのまま2セット目へ。
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森のサウナの中で昨日のイクコさんの言葉を思い出す。
『サウナはね、人間だけじゃなく、森をも喜ばすんよ。
サウナの煙突から出た灰が降りかかると、森が元気になるの。
ほんと、花咲かじいさんみたいにね、花が咲いて綺麗になるのよ。』
今この瞬間、森と呼吸が重なり、心がふるえる。
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『私、用事があるんでここで失礼しますね。後で片付けに戻ってくるから、お帰りの際はどうぞこのままで。
とっても楽しかった、ありがとう。ではさよなら!』
そう言うとイクコさんは軽トラで風のように去っていった。
拍子抜けするほどあっさりとした別れだった、まるで明日も会えるみたいに。
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今この文章を東京の自宅で書いているが、
半月前のあの1泊2日の旅はまるでおぼろげな夢のようだ。
それでも確かなことは、
私はもう少し暖かくなったら再び神山町を訪れること。
あの【近所のお姉さん】の笑顔に会いに。