9月入学 ~制度と対策の混同~

【※2020年6月1日にFacebookノートに投稿した内容を再掲】


 最近の報道で,自民党検討チームは来年度までの9月入学の「制度導入」は困難と結論付けた。

  来年度までの導入「困難」 9月入学,提言了承は見送り―自民チーム
  (時事ドットコム)
  https://www.jiji.com/jc/article?k=2020052901120&g=pol

一方,大阪府吉村知事は,依然として9月入学の「対策実施」を図るべきとの主張を続けている。

  2020年5月20日吉村洋文 @hiroyoshimura ツイッター投稿
  https://twitter.com/hiroyoshimura/status/1266382323437600772

大阪市松井市長や,日本維新の会の国会議員も同じ主張をしている。

 ここで,世間に向けて発信されている「9月入学」について

  「グローバルスタンダード(世界標準)制度としての9月入学」



  「コロナ禍での学習進度・出席日数対策としての9月入学」

が混同されている。
そもそも,5月初めに宮城県知事,大阪府知事,東京都知事が,コロナ禍での学習進度・出席日数対策として,今年度からの9月入学制度導入を提言をしたことが「混同」の始まりである。要は,対策として検討すべきところをジャストアイデア的に制度論を持ち込んだ「論点のすり替え」をしたからである。

そこで,9月入学の「制度」と「対策」に分けて,少し考えるところを述べてみたい。

(1) 9月入学制度
 以前,この話題が挙がった頃に,Facebookノートでこの制度への移行に関する課題について述べた。

Facebookノート「9月入学制への移行の課題」 https://www.facebook.com/notes/%E3%83%91%E3%83%91%E3%81%95%E3%82%93-%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%88-%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/%EF%BC%99%E6%9C%88%E5%85%A5%E5%AD%A6%E5%88%B6%E3%81%B8%E3%81%AE%E7%A7%BB%E8%A1%8C%E3%81%AE%E8%AA%B2%E9%A1%8C/556614801933332/

ここで上記Facebookノートを参照願うとして,改めてその課題について述べないが,この制度移行で留意すべき点は

  グローバルスタンダードとしての制度を必要とする生徒・学生は一握り
  にすぎない

という事である。即ち,「制度」の視点からは,現状,多くの生徒・学生は今の4月入学であっても困る事はないはずなのである。裏を返せば,その一握りの生徒・学生のために,多くの生徒・学生,更には社会全体が,先に提示した課題も含めて,多大な影響を受け,混乱を招くことになるのである。よく,将来のグローバル化社会での活躍に向けて必要な制度移行との声が聞こえるが,国民全体の語学力(英語力)がグローバルスタンダードレベルに達しなければ,所詮はドメスティック社会のままになるのである。即ち,語学施策の更なる強化・達成ができて,初めて移行制度の必要性・意味がでてくるのである。

(2) 9月入学対策
 コロナ禍の学習進度・出席日数対策としての9月入学対策は,所謂時間稼ぎの対策であり,感染拡大の次の波がいつきても大丈夫なような対策を考えるのが本来あるべき姿と考える。従って,今は,3月卒業を前提にしてすべきこと,できることに集中することが大事であり,次の波の影響で9月入学にせざるを得なくなれば,それは結果論として進めればいいし,その様相が出てくれば,改めて再来年度の9月入学制度の導入是非を論じればいいと思う。むしろ,最初から9月入学を前提にして対策をすすめ,次の波がこなくて実は3月卒業できる状況になってたとしてももはや前倒しすることができず,一方,次の波が来春から来夏にくれば,9月入学も困難な状況に陥るかもしれない。これでは最初から後手を許容した対策になっていると言わざるを得ない。
なお,3月卒業を目指すといっても,現実的な問題として学習進度の遅れがある。これについては

  ・進学学年,即ち小6,中3,高3
  ・それ以外の学年

と分けて対策を考えたほうがいい。

 まず,進学学年以外であるが,これは学習進度の遅れの挽回を3月までとせず,年度持越しで柔軟に対応し,極論的には進学年度末までに挽回するカリキュラムを組めばいいと思う。現状は,法規制上なのか今年度中に挽回すべく,夏休み・冬休みの超短縮,土曜授業を問題にしてるようではあるが,年度跨ぎにすれば,余裕も生まれるはずである。

 次に,進学学年であるが,二つ問題がある。「受験」と「修学」である。

 受験については,日本の入学試験は「確認試験」ではなく「選抜試験」である。即ち受験生の修学成果ではなく,相対的成績で入学合否が決まるものである。したがって,受験生の公平性を保つのであれば,出題範囲を修学済の範囲に狭め,そこで受験競争させればいい。
 修学については,進学学年の後半期の未修学内容が,進学後の中学,高校,大学での学習においてどれだけ支障があるかを考える必要があるが,ずいぶん前の個人的経験を顧みると,暴論かも知れないが,あまり支障はないのではないかと思う。もし支障があるようであれば,進学後に未修学箇所を教科書で自習するレベルでも大丈夫ではないかと思う。要すれば,進学後の新1年生の夏休みにでも補習するばいいとの考えもない訳ではないが,そこまでは不要と感じる。

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