携帯電話料金

 菅総理の目玉施策の一つである「携帯電話料金の値下げ」,これを受け,武田総務大臣は「100%やる」と宣言したが,これ,どうも携帯電話会社を単に「叩く」だけのような施策に感じるのは私だけだろうか。更に,この「叩く」だけの施策で,自由経済市場の下で携帯電話会社の健全な競争に繋がるのだろうかとの疑問も残る。

 以下に,この施策に関して弊方の思う所を述べたいと思う。

(1)携帯電話料金
 世界主要国に比べると,日本の三大キャリア(docomo,au,softbank)の携帯電話料金は高いとの話があるが,各キャリアは連携サービス(光通信・光電話,電気,クレジットカード,ネット通販,ポイント還元など)を用意しており,この恩恵(割引)も含めた総合的な家計負担の視点で論じる事が必要である。また,比して「かなり」高いと言われているのは大容量プランであり,一般の人が利用するに事足りる容量プランでの比較検証も必要と考える。

(2)電波利用料
 令和元年度の三大キャリアの電波利用料は以下の通り(※1)。
  docomo:184億円
  au:115億
  softbank:150億
一方,テレビ放送関東キー局は以下の通り(※1)。
  NHK:25億円
  日本テレビ:6.5億円
  TBS:6.4億円
  フジテレビ:6.3億円
  テレビ朝日:6.4億円
  テレビ東京:6.3億円

(※1:総務省電波利用ホームページ「令和元年度 主な無線局免許人の電波利用料負担額」より
(https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/fees/account/change/r01_futangaku/index.htm))

 これを見ると,今や携帯電話もテレビ同様に「公共」インフラでありながら,三大キャリアの電波利用料は民間テレビ局より2桁=百億円以上も高い,即ち,「既に」相対的に高い状態にある。先日,菅総理が三大キャリアが料金値下げに消極的なら電波利用料の値上げも視野に入れる的な報道があったが,このような「脅し」をするのではなく,むしろ電波利用料を下げて契約者(料金値下げ)や設備投資(5G展開等)に還元させるよう仕向けるべきある。総務省としての電波利用料収入の目減り分は,必要なら関東キー局を含め数多くのテレビ報道会社から薄く広く回収すればいい。

(3)MVNO(格安SIM携帯電話会社)
 三大キャリアより料金の安いMVNO(Mobile Virtual Network Operator)(格安SIM携帯電話会社)が規制緩和?により市場参入しているので,上記に記載した連携サービスの恩恵を受けておらず,携帯電話料金が高いと思うのであれば,より安いMVNOへ移行すればいいはずだが,実際には,この移行が芳しくない。その理由は,
 ①移行に解約違約金・MNP(Mobile Number Portability)(携帯電話番号ポータビリティ)事務手数料が発生する
 ②携帯メルアドの変更・周知が必要
 ③MVNO提供の電波(通信バンド)が良くない
 ④アフターサービスが見劣りする
などがあげられるが,結局はこれら理由の下で「面倒」なのが実態だろう。
①については無料とする方向性が浮上し,②についてはキャリアによらないフリーメール(Gmailなど)の環境が整っている事から,携帯電話料金と③・④のバランス効果次第では,現下よりはMVNOへの移行促進が進む可能性があった。しかし,今般の携帯電話料金値下げの施策宣言により,このバランスは三大キャリア側有利に大きく傾く可能性が高くなり,MVNOから三大キャリアへの出戻り契約者も数多く現れるとなると,せっかく市場参入させたMVNO契約数が大幅減となり,その存続に黄色信号が灯る可能性も否定できない。これでは当初の携帯電話料金の「競争施策」の目的からして本末転倒な状態となる。
 従って,本来目指していたMVNOの利用機会の促進をより進めるため,①,②は当然の事,③についても三大キャリア並みの電波品質を確保できる「仕組み」を政府主導で進めれば,後は自ずと,MVNOの課題である④も含めて,サービス競争による携帯電話料金の値下げに向かっていくのではないかと考える。実際,二大航空業界(JAL・ANA)とLCC(Low Cost Carrier)(格安航空会社)との間で繰り広げられている航空料金と提供サービスのバランス競争が実績を上げており,このような競合状態が本来の自由経済市場のあるべき姿と考える。

【結言】
 三大キャリアの携帯電話料金の値下げを促すのであれば,権力者(政府)が民間市場(企業)を「叩く」のではなく,自由市場経済の下で競争を促す「仕組み」を行政(総務省)が制度設計する事が本来の姿である。
民間企業は利益追求が当たり前であり,それを公共の電波を利用しておきながら利用者還元(料金値下げ)をしないのはけしからんと言うだけでは,それは行政の制度設計の怠慢・能力不足に他ならない。
 民間企業も,経営が厳しくなると,かつては経営者は安易に労働者の賃金カットに走ったものだが,今では,労働者あっての企業であるとの認識の下,経営者が経営改革をするのが当たり前であり,行政も同様の姿勢を示すことが,利益率が高く,よって納税額の高い優良企業が支える日本経済の浮揚になることを忘れてはならない。


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