9月入学制への移行の課題
【※2020年4月30日にFacebookノートに投稿した内容を再掲】
4月16日に緊急事態宣言が全国に拡大されたコロナ禍の現下,全国の学校・大学/大学院が休校状態にあることから,これをいい機会と捉えて,現行の4月入学制を,世界各国で運用されている9月入学制に今年9月に移行させる方向の提言が,宮城県知事を始めとした各知事から上がっており,総理,文科大臣も選択肢の一つとして前広に検討するとの発言が国会でなされている。
私は,9月入学制の導入について全く反対ではないが,国民への丁寧な議論・説明なく,今年9月導入の結論ありきで拙速に決定することは反対である。特に,単純に世界共通標準(グローバルスタンダード)に合わせることが如何にも正当であるかのような理由で移行するのは,日本の一番悪い癖である「世界の真似文化」による短絡的思考であり,極端に言えば乱暴であると考える。
現時点で,未だ確たる治療薬・抗ウイルス薬が出現していないことから,現下のコロナ禍は依然として継続,あるいは,一旦小康状態を経て来冬~来春に再来する可能性は否定できない。よって,これを念頭に置いた教育対策の検討に最大限注力すべきであり,「検討逃避」のために9月入学制移行を持ち出すのは論点のすり替えである。9月入学制移行を導入するのであれば,確実にコロナ禍を回避できる見通しが立った後にすべきで,来年度以降で考えるべきである。
今回のコロナ禍は,ある意味,政府・国会・行政・都道府県・医療機関における感染リスクマネージメントの失敗であり,二度目は「想定外」との言い訳に責任転嫁はできないことを彼らは肝に銘じておきべきである。
閑話休題。
9月入学制への移行に当たっての課題を順不同で思いつくまま列挙する。
(1)学年における年齢の違い
日本の4月入学制での9月における年齢学年は,海外の9月入学制ではひとつ下となる。例えば,日本での9月における小学1年生の年齢は,世界では小学2年生の年齢といった感じになる。実際,うちの子供も大学4年生で9月から留学(1年間)した際,先方では大学院修士1年生として入学し,帰国後はまた大学4年生に戻っている(海外留学留年)。
すなわち,9月入学制に移行させるのであれば,コロナ禍で考えられている「半年先送り」ではなく「半年前倒し」にしなければ,グローバルスタンダートと言って入学時期だけ合わせても,年齢的には1年遅れの「教育年齢後進状態」となるだけである。
(2)入学制度の違いが世界での活躍への障壁という勘違い
9月入学制を導入してグローバルスタンダード化することにより,多くの若者にとって世界で活躍しにくい障壁が解消されるとの声が聞こえてくるが,若者が世界で活躍しにくい最大の障壁は「語学(英語)力」であって入学時期ではない。現に,今まで,多くの日本人が入学時期とは無関係に活躍しているのは事実であるし,しかも,そのギャップは半年遅れに過ぎない。そもそも,国内でさえ,浪人生は現役生より1年,あるいはそれ以上遅れて入学することになるが,それでも多くの優秀な人材が世に出ているのはみんなが知る処である。
(3)留学準備期間
海外留学・進学には何かと準備が必要である。実は,日本が4月入学制であるおかげで,海外の9月入学まで,正確には先方の夏休み(サマーバカンス)開始の7月頃までのギャップ期間をこの準備に充てることができるのである。これは長期留学や海外進学した者であれば容易に理解できるはずである。逆に,経験がないものは,卒業(あるいは終業)時期と入学(あるいは始業)時期に連続性があれば,スムーズに事が進めやすいと勝手に思っている節がある。卒業準備(論文作成)時期に不慣れな海外相手での留学準備が重なると多忙・過労を極めることになるだけである。
(4)入学試験時期
現在の4月入学制では1月に共通テスト(旧センター試験),2月~3月に二次試験のスケジュールとなっており,この時期はインフルエンザ流行期なので,9月入学制に移行すればインフルエンザ罹患の心配は解消されるとの声が聞こえる。しかし,インフルエンザには抗薬があるし,それでも心配なら共通テストを前倒しで11月ぐらいにするほうが制度変更上は容易と思う。
なお,9月入学制にすれば,入試時期は単純スライドで
共通テスト:1月→6月
二次試験: 2月~3月→7月~8月
となるが,日本は欧米と違って,この時期は大雨・台風・猛暑の季節であり,抗薬があるインフルエンザの個々人罹患以上に,これらの「自然」が不可抗力的な多数的支障になる可能性が高いことを忘れてはいけない。
(5)延長費用負担
4月入学制から9月入学制に移行することにより,学生生活も5ヶ月延長になるので,その費用を誰が負担するのかという問題がある。大学では経営負担が発生し,学生も,延長分の授業料が仮に全免されたとしても,自宅外通学者であればアパートや公共料金等の固定費や日常生活費の追加が余儀なくされる。また,受験生であれば塾費用,浪人生であれば予備校費用が追加請求される可能性もある。
今回,知事からの提言→政府・文科省の判断で制度変更するのであれば,これらの費用は税金で「全額補償」されるのが当然であり,現下のコロナ禍での「補償なき休業要請・指示」のような事は許されないし,学生を持つ家庭にとっては酷である。
(6)卒業時期
学期のグローバルスタンダード化を考えるのであれば,現行の4月入学制の下で,卒業時期の繰り上げ,即ち「秋卒業」を認めることがあってもいいのではないだろうか。そもそも,海外留学・進学を目指す学生は概してし優秀だろうから,繰り上げ卒業を認め得る学業成績であることが多いのではないだろうか。この場合,(1)で記載した「学年における年齢の違い」という課題も「前倒し」での卒業ゆえ解消されることになる。
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