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[読書感想文] インヴィンシブル

PS5の「The Invincible」というゲームをジャケ買いして遊んだところ、実は原作は小説であるということを知ったので、気になりすぎてこの新訳版を買ってみた。
スタニスワフ・レム、一生きちんと名前を覚えられる自信がないが、一冊読み終わった今ならなんとかなる、かもしれない。

まず装丁が良い。半透明の表紙の内側からうっすらと見えるLEMの文字となんか丸い図形。

そして全体的に翻訳が大変素晴らしく、直訳感、翻訳感がほぼない。そして時折出てくる単語が普段遣いのものではなく、日本語なのに意味を知らなかったりそもそも読めなかったりして、自分の語彙のなさを嘆くと共に、翻訳のセンスを感じて震える。
noteの一番下に「良い語彙」集を載せてみた。

・映像化作品のあとに読む小説

ゲームのあとに原作…と言ってもストーリー的には時系列が違うので厳密には原作ではないけどともかくゲームのあとに小説を読むと、既にビジュアルが脳内にあってしまうので、想像力が発揮できない。これは良いことなのか悪いことなのか、難しい。

ビジュアルを想像する必要がないから小説の内容に集中できるとも言えるし、自分の理解に合わせて脳内で全体的なお話を構成していきたいのに、既に確立されてしまっている要素が邪魔をするかもしれない、とも言える。

宇宙船や乗り物、人物の服装などはもうゲームと同じもので脳内再生されているが、逆に想像を狭めてしまってもいる。百人いれば百通りのインヴィンシブルの想像があるはずなのにだいぶ同じものになってしまう。

まあ、一番大きな問題は、ゲームと小説で時系列が違うという事実はあっても、根本的な謎はゲームの方で解けてしまっているので、SFスリラーのはずが特にハラハラすることはもうないということ。

とは言いながらも、インヴィンシブルに関してはゲーム版のビジュアルがとても良かったので小説版は似たような世界観の構築がやりやすく、楽しく読めた。逆に小説を読んでからゲームをしたら、想像とのズレがあるからそれはそれで楽しそう。自分にはもう楽しめないやり方だが。

そして実際、当たり前だがゲームと小説での表現のズレはところどころある。間違ってるとかではなく、ちょっとしたパラレルワールド感。
とは言え、正しいところのほうが多いからむしろゲーム版との答え合わせも楽しい。

インヴィンシブルがコンドル号から連絡を受けたのが一年前というのに最初アレ?となったが、そういえばゲームでも実はコンドル号はだいぶ前に到着していたことが判明したりしてたし、記憶を失わないキャラクターの謎も基本同じ。まあ、コレに関してはどっちの説明もモヤモヤしたけど…

あとは、ゲーム版ではコンドル号がだいぶ惑星の調査を進めていたが、小説ではほとんど何もしないまま全滅していた模様。まあ、コンドル号が見つかった時点で謎が解けてしまったら小説の1/3くらいでお話が終わってしまうから、コンドルの調査はなかったことにしないとな。

あと、ゲームにもあった「仇討ちしても無駄、船と乗員を沈めたと言って海原を鞭で打つようなもの」、というセリフがあってニヤッとできた。

でも、4gamerのゲーム紹介記事では、「小説で描かれたキャラクターや設定も登場し」と書いてあったのでいつ出てくるかと思って読み進めたが、最後まで出てこなかった。誰のことだったんだ…?

・ストーリー

始まりは乗員たちがコールドスリープから徐々に覚めていくシーン。これはゲームも同じだったな。
そういえばゲームではレギスに降りたのは不慮の事故みたいな感じだったけど、結局艦長の企みだったわけか。全部あいつのせいじゃん。

遭難したコンドル号の後を追ってレギスIIIに到着したインヴィンシブル。こっちのほうが大きいのかと思ってたが、同じくらいのサイズらしい。確かにゲーム中のコンドル号、とんでもないサイズだったから、アレより大きいインヴィンシブルとは…?ってなってたものな。同じくらいのサイズなら、よし!まあ、それでも現代の宇宙船に比べたら圧倒的巨大感だけど。

そして、コンドル号周辺に散らばる死体と、どんどん記憶障害になっていくインヴィンシブルメンバーたち。うーん、SFスリラー。まあ、自分は原因知ってるんですけどね!

でもゲームの主人公が無計画に猪突猛進していたのと違って、こちらはちゃんとバリアをしっかり張りながら進めており、堅実。
なのに狭い場所の探索とかでちょっとだけバリア外す、とかやってたら虫に襲われてしまった。

少しずつ判明してはいくものの、それよりもメンバーが倒れていくスピードの方が早く、解決していく話ではなくとにかく翻弄され、人間中心の考え方なんておこがましいとは思わんかね系展開で終わった。

ゲームだと一瞬で行動不能にされたキュクロプス、小説ではかなり善戦している。が、結局やられて自由行動になってしまい、最終的に本船からの水爆?で蒸発するという不憫キャラに。

でも虫は記憶を消すのであればキュクロプスも全プログラムを消されるはずなのでは。敵を攻撃したりする基本的な機能だけは残っているという不思議。でもゲームでも動かなくなった機械と、敵味方区別なく攻撃し始めた機械があったな。バグのやることはよくわからないからいいや!

そして結局ロアンもゲームと同様、意識混濁に陥っていたから記憶を消されずに済んだという話だった。が、そのおかげで虫に対して無敵になったロアンが行方不明のメンバーを一人で探しに行くという無謀な展開に。
しかもほぼ全員死体で発見できてミッションコンプリートしたので、そのまま半死半生で帰って、インヴィンシブルに戻ってきたところで終わり。切ない。

でもロアン、普通に意識があったっぽいけどな。「何も考えられなかった」、と単に呆然としてただけ。呆然とするだけで助かるとは思えないが…
ヤスナのときもそうだったが、なんかここだけはなんか不思議と甘い。納得できねえー。

インヴィンシブルだったのは宇宙船の名前だけではなく、虫もそうであり、ある意味ロアンもそうだったというトリプルミーニング。

面白かった。こういう、虚しい系のストーリー、嫌いではない。他のレムシリーズも読んでみたいけど、なかなかお高いからなー…


・良い語彙

p10
いびきとも呻吟ともつかぬ、
呻吟(しんぎん):苦しんでうめくこと。

p11
連続する切処に見通しのきかない漆黒のを宿していた
切処(きれっと):山の鞍部のうち、特に深くV字状に切れ込んだ地点を意味する語。日本語の「切戸」に由来する。主に長野県の山について用いられることが多く、地域によっては「窓」とよばれることもある。

キレットという登山用語は聞いたことあったけど、まさか日本語だったとは…

影(かげ):日・月・星・灯火・かがり火の光
陰(かげ):物にさえぎられて光や風の当たらないところ。人目に立たない所。
翳(かげ):物におおわれたかげ。「陰」に近い意。

p19
悠揚迫らず、お定まりの計測をしていた
悠揚(ゆうよう)迫らず:切羽詰まったところがないゆったりとして落ち着いているさま

p34
紅い東雲を反射してきらめく水の流れが見えた
東雲(しののめ):「夜明けの空が東方から徐々に明るんでゆく頃」を意味する古語・雅語。

p47
立ち並ぶ高い稜堡の間を強風が吹き、
稜堡(りょうほ):城壁や要塞の、外に向かって突き出した角の部分。また、そのような形式で造られた堡塁(ほるい)。

p106
蝟集する光の粒は、現れた時と同じように突如として消えた
蝟集(いしゅう):物が一箇所に群がるように集まるさま。

p107
それら雲のあわいからは明るい星なら昼間でも見える
あわい:物と物とのあいだ。

p116
斜面には、あばた状の円錐で埋まったルンゼの鋭い線が走っている
ルンゼ:急峻な岩稜の縦の溝、割れ目。ドイツ語。

p222
払暁、最初の二台のジープが、スロープを降りていった。
払暁(ふつぎょう):夜の明けがた。あかつき。

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