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函館とヨコハマ

横浜市の総人口は372万人ほど(2015年)、市役所の一般会計も1兆9、156億円(令和6年度/2024年度)くらい。
対して函館市は総人口27万人弱(2015年)。市役所の一般会計は1432億円くらい(令和6年度/2024年度)。

この数字だけを見れば函館市は横浜市の10分の一以下の都市ということになる。でも、これは、あくまでも「量」的な比較であって、それ以上でも、それ以下でもない。

五島軒の創業は1879(明治12)年、つまり創業145年。その間、継ぎ足し継ぎ足し、継承維持されてきたデミグラス・ソースは言葉で言い表すことが「返って野暮」だと思えるくらいの旨味、まろみ…関東にいいても、(五島軒の)レトルトのカレーには、ちょくちょく出会うけれど、それで終わりにせず、ぜひ本店のレストラン「雪河亭」で伝統の「洋食」を味わっていただきたいという思う。

あれは言葉にできない。

確かに開港地としてはヨコハマは函館のちょっとだけ後輩にあたる。それにしてもヨコハマには五島軒のような立派な洋食屋さんはない。なんとなくホテル・ニューグランドのレストランが紹介されることがあるけれど、その味も、つまりは「進駐軍」の味なので戦後のもの。確かに何度も大きな災禍に遭っているヨコハマだけど、函館だって何度となく市街を焼き尽くすような大火に遭遇し、もちろん前の大戦時には空襲にも遭っている。

五島軒が創業した1879(明治12)年といえば、ヨコハマで、わが国初の生糸繭共進会(イマドキでいえば「メッセ」とか)が開催された年。以来、ヨコハマは成り上がりと金儲けに終始してきたきらいがある。
そうしたことを反映してか、今でも、ヨコハマでは、料理屋さん、レストランの評価も、美味しいか不味いかよりも、店の席数であり、店舗の数。つまり「量的」に評価される。

函館市には、五島軒以外にも、様々なジャンルで秀逸な「美味しい」がある。観光客が誰も行かないような場末に絶品のラーメン屋さんがある。たぶん、この違いは店を盛り立てるお客さんたちの価値観に拠るものだと思っている。1980年代以降は函館だって「成り上がりと金儲け」な色彩を帯びてき、。今は、その傷跡が公共施策に手詰まり感を与えていいるけれど

でも、函館の地下水脈は力強い。

これからは「量」ではない。「マスメディア上でのバリュー」でもない。SNSが市井の生の評価を世界に伝え、交通事情が世界中の移動距離を縮めていっている。また、街文化が光り輝いてみえる時代になる。それも1960年代末の新宿や1980年代末のセゾン全盛時代の渋谷のように「訪れる街」であり「流行の街」ではなく、落ち着いて長期に過ごせる、あるいは「暮らせる街」として。

そうなればイベントな「即席」は価値を失う。函館のように、すでに熟成された街が有利。急に五島軒のデミグラス・ソースの味を出そうとしても不可能なのと同じ。

これからイベントやっても描き回しても無駄。日常が熟成していく、芳醇な街をつくらなきゃダメだから。

末広町 旧市街かな
青柳町あたり 観覧車はこの近く

もちろん、たくさんの人が暮らしていれば、マスカルチャーは一定のボリュームで存在し続けるのだろう。でも、それはスタバであり、マクドナルドのようなもの。街文化に寄与するものではないだろうし、すでにサイト・シーイングを卒業しつつある「インバウンド」についての戦力にもならないだろう。知価生産時代に戦力となる「文化」を生み出すものではない。あくまでも人々を落ち着かせておくための消費財である。

わかりやすく、コンビニエンスなマスカルチャーは、「食」や「ファッション」を含めて「マス」を構成する人々の、心の安寧のためにある消費財として愛られるのかもしれないけれど、メガな企業でなければ、彼らの消費力に合わせての「価格」がつくれないのだろうし、やはり「大量生産・大量消費」なものになり、「ファスト風土」の源泉になるもので、街にとっては、あまり有り難いものではない。

少なくとも、現在のヨコハマは風土としてマスカルチャーな街だ。みなとみらいも、等身大の「ピカチュー」が「群」で行進する姿こそが似つかわしい感じだ。
かつて、中華街の路地裏にあった、外観は一般的な家屋の、それでいて一日に一組しか客を取らない料理屋などは、こういうヨコハマにはに合わない。
プリン・ア・ラ・モードを求めて行列ができるようになれば、ニューグランドも変質していく。ウチキのパンも同じだ。

そういう意味では、ヨコハマの場合、すでに「焼け跡」なんだなぁと思う。

「函館公園こどものくに」の等身大の観覧車(「日本最古の」らしい)。親水性豊かで、やはり等身大の港。モーニング・ビュッフェが半端なく美味いホテルがいくつか。この都市規模にしては洋菓子も充実しているし、和菓子も、なぜか上菓子まで充実している。いいJAZZ喫茶もあるし、美味しい珈琲で、ロックやソウルも聴ける。

モーニングが美味いJAZZ喫茶

ラーメン美味い、カレー美味い、マスな観光で有名なところとは別に市場もあるし、谷地頭には温泉もある。

森田芳光監督が好きだった函館は、たぶん、これからだ。


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