函館の風/函館の美味しい
初夏の よく晴れた日がいいんだけど…
朝、谷地頭温泉でひと風呂浴びてから、ぶらぶらと函館公園に向かう。中央図書館や旧函館博物館のペンキ板張りの壁を横目に見ながら、また、できるだけダラダラと時間をつぶすように丘を登って、JAZZ喫茶でありライブである「想苑」に。
もちろん、小さな音じゃないんだけれど、スピーカーから流れるJAZZは、包み込んでくれるようなやさしい音。J「想苑」は、フードメニューも充実していて、僕は、ここで「朝食」を過ごす。しばらく優しい時間を味わって、お店を後に、右手に函館公園を見ながら、亀井勝一郎の文学碑あたりまで、坂を下っていく。このあたりの住宅街の雰囲気が好きなんだ。
文学碑から立待岬停車場線の坂に出て、ちょっと下って千秋庵。「ばたどら」を買って、また十字街に向かって歩き出す。十字街あたりのサウダージな感じがまた好きなんだ。…否、十字街だけじゃない。函館の街の雰囲気が好きだから、森田芳光監督の「キッチン」が好きだし、「オーバーフェンス」「そこのみにて光輝く」が好きだし、「居酒屋絶兆治」が好き。
ただ、函館を浴びるように歩くんだ。
しばらく歩いたら、港の近くに出る。函館港は、再開発な街並みに隔てられることなく、体感できる港。還暦過ぎの僕が子どもだった頃の横浜港のよう。現役で働く港でもある。木造船をケアする小さな造船所でウインチが巻き上げられる音がする。
湾の対岸には大型船の入るドッグも見える。僕は、このあたりで「ばたどら」を立ち喰いする。それが美味しい、僕はお酒を飲まないけど、六角精児さんの「呑み鉄本線・日本旅」のような感じかな。風景に溶け込むように、僕は「どら焼き(ばたどら)」を頬張るってわけだ。
北の港だからか、函館の風は港町なのにさらりとしている。湿度がまとわりつくことがないから、ついつい海近くに長居してしまう。だから「初夏」あたりの気候がありがたい。
函館には、千秋庵みたいな本格の和菓子屋さんもあれば、150年にならんとする歴史を誇る洋食店「五島軒」もある。カレーばかりが知られるが、この店の「美味しい」の原点は、旧幕府軍として箱館戦争を戦った初代料理長=五島英吉さんが、明治12年に創始以来、ずっと守り続けられてきたデェミギュラス・ソースだ。だから僕は、よくビーフ・シチューをいただく。
(函館らしくロシア料理のコースも美味い)
カジュアルな普段着ごはんも美味しい。僕は、十字街にある「オリエンタルキッチン」さんや「カリフォルニア・ベイビー」さんによく寄らせていただく。両店とも、昔のヨコハマだったら、本牧あたりにありそうなお店だ。
港町なのに、函館にはギラギラしたところがない。でも、国内外のあらゆる文化が、この街で出会い、化学変化を起こして、函館の街の文化を醸成している。だから「美味しい」だって無限大だ。様々な「美味しい」がある。「旧くから」っていうだけでなく「新しい名物」も生まれ続けている。
こういうことって、つくり手のみなさんの努力もさることながら、函館の街文化をパトロネージュする、ひとりひとりの函館市民のみなさんの賜物だ。リスペクトだと思う。
函館公園「こどものくに」には、小さな小さな「日本最古の観覧車」がある。最近、クラファンで存続が決まった。これは、函館市、内外の市民のみなさんからの贈り物だ。僕もそうだけれど、旅人も函館と一緒にいたいんだろう。
観覧車の近くには、あのJAZZ喫茶「想苑」。同じ公園内には旧い白ペンキの板張りの博物館もある。歴史が合唱している。
多様性といういうのはこういうことをいうのだろう。函館はまさに港町だ。文化の交差点だ。
しかも函館は「scrap and build」な街ではない。レイヤーのように歴史を塗り重ねて落ち着いている。肩肘を張ることもない。
だから函館に吹く風は心地いい。僕はそう思っているんだ。