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「あんたはスマートじゃないんだわ」

早朝の電車に滑り込んだ。自宅を出るのに予想外に時間がかかり、ギリギリセーフで乗車する事が出来た。そんな小さな事に気持ちが少しだけ明るくなる。

「良い事がありそうな」

スーツがずらりと陳列されるように車内を埋め尽くしている。さらに電車が進むにつれて車内は混み合っていく。始発駅から乗車した僕は座りながら読書をしながらその状況に見入っていた。

ある駅からひとりの男性が乗車してきた。たまたま僕の隣の座席が空きそのスペースに座ってきた。男性3人が座るとみっちりとした接触度の高く居心地の悪いスペースが完成した。その状況をひとことで表現すると「みちみち」といった感じである。いや「むちむち」かもしれない。

すると隣の座席の男性がある行動し始めた。僕の右半身に体を押しつけてきて、必死にパーソナルスペースを確保しようと力を加えてきた。もはやソーシャルディスタンスという言葉など存在しない空間と圧迫感である。男性はスマホがしたくてたまらない様子で、さらにガサガサと肩を前後に動かしながら、高度なテクニックを駆使しながら左肩を入れてくる。仕方ないので少し体を寄せて体を逃した。男性はひと安心したかのようスマホに興じている。

「そんなに必死になることなんやろか」

今回に限らずよくある事なので、気にせずに読書を続けることにした。すると男性は新たな行動を起こすことを決めたようだった。混み合っている車内、座席の前には立っている人がいる。そんな状況で足を組むという信じられない行動に出た。その行動には流石に怒りを覚えた。

その場で相撲取りになり、男性のまわしを掴み座席の外に送り出してやりたい衝動に駆られた。そして塩を投げつけてやりたかった。自分が相撲取りではない事が残念で仕方なかった。まわしをしていない事も含めて。

もしくは指先から糸を放出し、男性をぐるぐる巻きのミイラ男にして網棚に乗せてやりたいという発作的な衝動に駆られた。僕の頭の中では完全なるミイラ男は完成している。この時ほど自分がスパイダーマンではないことを残念に思ったことはない。

そんな衝動を抑制しつつ、男性3人のみちみち、いやむちむちの空間の座席に座りながらひとり考えた。

「3人ともガリガリに痩せてスマートになったらええんか」
「ほんなら座席のスペースに余裕も出来るもんな」

でも僕の心から溢れそうになったのは

「あんたの行動がスマートじゃないんだわ」という言葉だった。

〜パンくずよりも小さな事をカタルヒト〜

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