【整理】適正な運賃とは
久しぶりの投稿です。4月始まりが一般的な日本の企業会計では、上期が終了しつつあります。あらゆる企業さんで下期以降の方向性が決まりつつある今日この頃、物流業界は一つの潮目の変わり目を迎えているのかもしれません。
一昨年来のコロナ禍であらゆる物事に変化が生じてきました。物流業界で言えば、欧米航路を中心に海上運賃の爆謄が広まり、コロナ禍前と比べて10倍以上の値段で取引される事が当たり前になっていました。しかし、今年に入り、上海ロックダウンや各国の行き過ぎたインフレを抑制する政策による世界経済鈍化の見立てが強まっている中で、欧米航路を中心にスポット海上運賃の急落が荷主の関心を高めています。
前置きが少し長くなりましたが、今回は「適正な運賃とは何なのか」という事に焦点を当てて自分なりの考えをまとめてみました。なお、コロナ禍の影響で旅客収入がなくなった分、貨物運賃に反映をせざるを得ないという、明確な理由がある航空運賃については対象外にしたいと思います。
そもそも運賃が高騰していった背景は?
海上運賃の高騰が始まったのはコロナ禍1年目(2020年)の年末からでした。
FREIGHTOS社が公表するFBX trendを参照するとよくわかります。
まさに爆謄。。!
2020年1月~夏場頃にかけては、どの国でも企業活動を止めるほどの厳格なロックダウンが敷かれていました。しかし、それをずっと続けるわけにもいかずコロナウィルスと向き合う生活(ニューノーマル、アフターコロナという類)へ、世の中はシフトしていきました。感染を防ぐ為に、我々の生活は家の中で過ごす時間が増えていきました。この生活スタイルの変化が米国を中心にテレワーク用のPCや周辺機器類、お家時間を有意義にする為の雑貨類(EMS、テレビゲーム等)といった巣ごもり需要が高まり、海上運賃も上がっていったのでした。
これは運賃に限った事ではないのですが、価格は需要と供給のバランスで決定するという基本に基づいて考察できます。需要が高い(買い手市場)であれば、供給側は強気な価格設定ができるといえますし、需要が弱い場合には(売りて市場)、弱気な価格設定にせざるを得ない状況になります。
言わずもがな、あらゆるモノの生産は中国を中心としたアジア圏内で賄われています。それを消費するのは欧米諸国です。多くのモノはアジアから欧米へ流れておりますので、輸送需要が強いアジア発 欧米向けの運賃から高騰が始まりました。さらに、船社が欧米航路を優先するが故、他の航路においては深刻なコンテナ不足が発生しました。それは、世界的に荷主の輸送需要を高めるきっかけにもなり、あらゆる航路へ運賃の高騰が波及していきました。「いくらでも払うから、コンテナを回してくれ。」という理屈です。
適正な運賃って、なに?
高い輸送需要を追い風に、どんどん強気で販売価格を設定できるような環境が2年ほど続いてきましたが、ここで世界経済の減速によりスポット運賃が急落し始めました。さて、こらからは潮目が変わり、今まで高止まりする輸送費用に耐えてきた荷主達の逆襲が始まるのでしょうか。ここで、私なりに荷主と輸送業者の立場を考えてみました。
荷主の立場
・あらゆるモノのコストが上がっている
・一方で、販売価格に転嫁出来ているものとそうでないものにばらつきが
・世界的な経済減速による景気悪化懸念。売り上げに影響
⇒ わかりやすくスポット運賃が値崩れしている。運送費用の値下げ要求したい!
輸送業者の立場
・元々赤字であったコンテナ事業において積年の黒字化達成
・環境を配慮した設備投資、燃料の切り替えでオペレーションコストの増加
・港湾関係などを含む労働者離れを食い止めるインセンティブ(給料)
⇒ 目先の景気後退を受けて戦略的にスポット運賃を下げるトレンドになっているが、長期目線ではコロナ前の価格帯には戻せない。
私自身が、フォワーダーという立場なので輸送業者にとって都合の良い考えになっているかも知れませんが、色々と仕事をする中で聞こえてくるお互いの主張をまとめると、こんなところでしょう。
結論、コロナ前の運賃水準では、今後海運業界が発展的に成長していくのは難しいと考えられるので、ある程度のところで運賃は下げ止まり、その価格はコロナ前と比べて数倍程度高い水準に落ち着くのではないかと考えております。
輸送業者目線の持論ですが、これからの物流に対する考え方としては、販売する我々も含めて安易にコロナ前の運賃水準まで値下げするという思考から脱却が必要なのではないでしょうか。これは、最終完成品の価格にも少なからず反映する消費者という立場でも理解が必要になるので、時間もかかるし難しい事かもしれません。
今までの高騰があまりにも急激であったのと、各船社がこれまでもかというほど最高益を出し続ける中、荷主の中には「いつか仕返しを。。」と虎視眈々と買いたたきのチャンスを待ち望んでいるところも少なからずいるでしょう。
しかし、特に日系企業でも国内で製造をしている事なんて殆どないと言えるような構造がグローバルで出来上がってる中で、海外の工場から輸送する事も生産活動の一部であることは考慮しないといけないと考えます。よい製品を安定的に生産する為に、設備投資にお金を使うのと同じように、輸送についても同じようによい輸送サービスを享受する為に投資の視点を持つことも重要なのではないでしょうか。販売する我々も、オペレーション負荷などのサービス品質をより考慮した価格設計に責任を持つ必要があると思います。
この局面をどのように考え行動するかは、この先10年後に振り返った時に、荷主だけでなく、我々輸送業者の企業存続にかかわるくらい大きな影響がある可能性も否めないと考えます。
果たして、適正な価格とはいったい何なのでしょうか。これは、時代の流れなどにより価格決定の要素は変わっていくものだと思うので、永続する理由を特定することはできないのですが、一人一人が自分なりの答えを見つける為に、あらゆる角度から議論を煮詰めていく必要があります。今はその時期を迎えていると、まずは認識する事から始める事が重要だと思います。