人間というものーただ生きるだけでなく
人間の心は、生存と繁殖を有利にするために使われるというのはおそらく真実であろう。そこからいろんな行動や心の働きが説明できることからもわかる。
しかし、人間の心がそれをゴールとしていないことも事実としてある。
たとえば、子孫を残すという行為が真実であるとしても、「残す」というのは子孫だけでなく業績や資本、名声、実績、作品など子孫を残す以上の心の使い方をすることもある。子孫がいなくてもだ。
長く生きてきて虚しく感じる心の働きは「何も残せていない」という虚しさと無関係ではない。
子孫を残したにも関わらず、それ以上の何かを求める人はたくさんいる。
それどころか子孫をたくさん残したのに「生まれ変わったら今度は結婚や子供はいらないから自分の生き方をしたい」という人もいる。この話に同意する人は少なからずいるはずだ。
人間は生存と繁殖を乗り越える心の使い方を身につけていくようだ。利己的な遺伝子の働きを乗り越える心の働きがあるということである。
人間は「ただ生きればいい」ということを良しとしないのではないだろうか。
心の探究はそのことに突き当たって途方に暮れる。本当はそこから何かが始まるからではないのか。
拡張されていく心の働きの行き着くところはどこなのだろう。