闇に泳ぐ金魚 再び
メールを送っても返って来なかったので大里君とは会えないと思っていました。金沢の夕景を犀川大橋からボォーっと眺めていたら聞き覚えのある声がしました。声の方を見ると汗だくの大里君が立ってました。大里君の手には透明なビニール袋がぶら下がっていて、よく見ると袋の中には金魚が一匹入っています。金魚すくいでもしてきたのでしょうか。大里君がペコリと頭を下げて私も同じくペコリと頭を下げるとなんだか可笑しくなって笑ってしまいました。
「久しぶりの金沢はどうだった?何も変わってないだろう」と大里君が言うので私は頭を振り「ううん。ずいぶん変わったよ」と答えました。
「それより、その金魚どうしたの?」私が尋ねると大里君が思い出したようにああ、そうだった!と叫びビニール袋を見つめ指で2・3度つつきました。金魚は迷惑そうに口をパクパクさせています。
「もう少し待っててくれないか?」と大里君が言うので私たちは犀川が闇に染まっていく様子を眺めました。夕日が沈み犀川が群青色に染まっていき、やがてそれは漆黒に染まりました。大里君がそろそろかなと言い、ビニール袋の口を開けました。
「金魚をすくってごらん」
私は恐る恐るビニール袋に手を入れゆっくりと金魚をすくいました。金魚は驚きもせずおとなしく私の手のひらでゆらゆら気持ちよさそうに揺れています。大里君は犀川の方を指差したので手のひらをその方へ向けました。すると金魚がひと跳ねし、ゆらゆらと闇夜を泳ぎ出しました。この光景、見たことがある。そうだ、学生の頃、浅野川の灯ろう流しを見た帰りに誰かが闇夜に金魚を放っていてすごく綺麗だった記憶がある。大里君を見ると彼は満足そうに金魚を見ています。私も金魚を見ました。金魚はゆらゆら気持ちよさそうに泳いでいましたが、何度か私たちの頭上をくるりと回った後、闇夜へ消えていきました。
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