読書感想文(67)小川洋子『薬指の標本』(新潮文庫)

はじめに

この本を読もうと思ったのは、『博士の愛した数式』が面白かったからです。面白かったというか、綺麗だったというか。この作者の他の作品も読みたいなぁと思って、なぜこの本を選んだのかは忘れました。「薬指の標本」「六角形の小部屋」の二篇が収録されています。

薬指の標本

この作品はとても好きでした。読んでいて落ち着きます。文章が自分に合っているのかもしれません。なんでこんなに綺麗なんだろうなぁと考えると、主人公に寄り添いやすいのかなぁと思いました。会話をしているのに突然窓の向こうの様子が描かれるのも、主人公の視線と一致しているようでしっくりきます。一見無関係のように思える描写によって、場面がありありと想像できました。そういう上手さが惹かれる理由なのかなぁと思いました。

ストーリーは不思議だけど何故かしっくりくる感じでした。二人の関係もなんだか神秘的なような、でもなんとなく怖いような気持ちになりました。浴室で音が響くところがいいなと思いました。しんと静まり返る中で二人の声だけが響くなんて状況はあんまりありませんが、二人だけの世界って感じで憧れます。でもやっぱりなんとなく男の方には怖さを感じました。結末も良いなと思いました。靴磨きのおじいさんの忠告を受けた上で進むのが良いです。

ただし、まだ理解しきれていない感はあるので、また読み返したいです。

六角形の小部屋

こちらは正直にいうと、あまり好みではありませんでした。物語の中心である六角形の小部屋に辿り着くまでが長く感じてしまいました。逆に「薬指の標本」は最初から標本室にいたので読みやすかったのかもしれません。何が起こるんだろうといったワクワク感もほとんどなく、淡々と読み進めていきました。でもやっぱりなんとなく不思議な感じはずっと漂っていて、心地よさを感じました。

最後の終わり方は、よくわからないけど良いなと思いました。多分だけど、ユズルさんとミドリさんは主人公のためを思って行動したのだろうと思われました。このまま進んでいたらどうなったのかは、わかりません。そのわからなさがまたなんとも不思議な雰囲気があって良いなと思います。

おわりに

とても読みやすく綺麗な文章で、良いなと思いました。そのうち「好きな作家は小川洋子です」という日が来るかもしれません。また別の作品も読みたいです。

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