突然。
その電話は
突然やってきた
もしもし
おばあちゃまが
悲鳴を上げる
まわりにいた
親族は驚く
どうしたの?
寒くなり始めた
早朝の廊下に
響き渡る
鳴き声
誰もが察することができた
それでも
「どうした?」
ほかに言葉がみつからない
おばあちゃまの
鳴き声に
ボクたちも抱き着く
ヤダーーーーーっ
妹はトウも下なのよ
(10歳も年下なのよ)
どうして?
なに?
どうしたの?
妹を出してください!
親族が続々と
おばあちゃまの周りに
集まり
おばあちゃまの肩をだき
トントンしながら
なだめる
ぎゃあああああ
ひさこーーーーーっ
あああああああああっ
おばあちゃま
しっかりして!
おばあちゃまの妹は
嫁ぎ先で
女中のように扱われ
苦労続きだった
若い時は
おばあちゃまのもとにきて
いつもいつも
「ねーちゃんはええねぇ
いいとこ嫁に来たねぇ」と
明るく笑ってた
何度も妊娠しても
流産ばかりだった
それもそのはず
家庭内のこまごまとした
家事を日々こなし
真冬でも井戸の水を汲み
お風呂場に取り込んだり
薪でお風呂沸かしたり
あかぎれの指を冬にはいつも
痛い痛いと言って
おばあちゃまに
薬をつけてもらって
喜んだ
おばあちゃまの姉妹の
父親は戦争でとられた
母親は結核で
早くに亡くなった
奉公に出され
畑などを耕すところにでた
おばあちゃまは
ボクたちのおじいちゃまと
偶然出会い反対を
おしきって結婚した
おじいちゃまの
ひとめぼれ
おばあちゃまの妹は
漁師町へ奉公へ出され
慣れない漁業を手伝って
とても素敵な漁師さんの
お嫁になった
ところが
籍を入れたその年に
海から帰らなかった
おばあちゃまの妹は
若くして子供も無いのに
後家さんとして
生きた
そして町内のひとのすすめで
さらに都会の町長の三男を紹介され
見合いもしないうちに
嫁に行くことになった
おばあちゃまは
そんないいところの
息子さんが
なぜ二度目の結婚になる妹を
選んだのか不思議がっていた
いざ互いに見合う
おばあちゃまの妹は
可愛らしいタイプで
相手はすぐに気に入った
おばあちゃまの妹は
三男の太った腹や
酷いニキビ面に恐れをなした
だが抗うこともできず
嫁になると
厳しい母親に何かと呼ばれる
やがて
よくできた長男夫妻
次男夫妻はそれぞれ
新居を構え
豪華豪勢に暮らしていた
お義母さんは見栄はりで
それぞれの
嫁に劣りたくなかった
そしてどうしようもない
三男とその嫁との同居を求め
家事のすべてを嫁に任せ
お茶にお華に
お稽古に時間を割き
さまざまな人との交流に
必死だった
ストレスは嫁イビリ
食事がマズイといって
作り直し
時間が無いから
寿司の出前でいいわと云う
三男の夫は仕事もせず
日々自宅内でうろつき
可愛い嫁を追い回し
寝室へ連れ去る
お義父さんは厳格で
目も合わせない
膳を出す手も震え
会話も無い
ある日
湯あみをする姿を
のぞかれてしまい
何とも言えないまま
日々を過ごした
三男の夫の殴られた
青あざに蓬を当てて
自前の治療を施していると
後ろから
お義父さまがそっと肌に触れ
無言のまま蓬を重ね広げ
治療を手伝う
その姿を
お義母さまに見られてしまい
激しくぶたれた
「この!泥棒猫!
卑しい女だ!
人の旦那に色目使うな!」
それをきっかけに
三男の夫には激しく殴られ
足蹴にされるようになる
せっかく妊娠しても
流れてしまい
とうとう
身体も悪くしてしまう
寒い冬の朝
あかぎれの手で
洗濯板で着物を洗い
井戸の前で
倒れ込んだ
最後の流産だった
戻る実家も無く
いつもいつも
姉であるおばあちゃまのもとに
やってきた
それも三男の夫の自慢でもあった
「いいところの嫁をもらった」
何度もそう言った
おばあちゃまらは
黙ってきいた
おばあちゃまは何度も
妹に言った
「もういいんじゃない?
離婚して出ておいで」
「ねーちゃん離婚だなんて
でけへんよ
殺されてしまうわ」
「身体を悪くしたとか
何とでも理由付けて
我慢したらあかんよ」
「ねーちゃんありがとう
ええで、ねえちゃんに迷惑
かけられへんから
こうして実家として
時々お邪魔するから」
「邪魔なんかじゃないわ
救いなのは子供いないことよ
牢獄みたいな嫁ぎ先なんて
捨てて出ておいで」
火鉢を囲んで
2人で抱き合って泣いた日々
おばあちゃまは
何とか妹を引き寄せたかった
それでも迷惑かけまいと
妹はお義母さんやお義父さんの
介護を終えてやっと
三男の夫と二人になった
すると夫は自宅に外国の愛人を
連れ込み始めた
年頃は自分たちの娘に
間違われるほど
そしてアジア系の国のため
町でそんなに
目立つことも無かった
しかし徐々に
その浮気相手の家族までも
国から引き寄せ
おばあちゃまの妹は
本当に女中のように
なってしまった
ある日
愛人は子供ができた
三男の夫はさっそく
離婚してくれるのかと
安堵していたが
なんと離婚はまったく言い出さず
子供だけを
養子縁組するという始末
おばあちゃまは妹に
離婚しなさいと
再三言った
月日が流れ
生まれた子供に兄弟姉妹も増え
愛人とその家族も共に暮らし
おばあちゃまの妹は
耐えに耐えてた
そして
突然今日
脳梗塞で亡くなった
病院から電話が入る
おばあちゃまの妹の人生は
いったい何だったのか
ひさこーーーーっ
イヤよ!逝かないで!
ああああああ
おばあちゃまの声が
今も響く
★上記名刺記事が自己紹介です★フォロー返しません★フォロー気軽に自由に外してください★コメント返信遅いです★コメント削除する場合あります★スマホもパソコンも保護者らに時間制限で借りるのでフォローしても読み切れません
墨を落としたように
部屋は灯りをともしても
暗く冷たい
どんな励ましも
心に届くこともない
ボクは
ひさこさんの
かがってくれた
靴下を握りしめ
悲しさをかみころす
いつも穏やかな
おばあちゃまの姿が
痛々しいほど
悲しみに沈んでいた
「世界中探しても
肉親はひさこだけよ?
世界で2人きり
どうしたらいいの?」
「おばあちゃま!
あなたの家族も孫たちも
おりますよ」
「わたしだけ?わたしだけ何故?
こんなに幸福で生きてるなんて
申し訳ない申し訳ないの
わたしのわたしの妹を返して」
ボクはその様子を
ジッとみつめてた
それって「幸福」とは
呼ばないんだよね
戦後よく目の前で
仲間が亡くなり
自分だけ生きてることを
いけないことのように
悩み苦しむ人がいたように
取り残された人も
被害者なんだとボクは思ってる
それじゃまたあした
いつもありがとう